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「CES」で脚光… 電機・自動車業界、変革の起爆剤にAI

物理AI ロボで開発進む

【米ラスベガス=森下晃行、川口拓洋】日々刻々と変わる技術トレンドだが、米国で開催中のCESで脚光を浴びているのが人工知能(AI)だ。データを学習することで過去の傾向から未来を予測したり、人間の能力を拡張したりする。人は雑務から開放され、人間にしかできない領域に専念できる。この技術を積極的に導入しているのが電機や自動車業界。変革の波に対応するための起爆剤と位置付ける。

CES会場ではありとあらゆる企業のブースで「AI」という言葉を見かける。米国時間6日の米エヌビディア基調講演に報道関係者が殺到したことからも企業や来場者の関心の高さがうかがえる。

エヌビディアは物理的な機構とAIを組み合わせた「物理AI」の重要性を訴えた。例えば人型ロボットにAIを搭載すれば機械に任せられる作業の幅は今まで以上に広がる。

同社が7日に発表したAI開発プラットフォーム(基盤)「Cosmos(コスモス)」もロボティクスなどの分野で物理AIの開発を加速させる技術だ。シミュレーションを通じてAIが現実世界の物理法則を理解できるようにする。他社も使うことができ、一部の企業には既に提供している。

健康的な生活「対話型」が支援

電機メーカーもテレビや冷蔵庫といった従来型の家電ではなくAIによる価値の提供を訴求する。韓国LGエレクトロニクスは展示ブースで、個人や家族に最適化したAIによる便利な生活のイメージ映像を半円形巨大ディスプレーで流し、スマート家電との連携やモビリティー向け基盤を紹介した。韓国サムスン電子や中国ハイセンスもAI製品や技術をアピールする。

パナHDは家庭向けウェルネス(心身の幸福)サービス「Umi(ウミ)」を紹介

日本勢も同様だ。パナソニックホールディングス(HD)はブースで家庭向けのウェルネス(心身の幸福)サービス「Umi(ウミ)」を紹介。対話型生成AIが利用者やその家族の生活習慣を把握し、健康的な生活を送れるようさまざまな提案をしてくれるサービスを米国で展開。楠見雄規社長は「AIエンジンが家族のデータを参照しながら最適な答えを出していく」と説明する。日立製作所はコールセンター業務や書類作成などを生成AIで効率化する技術群を紹介した。

一方、やや毛色が異なるのがソニーグループだ。ブースに“AI色”はほとんどなく、注力するエンタテイメント事業を象徴する知的財産(IP)コンテンツや、クリエーター向けの映像制作ソリューションなどを展示した。

荒野や河川を走る車両の映像を従来より簡単に制作できるソリューション「PXO AKIRA(アキラ)」などがCESで初めて披露した技術だ。ソニーの担当者は「天候や道路の状況に左右されずに映像コンテンツを作れる」と利便性を説明する。

ニコンは三菱ふそうトラック・バスと車載カメラを共同開発した

ニコンも車両関係の技術を展示した。三菱ふそうトラック・バスと共同開発した車載カメラは望遠レンズと広角レンズを一体化した製品。車両周辺の情報を画像認識する際に「遠近の切り替えで認識ミスが生じることがある」(ニコンの担当者)ためリスク低減に活用できる。ブースでは来場者に運転中のトラックドライバーの目線を再現した仮想現実(VR)を体験してもらい、必要性を訴えた。

車の進化“人に寄り添う”

まもなく自動車は「モビリティー」へと進化する。自動車業界が他産業との協力関係を強化しながら、次なるステージに移行しようとしている。代表されるのがAIをはじめとしたデジタル技術。これを取り込み、ヒト・モノ・情報に関するデータの活用を促進。車自身が考え、提案、案内し利用者に寄り添う世界が迫っている。「運転する」「移動する」「楽しむ」という車の価値に加わるモノとは何か―。

ホンダ「0シリーズ」の内装

ホンダは、新電気自動車(EV)「0シリーズ」に属する2車種を世界初公開した。特徴はさまざまな次世代技術を搭載すること。スマートフォンのように無線通信でソフトウエアを更新する技術「オーバー・ジ・エアー(OTA)」により車を改良し続けることが可能で、ソフトウエア定義車両(SDV)としての展開を想定する。

あわせて、このソフトによるアップデート機能を最大化するため独自の車両OS(基本ソフト)「アシモOS」も開発。車両制御から車内エンターテインメントまでさまざまなソフトをOS上に展開し、機能を選択・拡充できる。

こうした事業モデルで先行するのは、米テスラや中国新興メーカーだ。特にテスラは完全自動運転の実現に向けたデータ収集やソフト開発で強みを持つ。中国メーカーはゲームや動画が楽しめる車内空間に力を入れている。新しい体験に加えて移動もできることが魅力となっており、各社それぞれの「色」が付いた車載OSが登場している。今後、スマホ同様にOSの主導権争いが車の販売台数に影響する可能性もある。

テスラのサイバートラック

このデジタル技術と車の融合において、ホンダは開発をスピーディーにするためにアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)とも連携。クラウドなど仮想空間上で開発期間の短縮などを図る。また、開発分野だけでなく実際の車の利用体験を向上するために「自動運転はもちろん、生成AIを活用しユーザーの好みを把握できる。充電中の時間を好みの体験にしてもらえるかなどの機能を実現する」(ホンダの担当者)と意気込む。

ホンダのEV0シリーズの開発者も「あくまでも人が中心」と言い切る。新EVは多様な新機能を付随するが、デジタル技術を搭載した車は「車と人がともに成長することを目指す」と語る。ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長も同様の考えを示す。同社初のEV「アフィーラ1」を「完成したモノがほしい人には向いてない車」と評する。車と人が寄り添うことを目指す。

部品、カメラの危機回避機能高める

このような機能を目指す自動車メーカーの意向をくみ、部品メーカーでも車と人のコミュニケーションを意識したユニットやシステムの開発が進む。韓国のヒョンデモービスは、カメラやセンサーで急カーブなど集中すべき場所やストレスが高まり呼吸が早くなるなどを示す機能を模索する。同社の説明員は「危険から安全な場所に導いてくれるもの」と語る。独ロバート・ボッシュでモビリティー事業に携わる開発者も車内カメラやセンサーで、運転者を検知し、眠気などの危険から守る機能を開発する。

ストレスなどを検知し、人にやさしくサポートするヒョンデモービスのシステム

程度の差はあれ、各社の目指す方向性が見えてきた。車の進化の方向は人に寄り添う家庭用ロボットのような、ペットのような、新たな家族の面を持ち始めるのかもしれない。

日刊工業新聞 2025年01月09日

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探訪「CES2025」
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世界最大のテクノロジー見本市「CES2025」が7日(日本時間8日未明)、米ラスベガスで開幕します。世界から約4500以上の企業や団体が出展し、最先端の技術や製品を披露するCESの模様を現地からお伝えします。

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