90億の神の御名

この世界のほんの些細なこと

ゴッサン

世間では「マッサン」というドラマが流行していたようですが、あのタイトルを耳にする度に思い出す女の子がいた。
その名はごっさん。
前の職場にいた素敵な女の子だ。

時々女子の集団の中にはファッションリーダー的な女の子が現れる。それは大概の場合、名実ともにみんなを率いるリーダー的な女の子が多いのだろうけれど、ごっさんはちょっと違う。
いつもニコニコして周りをたてるのが上手で決して出しゃばることはない。ファッションも派手ではないけれどいつも品の良いものを着ていて、持ち物も定番で良い物を少し持つ、髪の毛はいつもツヤツヤ、という本当に素敵な女の子だった。

ごっさんが持ってくればただのおにぎりでさえ「ええ!味噌を塗ったおにぎりなの?素敵!」とみんなが憧れ、彼女の実家の山形から送られてきたというさくらんぼや枝豆はまるでブランド品のように「すごく美味しい!こんなの初めて!」と讃えられ、彼女が「これはおすすめです」と言えば、みんながこぞって彼女と同じメイクアップケースやファンデーションを買う。

ごっさんはマチコという叔母さんと二人暮らしをしていた。女二人暮らしとなれば、有益な情報交換も盛んのようで、やれ、マチコが通販であれを買ったとか、こないだ食べたどこどこのお店が美味しいだとか、そんな情報もたくさん持っていた。
けれど決してそれを自慢気にひけらかすわけでもない。そのため余計にごっさん情報は信ぴょう性の高い有益な情報として、我々に神の示す道のように思われていたのである。

そんなごっさんからの教えの一つがグリーンカレーだった。
ある日、ごっさんが「これ、まめさんにあげますから作ってみてください」とグリーンカレーペーストをくれたのだ。カルディなどで160円くらいで売っていて、割と普通に手に入るものだ。

でも、そこにごっさんの厳かな説明が加わると、まるでそれが特別なもののように思える。
「これ、袋には一袋全部使うって書いてありますけど、全部使うと辛すぎます。ほんのちょっとでいいんです。具はうちの場合はピーマンと鶏肉だけです。あとは説明通りに作ってください。で、最後に市販の普通のカレールーをひとかけ入れるんです。ここが重要です。普通のカレールーをひとかけ。すごく美味しいです。うちではよく作るんです」

今でも、あの時のごっさんの説明口調をとても良く覚えている。
「最後に市販の普通のカレールーをひとかけです。ここが重要です」
その教えを思い出しながら昨日はグリーンカレーを作った。

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もう一つ、あれからずっと守り続けているごっさんの教えがある。

マチコとごっさんはショップチャンネルが好きでよく見ていたらしく「昨日マチコがあれを衝動買いしそうになりましたが必死で止めました」などという笑い話をよくしてくれた。
そんなショップチャンネルの商品の中にごっさんの絶対的おすすめがあった。
「ちょっと高いんですど、1回食べたらもう他のとは全然ちがうので、毎年楽しみにしているんです。1年に1回しか販売されないんです。来たら毎日朝半分、夜半分、すごく楽しみにして食べているんです。マンゴー好きなら絶対試して下さい」


とろける甘み タイ産フレッシュマンゴー グルメ・お酒 野菜/フルーツ フルーツ |通販・テレビショッピングのショップチャンネル

それはショップチャンネルのタイ産マンゴー。
確かに高い。でもあのごっさんが強くおすすめする商品だ。「毎日朝半分、夜半分、すごく楽しみにして特別なマンゴーを食べる」というごっさんの言葉はまるで映画のように素敵な生活のように思えた。
それでその年の販売を心待ちにして購入した。あれはもう6,7年前かしら・・・。

初めて買った時、興奮してmixiだったかに「ショップチャンネルのタイ産マンゴー注文したよ!」と書いたら、疎遠になっていた古い友達や知らない人、いろんな人から「私も毎年アレ買ってるの!」「すっごい美味しいよ!」「ああ、もうそんな時期?注文しなきゃ!」とすごい反応だったので「そんなに大人気商品だったのか、さすがごっさん」と余計にごっさんへの信頼が高まったものだ。
そしてあれからこの時期はソワソワと毎日ショップチャンネルのサイトをチェックするようになった。

ごっさんの教えを胸にグリーンカレーを作った翌日、まるで啓示のように今年のタイ産マンゴーの発売が開始されたので、早速注文してきた。
年に一度の大贅沢。
でも後悔はない。
だってごっさんのおすすめだから。ごっさんのおすすめに間違いはないから。