高知工業高等専門学校(高知高専)、東京大学地震研究所(東大地震研)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、情報通信研究機構(NICT)および日立造船は12月16日、準天頂衛星初号機「みちびき」と技術試験衛星VIII型「きく8号」を用いたGPS津波計からのデータ伝送実験を開始したことを発表した。
同実験は、高知県室戸沖に設置しているGPS津波計(高知県の黒潮牧場16号ブイ)で津波や波浪を観測するために必要なデータを準天頂衛星初号機「みちびき」を用いて送り、観測結果を技術試験衛星VIII型「きく8号」を用いて陸上に伝送しようというもの。
GPS津波計は、宇宙技術を用いた海面変異計測装置で、東日本大震災発生時は15基が配備されており、釜石沖のリアルタイム観測データが6.7mを示したことなど、複数のデータを根拠に気象庁は津波警報を引き上げるなどが行われていたが、その第1波の観測データを発信した後、被災地域の大規模停電の影響から通信網が寸断され、それ以降のリアルタイムデータの発信が行えなくなっていた(観測データそのものは、高台に設置された基準局のバックアップ電源により、完全な形の津波波形として記録されている)。
今回の実験は、そうしたGPS津波計の沖合展開と通信網の寸断に対応することを目的としたGPS測位法の改善と、発生した地震や津波による被害のない地域への津波データの伝送を実現しようというもの。すでにGPSの測位法にめどは立っており、今回は主にデータ伝送の方法の確立を目指した取り組みが行われることとなる。
具体的には、洋上のGPSブイのGPS観測データだけで津波・潮汐を観測できるようにするといった課題は、これまでの研究から、すでに周期30秒程度までの短周期の波浪について解決がなされているが、長周期の津波・潮汐の観測には、新たな技術が必要となることから、今回、国土地理院が全国に約1200カ所展開している電子基準点を用いてGPS衛星の位置と時計を正確に求め、この伝送負担の小さいデータをブイで計測するGPSデータに適用して測位する「PPP-AR(Precise Point Positioning with Ambiguity Resolution)」を活用することで、海面の鉛直方向変位を求めていくことを可能とした。ただし、同方法を適用するには、伝送量が少ないながらもGPSブイにGPS衛星の精密暦(軌道と時計)を送る必要があることから、「みちびき」の活用が考えられたとする。
実際の実験では、「みちびき」から伝送された精密暦は、ブイ上でPPP-ARによる測位結果として、津波、波浪、潮汐のデータが出力され、その結果が、「きく8号」を経由して陸上に伝送されることとなる。
なお今回の実験により、星回線を用いたデータ伝送手段が確保できれば、衛星のサービスエリアの範囲内で離岸距離の制限無く大洋のいずれの位置にもGPS津波計を設置することが可能になるため、東日本大震災によって提起された課題の克服が可能になるという。