“闘うフリーター”として知られる総合格闘家の所英男さん。逆境に負けずに試合に挑むひたむきで実直な強さが印象的な英男さんですが、妻・ななさんは、PNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)という日本でわずか1,121人 *1)の難病とたたかっています。結婚して14年、お互いに支え合いながら過ごしてきたお二人に、PNHと診断されるまでの経緯や、病気との向き合い方についてお話をうかがいました。

お互い補い、助け合う。
夫婦で築いた14年

お二人が出会ったのは、英男さんがアルバイト時代を乗り越え格闘家として活躍、テレビでも試合が放送され始めた頃。ななさんは当時、放送作家として活動しており、共通の知人の紹介で知り合ったそうです。

「合宿の打ち上げで初めて会ったんですが、可愛らしい人だなと思いました」と、英男さんは当時を振り返りながら、少し照れくさそうに語ります。

一方、ななさんは「格闘技にはあまり興味がなかったんですが、所英男の名前は知っていました。寡黙なイメージがあったけど、話してみると意外と明るくて、よく喋る人だなと思いましたね」と話します。

その後、仕事で再会したことをきっかけに距離が縮まり、英男さんの猛アタックが実って結婚。夫婦としてだけでなく、ジムの経営というビジネスパートナーとして、二人三脚で支え合ってきました。

英男さん:
「ジムの経営は、妻に任せっぱなしで…。内装デザインからシステム作りまで、すごく頼りにしています」

ななさんも、夫婦での役割分担がジム経営にもつながっていると話します。

ななさん:
「夫が現場で、私は運営。役割分担がしっかりできているから、ジムの経営もここまで続けられました。夫婦として、お互い足りない部分を補い合いながら、助け合って生活してきたからこそ、いろんなことを乗り越えられてきたと思っています」

夫婦として支え合う日々を重ねる中、ななさんは2016年に男児を出産しました。産後の検査をきっかけに、希少疾患「PNH」と診断され、現在も治療を続けながら日常生活を送っています。

「ただの貧血」と思っていた体調不良から、病名がわかるまで

小学生の頃から貧血気味だったものの、体力には自信があったというななさん。PNHだとわかったのは出産がきっかけでした。

ななさん:
「学生時代、貧血気味だったり、テスト中にお腹がいたくてトイレでうずくまったりすることがありました。放送作家として働くようになってからも、貧血や頭痛、だるさを感じることはありましたが“ただの貧血だろう”と、病気を疑うことはありませんでした。一度、生放送中に突然廊下で倒れてしまうことがあったのですが、そのときも“過労のせいかな”と思って、忙しさにかまけて検査は行いませんでした。

30代前半に真っ黒の尿が出た時は、さすがに驚いてすぐに近所の病院へ行きましたが、原因不明で経過観察に。その頃も仕事が忙しく、そのまま放置してしまいました。今振り返ると、あの時、大きな病院でちゃんと検査を受けるべきだったなと思います」

診断のきっかけになったのは、産後。LDH(乳酸脱水素酵素)の数値が通常の10倍程度から下がらず、婦人科や消化器内科などで検査をしても原因が分からず不安な日々が続いたそうです。

ななさん:
「インターネットで調べると『余命数か月の病気』といった情報も飛び込んできて、不安で病院のベッドで毎晩泣いて過ごしていました。原因が分からないまま退院を迎えたのですが、そのまま生きていくのが不安で、当時の先生に他にどの診療科を受診したら良いのか相談していました。『他に行くとしたら、血液内科』と言われて、最後に受診したのが血液内科でした。」

数か月間、さまざまな診療科の検査を受け、血液内科ではすぐにPNHと診断されました。

ななさん:
「ショックというよりホッとしました。検査を繰り返し不安な日々を過ごしていたので、病名が判明し、治療法もあると聞いて、ようやく安心できました。妊娠・出産をしていなければ病気に気づくこともなかったかもしれません。息子が教えてくれたんだと思います」

PNHとはどんな病気? *2)

PNHとは、血液の中で、壊れやすい異常な赤血球がつくられてしまう病気です。PNHの赤血球は、通常の赤血球膜上にある「補体 *」の働きを抑えるたんぱく質(補体制御タンパク)が欠けています。そのため、本来は身体を守る役割である「補体」に、自分の赤血球が誤って攻撃され、赤血球が壊れてしまいます。これを「溶血(ようけつ)」といいます。
*補体…細菌などから身体を守るためのたんぱく質

「溶血」が起きると、赤血球に含まれるヘモグロビンが不足し酸素を全身へ運ぶ力が弱まります。その結果、疲労感やだるさなどの貧血のような症状が現れたり、肺や腎臓の障害、血栓症といった合併症を起こしたりすることがあります。

国内患者数はわずか1,121人と、非常にまれな慢性の病気で、治療が難しいため国の難病に指定されています。

症状は疲れやすい、脱力感、めまい、腹痛、茶褐色(コーラ色)の尿など、ほかのさまざまな病気でもみとめられる症状と似ていたり、人によって症状が異なっていたりするため、診断が難しく、進行もわかりにくい病気といわれています。

一方、最近ではPNHについて多くのことが解明され、治療法も進歩し、PNHをコントロールできるようになってきました。

PNHを知る
症状・治療・サポートについて

病気を忘れさせてくれる、夫の明るさ

(PNHと診断された後にご家族で撮影されたお写真)

ななさんがPNH だとわかった時、英男さんは、どのような気持ちだったのでしょうか。

英男さん:
「原因がわからず不安でしたが、病名がわかって安心しましたね。難病だと聞いた時はビックリしましたが、まだどこか他人事のようでした。当時は100万人に数人の難病と聞いたので、不謹慎かもしれないけれど、“宝くじ買ったら当たるかもしれないね”と、くだらないことしか言えませんでした」

ななさん:
「そんな冗談を言って、私の気持ちを紛らわせてくれていたんですよね。夫は、私が病気であることを忘れさせてくれるくらい、いつも明るくて前向き。そんな夫のおかげで、早い段階で病気を受け入れることができました。今では、PNHは私にとっての日常。くよくよしても仕方がないですし、私の場合、治療を受けながら普段通りに生活もできる。無理のない範囲で、仕事をしたり、旅行に出かけたり、と楽しみをつくりながら日々過ごしています」

支えるつもりが、支えられていた

現在、ななさんは、仕事・子育て・家事をしながら治療を続けています。英男さんは「病気は、格闘技のように気合で乗り越えられるものではない」と話し、そばに寄り添うことを大切にしてきました。つい頑張りすぎてしまうななさんに対して、休むよう声をかけ、家事や育児を担うこともあるそうです。

英男さん:
「僕が支えているつもりが、実はいつも僕の方が励まされている。格闘家を20年続けてきて、正直、体力的にも限界に近づいていますし、メンタルも弱くなってしまう時があります。でも、妻が病気と向き合う姿に励まされ、試合に挑もうとパワーをもらうんです」

ななさん自身も、そばで支えてくれる夫の存在が大きいと話します。

ななさん:
「PNHの症状はだるさ、肩こり、頭痛、など本人以外にはわかりづらいことが多いんです。だからこそ、体調が悪い、今日は疲れているなど、不安や弱音を伝えられる存在がそばにいることに、とても救われます。夫は格闘家として勝率は約5割と、負けた経験もたくさんしています。人の弱さを知っている分、しなやかな強さがあって、人の心を動かす試合をする。そんな夫をとても誇りに思うし、パワーをもらっていますね」

無理せず、リラックス。
日々を記録しながら過ごす工夫

最近のななさんの体調は、安定しているそうです。だからこそ、日々の小さな変化に敏感になることを大切にしていると話します。

ななさん:
「体調管理は大切ですね。できるだけ身体に負担をかけない、予定を詰め込み過ぎないように調整しています。仕事の日や友人と約束がある日、旅行の前後は、ゆっくりする時間を作るようにしています。

また、普段から頭痛や貧血など何か体調の変化を感じたら、手帳に日付と症状をメモして、診察日に忘れずに先生へ伝えます。病気についても、わからないことや不安なことは自分が理解できるまで、先生にたくさん質問してきました」

ちょっとした体調変化を見逃さないために PNHとつきあううえで大切なこと
「治療中のコミュニケーション」

「いつもと違う?」と感じたら
早めに病院へ

PNHはまだ認知が低く、症状も気づきにくい。ななさんは、自身の経験を通じて、早期受診の大切さを話します。

ななさん:
「体力には自信があったし、20~30代はやりたいこともたくさんあって、貧血や頭痛があっても、“よくあること”と気にしていませんでした。でも、自分の命は、自分で守るもの。少しでも“いつもと違う”と感じたら、迷わず病院を受診してほしいです。そして、原因を分からないままにしないこと。PNHのように診断が難しい病気もあるので、大きな病院で複数の診療科の検査を受けた方が良いと思います。私も血液内科で病気が見つかるとは思ってもいませんでしたから。」

英男さんも、患者さんが孤独や不安を感じ過ぎないよう、家族のサポートが大切だと話します。

英男さん:
「難病と聞くと怖いイメージがありますが、医学も進歩しています。病気と向き合い、ともに生活するには、家族や周囲の理解と支えが必要です。僕も完璧ではありませんが、そばで寄り添い見守ることを心がけています」

未来へのエール──
患者さんとご家族へのメッセージ

最後に、同じようにPNHや難病と向き合っている患者さん、またそのご家族へ、お二人からメッセージをいただきました。

英男さん:
「不安や弱音はひとりで抱え込まず、家族や周りの友人に話してください。あなたを大切に思う人は、必ず支えになってくれます。家族の方もわからないこと、戸惑うことも多いかもしれませんが、一緒に他愛のない話をするだけでも支えになれます。僕は試合でギリギリのところでなんとか勝ち残ることが多く、“逆境ファイター”と呼んでいただいています。逆境に直面している方に、試合を通して、一緒に前向きに生きていこうと伝えることができたら嬉しいです」

ななさん:
「PNHは一生付き合っていく病気だからこそ、心の支えが必要です。弱音や不安を誰かに伝えることも大切ですが、やりたいことをやる、楽しみを見つけることも、前向きに生きる力になります。今の私の目標は、家族でエジプト旅行に行くこと。そして、自分のエッセイ本を出版すること。小さな夢でも、自分らしい目標を持ちながら、毎日を積み重ねていきたいと思っています」

夫婦として、そしてビジネスパートナーとして歩んできた英男さんとななさん。互いを尊重し、支え合いながら築いてきた“二人らしい夫婦のかたち”には、明るさと前向きなエネルギーが満ちていました。

毎年10月12日はPNHの日
~PNHの理解を深めよう~

PNH患者さんと
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PNHのような希少疾患では、病気が分かるまでに長い時間を要すること(診断ラグ)が問題となっています。アレクシオンファーマ合同会社では、診断ラグの解消を通じて、全ての人が公平に医療を受けられるよう、ヘルスエクイティ(医療の公平性)を推進する活動を行っています。

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< 所英男さん 所ななさんプロフィール >

所英男さん プロフィール
1977年生まれ、総合格闘家。”闘うフリーター”の愛称で親しまれ、DREAM日本トーナメント優勝の実績を持つ。現在も国内トップ団体「RIZIN」などに出場しながら、夫婦で格闘技フィットネスジムを経営。

所ななさん プロフィール
2011年に夫・所英男さんと結婚。2016年、長男出産時に血液検査で異常が見られ、出産後さまざまな診療科で検査を重ねPNHと診断された。現在は治療を続けながら、格闘技フィットネスジムの代表を務め、フリーの放送作家としても活動。一児の母。

*1:引用元
厚生労働省 特定疾患医療受給者証所有者数 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数,年齢階級・対象疾患別 令和5年度(2023年度)衛生行政報告例(令和5年度(2023年度)末現在)

*2:参照元
アレクシオンファーマ 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の患者さんとそのご家族の方への情報サイト

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