他の動物と比べて独特な猫の威嚇。犬や猿などの動物は威嚇するときは大きな声をだして睨みつけますが、猫はシャーシャーと息を吹きかけてきます。まるで蛇のようです。蛇がシューシュー音を立てることを英語で「hissing」といいますが、猫がシャーシャー鳴くことも「hissing」といいます。

本当に蛇のマネ?

多くの動物学者は猫の「シャー」は蛇の真似をしていると考えています。他の動物のまねをすることは動物の世界ではよくあることです。マーゲイという小型のネコ科動物はサルの声をまねて獲物をおびき寄せているとの報告もあります。

猫の祖先はリビアヤマネコだと考えられています。リビアはアフリカ大陸の北部に位置し、国土の大部分が砂漠です。砂漠で最も恐れられていたのは蛇でした。蛇は動きも素早いですし、毒を持っている種もいるため猫だけでなく他の動物にとっても非常に厄介です。猫は蛇を捕食することもありますが、あまり戦いたくない相手です。できれば砂漠に生きるネズミなどを獲っている方が安全です。そのため蛇やその他の危険な動物に遭遇した時に、相手を遠ざけるため蛇の真似をしたと考えられています。

シャーは防御的威嚇

威嚇には攻撃的威嚇と防御的威嚇がありますが、「シャー」はこのように相手を遠ざける防御的威嚇の時に発せられます。反対に攻撃的威嚇、オス同士の喧嘩などでは「ウゥー」と低い声で鳴きます。

猫は吼えることができない

私は、アニメのライオンキングで、主人公のシンバが成長して悪いライオンに対して初めて吼えることができたシーンが好きです。しかし、猫はライオンやトラのような重低音で吼えることができません。ネコ科で吼えることができるのはヒョウ属であるライオン、ジャガー、ヒョウ、トラ、ユキヒョウのみです。

そのかわりといってはなんですが、ヒョウ属はうまく喉をゴロゴロ鳴らすことができません。チーターもヒョウ属ではないので吼えずに威嚇するときはシャーシャーいいます。蛇(を含む殆どの爬虫類)は発声器官がないので、空気を排出して音による威嚇を行っています。猫は相手を威圧するほどの唸り声をだせないので蛇の真似をしたのかもしれません。

まとめ

猫は、身近な外敵・蛇の真似をすることで敵を遠ざけることを学びました。今では蛇が生息しない地域の猫も本能で同じように威嚇していると考えられています。猫はライオンと違い喉をゴロゴロ鳴らせますが、吼えることができません。大きな声を出せないので蛇の真似をしたのかもしれません。

シャーシャー鳴いているときは本気で威嚇していますので、無理に近づくと飼い主さんであっても怪我をすることがあります。猫が掃除機などに向かってシャーシャー鳴いてるときは、「頑張って蛇の真似をしているんだ」と思ってそっと離れてあげましょう。

(画像と本文は関係ありません)

■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。