熊本大学は9月27日、認知症が疑われ、同大学病院の認知症専門外来に訪れた446名の患者についての調査研究を行ったところ、約1.6%にあたる7名は認知症ではなく、高齢によって顕在化した発達障害の1つである「注意欠陥多動性障害(ADHD)」であったことを確認したと発表した。

同成果は、熊本大病院 神経精神科の佐々木博之特任助教、同・大学大学院 生命科学研究部 神経精神医学講座の竹林実教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、精神疾患の予防や診断などに関する全般を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「BMC Psychiatry」に掲載された。

研究チームはこれまでの研究にて、高齢者において認知症のように誤診されうる発達障害患者を見出し、症例報告を行っていた。その症例では、これまで日常生活でそれほど大きな支障がなかった60歳前後の会社員が、徐々に物忘れや不注意が目立つようになり、認知症を疑われて認知症専門外来を受診。詳細な検査や検証の結果、認知症ではなく、加齢により顕在化したADHDと診断されたとするほか、ADHDの薬物療法を実施した後は物忘れや不注意の症状が改善し、復職することができたとしている。

この例からもわかるように、発達障害と認知症では、治療薬や予後が異なるため、発達障害と認知症の鑑別をすることの意義は大きいと考えられている。

そこで研究チームは今回、これまでの知見を含め、高齢者において認知症のように誤診されうる発達障害患者がどの程度存在するのかを明らかにすることを目的に、同大学病院 認知症専門外来を認知症の疑いで受診した446名を対象とした調査研究を行うことにしたという。

具体的には、患者を認知症を専門とする医師が診察して認知症の有無を見極め、認知症が否定的とされた患者を発達障害を専門とする医師が評価するという方法を採用。その結果、約1.6%にあたる7名が後天的に顕在化したADHDであったことが判明したという。

  • 今回の446名の受診患者の病態内訳

    今回の446名の受診患者の病態内訳 (出所:熊本大プレスリリースPDF)

この結果から、先天的な疾患と考えられている発達障害が、加齢によって後天的に顕在化する可能性が示されたとことを意味するほか、実際に認知症と誤診されうる発達障害の高齢患者の約半数は、ADHDの治療薬で効果が出たことも確認されたと研究チームでは説明する。

これらの結果は、認知症と誤診されうるADHDの患者は決して稀ではないということ、また適切な治療を行えば高い確率で回復が可能であることを示すもので、研究チームでは今後、さらに大規模な調査を実施して有病率を明らかにし、認知症に誤診されうる発達障害患者の存在を社会へ啓蒙することが必要だとの考え方を示しているほか、高齢者の発達障害を適切にかつ簡便に鑑別するツールの開発も急務としている。