羽田航空機衝突、3要因重なり惨事に…海保機長は乗組員の帰宅考え「なるべく急ぎたかった」
東京・羽田空港で1月2日に起きた航空機衝突事故で、運輸安全委員会は25日、調査の経過報告書を公表した。
〈1〉海上保安庁機が滑走路への進入許可を得たと認識〈2〉管制官が海保機の進入に気付かず〈3〉日本航空機も海保機を認識せず――という3要因が重なったと指摘。海保機長(40)と副操縦士(当時41歳、死亡)の相互確認が不十分なまま誤進入に至った状況が、操縦室内の音声記録で判明した。(森田啓文、小松大樹)
「管制官から『滑走路に入って待機せよ、(離陸順は)ナンバーワン』と許可された。それを副操縦士と復唱して滑走路に入った」
海保機長は聞き取り調査にそう説明したが、回収されたコックピット・ボイス・レコーダー(CVR)の記録は大きく異なっていた。
管制指示は「ナンバーワン、滑走路手前の停止位置C5まで走行せよ」。滑走路担当の管制官へ正しく復唱した副操縦士に、機長はかぶせるように「ナンバーワン、C5、問題なしね」と復唱確認を済ませ、〈滑走路手前の停止位置まで走行〉という文言を省いた。
副操縦士の「問題なしです」との返事を機に、進入許可が出てから行うはずの離陸前点検が始まり、滑走路への誤進入は起きた。操縦室内の相互確認が機能しなかった状況が浮き彫りになった。
報告書からは、時間に追われるあまり判断が鈍る「ハリーアップ症候群」に機長らが陥っていた可能性も読み取れる。前日に起きた能登半島地震の支援物資の量から、機長は新潟空港での荷降ろしに時間がかかると推測。出発の遅れもあり、羽田帰投後の乗組員の帰宅を考えて「なるべく急ぎたかった」と調査に話した。
誘導路の前方を走る旅客機がいる中、滑走路の端ではなく途中から離陸する「インターセクション・デパーチャー」と離陸順1番を意味する「ナンバーワン」を管制官から告げられたことも、離陸準備を急がせた。
一方、管制側では衝突の15秒前、滑走路上の海保機に空港(地上)面を表示する画面で気付いた管制官がいたことが明かされた。空港周辺の「ターミナル空域」担当で、「日航機が(着陸をやり直す)ゴー・アラウンドをする」との連絡を受けていなかったため、「(日航機は)どうなっている」と滑走路担当に問い合わせた。この時すぐに「ゴー・アラウンド」の指示が出れば衝突は避けられた可能性があるが、滑走路担当は海保機に気付かなかった。
さらに、海保機の停止線越え直後から衝突までの1分7秒間、両機を探知した「滑走路占有監視支援機能」が発動し、滑走路担当らの手元で注意喚起が画面表示されていた。だが、滑走路担当らは「表示を認識していない」などと聞き取りに回答。当時は同機能が発動した際の処理要領は規定されておらず、本格的な訓練もしていなかった。
同機能には、事故対策の一環で10月末から注意喚起音が追加され、来年度中には「ゴー・アラウンド」などの自動音声による警告の導入が検討されている。
日航機については、▽訓練中の副操縦士(当時29歳)が操縦し、左隣で機長(同50歳)が指導した▽すぐ後ろで別の副操縦士(同34歳)も滑走路を監視した▽日没後で月も出ていなかった――点などをさらに分析する。海保機の停止場所周辺の滑走路面灯火は白く、後方から見える海保機の衝突防止灯などもすべて白かったことも明かされた。