地方の課題解決、地域の活性化に向けた取り組みを進めているNTT西日本グループでは2026年2月上旬より、沖縄本島北部にて地元事業者とコラボした「地域交流型サイクルツーリズム in やんばる」を提供開始する。本稿では、9月末に実施されたメディア向けモニターツアーの模様をお伝えしていこう。
■大自然を満喫
「地域交流型サイクルツーリズム in やんばる」は、沖縄本島北部で展開する旅行プラン。まだ観光地化されていない“沖縄の素顔”に触れ、地域住民と交流し、自然・文化について学ぶ機会を創出する。
旅のスタイルに合わせた、日帰り / 1泊2日 / 2泊3日のツアープランを予定。希望があれば民泊にも対応する。現時点で、料金・販売方法などは検討中。
やんばるサイクルツーリズムプロジェクトの主催で、地域創生Coデザイン研究所(NTT西日本グループ)が事務局を担当する。ちなみに“やんばる”とは、国頭村・大宜味村・東村を中心とした、沖縄北部の自然が多く残る地域の総称。
現地では、移動手段のひとつとして自転車が活躍する。地元ガイドとともに美しい海岸線を走り、歴史の息づく町なかを巡り、大自然の奥地まで向かう。モニターツアーでは、大宜味村にあるター滝の近くまで自転車で訪れ、リバートレッキングを楽しむことができた。
駐輪場からは徒歩5分で川の下流に到着。やんばるの大自然に足を踏み入れた途端、周囲は鳥や虫の鳴き声に包まれる。それにしても蒸し暑い。10月だというのに、この日は気温が30度をゆうに超えていた。沢に腰まで浸かり、しばし涼む筆者。目の前を、お尻を緑色に輝かせたリュウキュウトンボが優雅に飛んでいく。
ときに岩山を登り、ときに渓流に逆らって前に進んだ。すると30分ほどでター滝が見えてくる。ここでは修行僧よろしく滝に打たれるも良し、その周辺で泳ぐも良し。ただ場所によっては驚くほどの水深があるので、ライフジャケットは忘れずに装着しておきたい。
このほかにも、自転車の機動力を活かしたコースの数々が検討されている。小高い丘を上り、両側にパイナップルやバナナの畑が広がる坂道を駆け下りて、やがて慶佐次(げさし)ウッパマビーチに至るサイクリングロードなどは、爽快感が極まりない。
■歴史ある集落を歩く
今回のモニターツアーは、まだ試作の段階。ということで、実施内容の詳細が固まっていないコンテンツもいくつかあった。そのひとつが、大宜味村塩屋の集落をまわる「ゆんたく体験」。塩屋湾のほとりに暮らす人々の輪に交じって、ゆんたく(沖縄の方言で、おしゃべりの意味)を楽しみ、また地元住人のガイドの下、集落にまつわる伝統、慣習、言い伝えに思いをめぐらせる、というプログラムを想定している。
案内してくれたのは、塩屋に住む若い夫婦。奥さんがこの土地の人ということで、道ですれ違う人たちが、にこやかに話しかけてくる。さて、そんな集落を歩いていると、ススキの葉が塀に挿し込まれている住宅が何軒もあった。聞けば、サングァーと呼ばれる伝統的な魔除けだという。
「マジムン(悪霊)から家族を守るため、家の玄関などに飾ります。子どものお弁当箱に添えることもあります」とガイドの奥さん。また道のあちらこちらには、石敢當(いしがんとう)と書かれた石が埋められている。旦那さんは「やはり魔除けの意味合いがあります。昔、中国に石敢當という名の豪傑がいた、という話です。周りに怖がられる存在だったようです」と教えてくれる。
道端に、琉球民謡「えんどうの花」の歌碑があった。折しも時刻は夕暮れどき。「えんどうの花の咲く頃は / 幼い時を思い出す」から始まる歌詞に夕日が当たり、懐かしさと切なさのようなものが込み上げてくる。小学校の脇には、大きなガジュマルが生えるちょっとしたスペースがあった。毎年、旧暦のお盆の終わる頃、ここで豊年祭が開催されるという。
「塩屋湾に伝わるウンガミ(海神祭)と呼ばれる豊年祈願の行事では、男たちがハーリー船を漕ぎ、それを女たちが腰まで海に浸かって迎えます。これに対して豊年祭では、ひと晩中、女性だけで踊り明かします。どちらも伝統的な神事です」(奥さん)
このあと毎日のように人が集い、ゆんたくを楽しんでいるという塩屋売店に到着した。なるほど、サングァーづくりに精を出す住民たちの姿がある。もし仮に個人旅行でこの地を訪れ、この賑わいを目にしたとしても、たぶん遠くから眺めて通り過ぎるだけだったろう。けれどこの日は、地元住人のツアーガイドが同行している。ほどなく、向こうから「元気にしてるの?」なんて声をかけてもらえた。
92歳になるという地元のおじぃも、オリオンビールを飲みながら手際よくサングァーをつくっている。「何処から来たの?」「東京でも、こういう魔除けは飾るの?」「これやったあとで、またはっぱ(爆竹)も鳴らすんだよ」とおじいさん。ゆんたくの何気ないひとときが、忘れられない旅の思い出のひとときに変わる。
最後に、観光ガイドには載っていない小さな商店を訪れた。生活雑貨を販売する大川共同店。ここなら塩屋地区の人々の、飾らない日常風景がのぞき見れそうだ。店の主は、小学生の女の子を育てる若い母親。
店内の蛍光灯は、どこか薄暗かった。子どもたちが買いに来るのだろう、白い棚にはポツンと、ノート、えんぴつなどの文房具が置かれている。かきぞめ半紙は120円。見れば石鹸、缶詰、カップラーメンにはマジックで商品に直に値段が書いてある。ピンクの公衆電話の隣には、ご近所さんの電話番号がずらり。大昔、近所の駄菓子屋がこんな雰囲気だったっけ……。あふれるノスタルジックに、胸が締め付けられる思いがした。