少数与党で船出した石破茂首相。11月にペルーで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議では、新参者の首相が座ったまま各国首脳の挨拶を受けるなど所作の悪さが目立ったが、飛び火で批判を浴びたのが、会議で「シェルパ」と呼ばれる首相の後見役を務めた赤堀毅外務審議官だ。
「シェルパ」は「登山者の案内人」の意味があり、国際会議で首相に代わって議題の整理などを行う役柄だ。実際の会議では首相の真後ろに座り、必要に応じてサポートを担う。
今回のAPECでは、外交経験の乏しい石破首相が会議の休憩時間にスマートフォンをいじり続けていたり、挨拶に訪れたカナダのトルドー首相に座ったまま握手したりした。しかし、赤堀氏はこの間、首相の後ろに座ったままで、適切なアドバイスを一切しなかった。
この様子は民放番組が大々的に報道。石破首相には与野党から「非礼だ」などの激しい批判がわき起こったが、赤堀氏にも「国益がかかる舞台で、なぜ首相に諫言しなかったのか」(自民党幹部)などの指摘が寄せられた。複数の関係者によると、岩屋毅外相は赤堀氏が帰国した後、個別に呼び出して叱責したという。
しかし、外務省幹部は声を潜めてこう語る。
「休憩時間は各国の首脳同士が個別に懸案を話し合う緊迫した場だ。こんなところで役人側から挨拶の必要性など、恥ずかしいことをアドバイスできるわけがない」
振り返ると、安倍晋三元首相や岸田文雄前首相は、国際会議の休憩時間に積極的に動き、各国首脳と個別の信頼関係を築いていった。対照的に、基本的な挨拶もままならない石破首相には、役人側も簡単には手足が出せないということか。外務省側には、これまで経験したことがないようなフラストレーションがたまりつつある。