ベネッセコーポレーションは8月4日、オンラインでメディアセミナーを開催し、社会人約3万5000人を対象に「 社会人の学びに関する意識調査 2022」と同社が国内企業への販売を行うオンライン動画学習サービス「Udemy Business」を用いてリスキリングに取り組む国内企業800社の受講トレンドの分析結果を発表した。

3万5000人を対象に実施した社会人の「学び」の調査

同調査は、全国18~64歳の男女(学生を除く)3万5508人を対象に3月18日~3月22日の期間で行った。これによると、日本国内では社会人の学びへの意識が低く、学びのきっかけとして現業との関連性(仕事で必要、会社に求められる)などが必要と考えていることが判明した。

ベネッセコーポレーション 社会人教育事業部 部長(Udemy日本事業責任者)の飯田智紀氏は現状認識として「コロナ前からの働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)がコロナ禍において進展し、現在はこれらにGX(グリーントランスフォーメーション)、SX(サステナビリティトランスメーメーション)、自律型人材、リスキリング、人的資本経営が加わっている」と話す。

  • ベネッセコーポレーション 社会人教育事業部 部長(Udemy日本事業責任者)の飯田智紀氏

    ベネッセコーポレーション 社会人教育事業部 部長(Udemy日本事業責任者)の飯田智紀氏

そのうえで同氏は「これらのキーワードは互いに密接につながっており、その中でもリスキリング=学びの重要性が増し、人材育成戦略の見直しが求められている。リスキリングとは学び直しではなく、現状のスキルを磨き続けながら新しいスキルを身に付けることであり、特にデジタルに関連したものを“学び足す”という意味合いが強い」と説明する。

社会人の41.3%が学ぶ必然性を感じていない

国内における社会人学習者の状況を調査した結果、41.3%が社会人になって以降、学習した経験がないほか、今後1年以内にも学習するつもりはないと回答し、学ぶ必然性を感じられていない「なんで学ぶの」層に該当することがわかった。

同社では学習状況を4つのセグメントに分類しており、なんで学ぶの層が41.3%だったことに対し、「学んでいます層」(社会人になって学習したことがあり、これからも学びたいと思う層)が33.6%、「学ぶつもり層」(社会人になって学習したことはないが、これから学びたいと思う層)が13.5%、「学ぶの疲れた層」(社会人になって学習したことがあるが、これからは学びたいと思わない層)が11.5%となった。

  • 学習状況の4つのセグメント

    学習状況の4つのセグメント

また「学習意向」と「仕事への意識」には関連性がみられ、学習意欲別に比較すると特に「特定の分野の専門性を磨きたい」、「新しい仕事に挑戦し続けたい」、「仕事を通して成長し続けたい」といった項目で意識の違いがみられた。このことから社会人の学びの促進において、仕事やキャリアアップへの意欲喚起も重要だと考えられる。

なんで学ぶの層が「学ぶのに必要なきっかけ」のTOP5は、1位「仕事で必要になる」(37.5%)、2位「お金に余裕ができる」(36.3%)、3位「達成したい目的がみつかる」(30.3%)、4位「時間ができる」(28.9%)、5位「職場から求められる」(22.2%)だった。この結果から、国内のリスキリング推進には、企業や組織が一体となったアプローチが有効なことがうかがえるという。

  • なんで学ぶの層における学ぶきっかけのグラフ

    なんで学ぶの層における学ぶきっかけのグラフ

「ITを作る人」はスキルの高度化を望んでいる

一方、Udemy Businessを導入する国内800社の2022年上半期(1月1日~6月30日)に受講された人気講座TOP10のうち8講座がDXおよびIT関連の講座となった。

Udemyは、米国のEdTechスタートアップでベネッセとは2015年に業務提携を発表。個人(CtoC)同士で学び、教える学習プラットフォーム「Udemy」のユーザーは5200万人に達しており、法人向けのUdemy Businessは2019年に提供開始した。

コンテンツは現役のエンジニアやビジネスパーソン、大学講師など実務家講師が現場実務で培ったノウハウを講座化しており、Udemyの講座から法人向けに合った講座は7300(日本語1000以上)にのぼる。

  • 「Udemy」と「Udemy Business」の概要

    「Udemy」と「Udemy Business」の概要

今回の調査結果によると、現在の国内リスキリングの主流はDXであり、エンジニアなど「ITを作る人」に限らず、社会人の大多数を占める文系職を中心とした「ITを使う人」のリスキリングも加速していることがわかった。

飯田氏は「リスキリングは企業主導であり、経営課題解決のための打ち手として企業が選択しなければならない経営的戦略であることから、重要なものだ。また、ITを使う人はリテラシーの向上、作る人はスキルの高度化がトレンドとなっている」と説明した。

ITを作る人の業界別傾向として、SIer・ソフトウェア開発は業界全体としてオープン系・Web系サービスの開発に移行が進んでおり、AWS(Amazon Web Services)などクラウド技術をエンジニア社員が学んでいる。

自動車・輸送用機器では、自動運転などAIをはじめとした最先端技術の向上を目的とした社員のリスキルが推進されている一方で、まずはExcel VBAでの業務効率化からリスキルを始める企業など各社で状況は異なっている。

輸送・ロジスティック(物流)は、配達員の業務効率化につながるAI技術の導入などを目的としたリスキルのためAIやプログラミング言語であるPython関連の講座が上位を占めている。

コンサルティングでは主に新入社員研修として、データベースや統計学、Excelといったデータ分析関連の講座が上位となっており、ビッグデータの解析技術による提案力向上や要件定義までできる「ITを作る」レベルのコンサルタントの育成が業績に直結するという。

  • 「ITを作る人」のリスキルが主要な業界(色付きの囲いはDX関連の講座)

    「ITを作る人」のリスキルが主要な業界(色付きの囲いはDX関連の講座)

「ITを使う人」はリテラシーの向上が加速

一方、ITを使う人の業界別傾向は銀行・証券が若手のITリテラシー育成を中心にリスキルが進行し、ITパスポート資格は「ITのTOEIC」的位置づけで入社時などに取得を推奨され始めていることに加え、地銀では専門的なスキル習得で地域における中小企業のIT化などの支援につなげようという動きがある。

広告・放送・新聞は、デジタルマーケやWebデザインなど新たな知識を必要とする仕事が増加し、個人の自己研鑽に任せず、企業として学習環境を提供し始めるところが多い。現状は、業務ですぐに使えるExcelなどITリテラシー関連が広く受講されているが、一部の専門的な業務に関わる社員高度なITスキルを学習し始めている。

不動産は、ビジネスモデルの進化としてオフィスビルの入居者への付帯サービスの提供など、顧客接点のDXをはじめ全社的なDXを実施する企業が増えている。ITリテラシーの育成を中心にリスキルが進行しており、金融業界と同じく、ITパスポート資格の取得を推奨している。

総合商社は、マイクロソフトが提供するデータ可視化ツール「Power BI」」に関する講座がトップ。ある商社では、ExcelからからPower BIに標準ツールを全社的に移行し、即座にデータを可視化することで顧客との企画検討や意思決定のスピードを高めることが可能になっているほか、上位にビジネス系が多いのは階層別研修での導入が多いためだという。

  • 「ITを使う人」のリスキルが主要な業界(色付きの囲いはDX関連の講座)

    「ITを使う人」のリスキルが主要な業界(色付きの囲いはDX関連の講座)

飯田氏は最後に「リスキルは企業主導と従来のスキルをより活かすとともに、+αのスキル取得だ。また、ITを作る人もITを使う人もデジタルスキルの高度化・底上げが必須であり、企業が人材育成に積極投資することが学ばない大人を変えるきっかけになる。企業も個人も学び続けることが選ばれ続ける秘訣だ」とまとめていた。