【互いを信じて任せあう】アジア最大の広告祭でアワードを獲得したADK流チームワークの築き方

アジア最大の広告祭「ADFEST 2015」でBRONZEを受賞した「3M / Scotch PAPER FASHION Kids」。3Mより発売されているスコッチのメンディングテープのキャンペーン用に制作され、親子で一緒に工作を楽しみ、夏の思い出を作ってもらおうと2014年7月1日から8月31日に公開されたウェブサイトだ。

同サイトでスカートやTシャツなど10種類のアイテムから作りたいものを選択したあとは、”声”でデザイン。そのデザインが反映された型紙をプリントアウトしてハサミやカッターで切り取って、スコッチのメンディングテープで貼り合わせることで、子どもが実際に着用できるファッションアイテムを簡単に作れるという斬新なアイディアが話題を呼んだ。

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同プロジェクトを企画したのは、広告会社の株式会社アサツーディ・ケイに所属するクリエイティブディレクターの金子雄太さんとアートディレクターの武井哲史さん。衣装デザインは、ヨコハマ・パラトリエンナーレなど数々の舞台衣装を手掛けている武田久美子さんが担当した。個性豊かな3人のチームワークはよく、顔を合わせると自然と笑みがこぼれてくる。

「これまでにない新しいもの」を常に求め続ける一方で、予算やスケジュールなどの制約も多い広告業界。アイディアの絞り出し方や、チークワークの発揮の仕方についてお聞きした。

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向かって左から金子雄太さん、武田久美子さん、武井哲史さん

行き詰まりを感じるなかで絞り出したアイディア

―ADFEST、NYフェス、電通デジタル賞など今年度のアワードを次々と受賞しているプロジェクト「3M / Scotch PAPER FASHION Kids」ですが、どのように生まれたのでしょう?

金子雄太さん(以下、金子) 「夏休みの時期に子供たちに文房具を使ってもらいたい」というクライアント(スリーエム ジャパン社)の要望に沿って、「工作をテーマにコミュニケーションしていきましょう」と僕らから提案させていただきました。

2012年はダンボールやペットボトルなど家にあるさまざまなものを使って作れる工作コンテンツを夏休みの期間毎日映像で紹介する“工作番組”サイトを作りました。2013年は子どもたちが工作したいと思ったものを検索すると、ペーパークラフトの型紙をダウンロードできる“工作の検索”サイトを作りました。300種類を用意して反響もよく、CODE AWARDではグッドエフェクティブ賞を、ADFESTではファイナリストに入りました。

それで3年目となる2014年、正直なところ行き詰まってしまいました。武井と二人で焼肉店へ行ってブレストするなか、「紙で洋服が作れたら面白いんじゃないか」というアイディアを武井が口にして、ならば子供が直感的に楽しめる仕掛けを何かデジタルを使ってできたらよいよね、という話になったんです。

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―型紙のデザインで苦労した点や工夫した点は?

武井哲史さん(以下、武井) もともと、親が子どもの写真を撮ってフェイスブックやインスタグラムなどのSNSにシェアする行為がアイディアのきっかけでもあったので、実際に着用できること、そして洋服として魅力的なものを作りたいと思いました。それで以前、一緒に仕事をさせていただいたことのある衣装デザイナーの武田さんに型紙のデザインをお願いしたんです。

武田久美子さん(以下、武田) お話を伺って、「面白そう!」とすぐに受けることにしたのですが、いざパターンをおこそうとすると、布で縫製する場合とかなり勝手が違い、工夫が必要でした。布だと伸び縮みするので、ある程度は融通がきくのですが、紙だと直に貼り合わせなくてはならず、その自由がききません。その問題を解決するために、何度も検証しました。

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―声でデザインする発想はどこからきたのでしょうか?

金子 「紙で作る子ども服」というコアアイディアに、さらに子どもたちが楽しく参加でき、且つメディアが取り上げたくなる新しい仕掛けを付加したいと考えていました。デジタルの制作チームとブレストする中で「洋服のデザインを、声を使ってできたら面白いよね」という話になったのです。

武井 もともとデジタル上で広めることを目的に企画を考えたので、「アナログだけでは絶対にできない、デジタルならではの発想って一体なんだろう」と考えていくと、最終的に声のデザインにたどりつきました。模様となる花や線のパターンが声によってどう変わるかがわからなかったので、何回もテストしたんですが、これが結構大変でした。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

役割の線引きをはっきりしたら、あとは信じて任せる

―制作していくなかで喧嘩はなかったんですか? よいチームワークを築くコツは?

金子 喧嘩はないですが、”バチバチ”というのは、しょっちゅうありました。武井がちょっと怒って、最後はいなくなるパターン(笑)。

武井 怒ってないよ!(笑)まじめな話、部屋を出るのは、全体のアートディレクションやデザインが決まった段階で、金子や武田さんとやるときは任せたほうがいいと思っていましたので。

金子 僕と武井は、社歴が1年違うんですが、年齢は同じなんです。武井はクリエイティブ出身で、僕はプロモーションやデジタル出身なのもあってか価値観も守備範囲も違うので、お互いの意見が合わないときというのは当然あります。面白くないものは面白くないし、納得いかないものは納得いかないので、そこでバチバチするというのはありますね。ただ、武井はアートディレクターとして、「クラフトとしてどうよくなるか」というところに専念し、僕はコミュニケーション全体を見るディレクターとして、表現そのものだけでなく、消費者がそのコンテンツや情報に触れたときの感じ方やそれがどう流通していくか、そしてそれがクライアントの課題をきちんと解決できているかなどさまざまな視点を持って見るので、そこがそもそも違うんです。また、武井とは3年間ずっとやっていて信頼しているので、「こいつのいうことは尊重しよう」と思っていました。

武井 僕も、金子のクリエイティブディレクター的な視点に関しては、バチバチやったとしても最終的には任せようと思っています。役職によってどちらが最終的にジャッジするかという線引きが割とできているのかなと。あと、金子が制作以外のことを含めて、割としっかりやってくれるので、一番はじめの企画と、デザインのルールさえ決めてしまえば、あとは大丈夫だろうという気持ちはありました。武田さんに関しても仕事を一緒にしてみて、しっかり最後まで責任を果たしてくださる方だというのは存じていたので。

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―ADFESTなど広告賞を受賞されたときのお気持ちはいかがでしたか?

金子 昨年もADFESTやNYフェスはエントリーしていて、ADFESTに関して言えばファイナリスト止まりだったので、今年受賞が決まった際はうれしかったです。チームとしてやってきたことの結果が出せたことは本当によかったと思います。

武井 広告の仕事は、どんなにいい内容であっても、その期間が終わると何も残らないことが多いので、記録としてみんなで名前を残せたことはうれしいです。

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制約があるなかでヒトやモノの動かし方を考えるのが広告の仕事

―メディアの多様化や予算不足など、広告業界を取り巻く環境も激変していますが、みなさんにとっての仕事のやりがいとは?

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武井 アートディレクターだった父親を見ながら育ったので、自分のアイディアで世の中を動かしてみたいという興味はもともと強いほうでした。また、大学生の頃、佐藤可士和さんが出てきたりして、アートディレクションの仕事自体が絵を作るだけの仕事から解決策まで作る仕事へと変わった時代でもありました。その影響を僕はもろに受けているので、自分が作った絵を出す喜びより、自分のアイデアによって流通や人の動きを変えられる喜びのほうが強いんですね。使える予算やメディアの規模も仕事によって違いますが、いつも根っこにあるのは、その状況によって一番いい解決策を見いだせるかということ。プロジェクトの規模や予算の大小で面白さが変わるということはありません。

金子 自分たちが出したアイデアやソリューションが必ずしも正解とは限らないし、もしかしたら違う正解があったのかもしれないというのもこの仕事の面白さです。「1+1はきっと2じゃない」という感覚というか、数学と違って答えが必ずしも定まっていないところが一番やりがいを感じるかな。課題や予算やスケジュールといった制約があるなか、どうやってヒトやモノを動かせるかを考えるのが広告やコミュニケーションであって、もし仮に、自由に何でもいいから表現してくれと言われたら、僕はアーティストでも表現者でもないから、きっとできないと思います。

僕にとって信頼できる人とは、自分なりの視点を持っていて、逃げない人たち。「80パーセントできたから、この辺でいいよね」というのではなく、100パーセント以上を目指したいという意識をもった人間同士じゃないと、どう掛け合わせても100パーセントにはならないので、信頼できる人と仕事をしたい。クライアントのお金をもらって、ビジネスとして広告を制作している限り、クライアントのニーズを満たさないと意味がないですし、中途半端なことはしたくないです。

武田 私は衣装の仕事がやっぱり好きだという気持ちだけで動いています。縫製だけでなくデザインができる就職先を見つけるのが難しいとか、受け皿が小さいとか、確かにあるんですけど、この道に進もうと思ったときから、不思議と怖れはありません。私はもともと広告や本の装丁をデザインする人になりたかったんですが、大学試験で受かったのが、テキスタイルデザイン科で、入学してから「布と戯れるところなんだ」と知ったほど、最初は知識がゼロの状態でした。でも、やってみると、布で表現する面白さがわかって、どんどん夢中になりました。この道に進もうと思った一番のきっかけは、多摩美のテキスタイルパフォーマンスで、劇団関係の方に「衣装を作ってくれませんか」と声をかけられたこと。以来、ずっとフリーランスで働いています。

企業に勤めているわけではないので、いつもは一人で黙々とマイペースでやる作業が多いのですが、今回は自分だけではなく他の人とチームとしての関わりがあったぶん、余計に「迷惑をかけられない」と思いました。あとは衣装デザインを任せてもらっていたぶん、中途半端なものは 出せないなという意識も強かったです。 「金子さんと武井さんを喜ばせたい」とまでは言いませんが(笑)、出したものに対して「いいじゃん」と言われると、とにかく嬉しかった。 絶対いいものにしてやろう という気持ちは常にあった気がします。

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取材・文=山葵夕子  写真=ヒダキトモコ

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