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ポケGO、大戦略、信長の野望…古今東西のゲームマップを7分類して徹底分析。なぜ四角形や六角形のマップを、私たちは好むのか?【徳岡正肇氏:講演レポ】

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マップデザインその5:へクス 

 つぎに登場したのが、徳岡氏曰く「スクエアマップの永遠のライバル」こと、六角形で平面を埋め尽くすヘクスマップだ。

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 ウォーゲーム・ジャンルの完全なスタンダードであり、「ミリタリーっぽい」、「本格的っぽい」雰囲気をよく持っているものでもある。

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最初のマップをこう表現できる
(スライド:徳岡氏提供)

 ヘクスマップ最大の利点は、同心円状に距離が広がっていくことにある。そのため、実距離との差がほとんど発生せず、シミュレーションとしての違和感を抑えられるのだ。
 もちろん円が大きくなれば、それなりに矛盾も大きくなる。しかし数学的には、平面を六角形で分割することは、可能なうちでもっとも矛盾の少ない方法であるとは言える。

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(スライド:徳岡氏提供)

 なによりも、スクエアマップの問題点であった、斜め方向への射程範囲の矛盾も解決できる。つまり、囲んでいるすべてのユニットが敵を攻撃できるのだ。

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(スライド:徳岡氏提供)

 ただ、このヘクスマップにも、ごく一部のマニアだけが把握しているものではあるが、やはり弱点が存在しないわけではない。それを一言で言えば、縦横の方向の優位性が等分ではないのである

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(スライド:徳岡氏提供)

 じつは、ヘクスマップには二種類ある。縦方向に直進性があるものと、横方向に直進性があるものだ。氏によれば、このどちらを採用するかによって、ゲームが変わってしまうという。

 たとえば、直進性を有する方向に対して並んだユニットに、垂直に攻撃を加えたとする。すると、これを仕掛けた攻撃側が不利になる。
 なぜなら直進性に沿ってユニットを配置している防御側にとって、むしろ三方向から攻撃を加えられる場所が増えてしまうからだ。つまり前線の屈折部の生じやすさが、マップの直進性の縦横どちらを採用したかに影響されてしまうのである。

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3つのユニットが1つのユニットに攻撃を加えられる箇所を探してみよう

 氏によれば、幅広いスキルのプレイヤーが争った場合、この優劣は数パーセントの差でしかないと思われるという(ベテラン同士が争うとかなり大きな差になり得るが、そのニッチな需要をデザイナーが意識するかどうかはまた別問題)。
 しかし、たとえばソーシャルゲームが持つユーザー母数を考えると、プレイヤー間の数パーセントのアドバンテージは、冗談ですませられるものではない。

 むろん、ゲームデザインの観点からも、困難は生じうる。たとえば、どんどん敵を撃破しながら進軍してもらう勝利体験をプレイヤーに与えたいにもかかわらず、なぜかうまくいかないとき、その原因はユニットの強さではなくマップデザインにあるかもしれないのだ。

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 とはいえ、探せばこれだけの矛盾があるにもかかわらず、なおスタンダードなウォーゲームはヘクスマップを採用したがる。氏は最後にもう一度、その答えとしてヘクスマップの優位性に言及した。

 やはり、それはウォーゲームの根幹的な思想に関わるのである。ヘクスマップは、実物の地図――我々が暮らす現実世界の地図とのあいだの矛盾が、非常に少ないのだ。

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(スライド:徳岡氏提供)

 地形の要素は置くにせよ、実際の都市の実距離と、ヘクス座標の位置関係は、ほぼ一致している。この一致が歴史シミュレーションの作成で重要なポイントになるのは、同じ地図をスクエアマップに移し替えてみれば、わかりやすい。

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ハリコフ、キエフ、モスクワまでのマスが増えていることに注目
(スライド:徳岡氏提供)

 史実へのリスペクトに重きを置くシミュレーションでは、青の位置に立っているナポレオンの価値判断を追体験するには、ナポレオンが実際に体験したであろう距離感覚を、なるべく正確に再現したい。そのときにへクスマップは、現実の地理とゲームとの整合性がもっとも高いものとして、重宝されるのである。

 ――しかし、勘の良い読者はこんなことを考えたかもしれない。それでは、より整合性の高い現実の地図をそのまま利用すると、いったいどうなるだろうか?

マップデザインその6:AtA(エリア・トゥ・エリア)

 そこで登場するのが、「信長の野望」シリーズ【※】でおなじみのAtAである。

※「信長の野望」シリーズ
オリジナルは、光栄マイコンシステム(当時)から1983年に発売された、パソコン用歴史シミュレーションゲーム。1560年の春から四季ごとにターンが訪れ、1ヵ国1コマンドを入力して進めるシステムで、17ヵ国の統一を目的に、治水や開墾などの内政、訓練や戦闘などの軍事などに努める。 1986年には50ヵ国を舞台にした『信長の野望・全国版』が登場。これが光栄のファミコン参入タイトルとして1988年に移植された。

 これは地図を国境線で分割し、それぞれのエリアを1マスとするマップロジックだ。つまり、現実の地図をまるまる流用できる形態である。

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(スライド:徳岡氏提供)

 しかし、このロジックにも弱点はある。それは現実の再現性というより、ゲームメカニクス【※】の問題だ。たとえば、なんらかの事情によって国境線がクロスしてしまうとき。この場合、スクエアマップで見られたような、斜め移動の矛盾の問題が生まれてくる。

※ゲームメカニクス
ゲームのルールと、それを適用した結果生まれるゲームを構成する要素。

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(スライド:徳岡氏提供)

 あるいは、地図上では繋がっているように見えるが、実際には交通不可能であるという事情をゲーム画面に反映するとき、その情報を伝えにくい。通行不可能な国境線の色を変えたり、山脈のアイコンを置いてもよいが、それでは絵面が悪くなってしまう。

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(スライド:徳岡氏提供)

 あるいは、地図の上では繋がっていないように見えるが、実際には繋がっている場合はどうか。たとえばエジプトを縦断するスエズ運河は、現実では地中海と紅海に繋がっている。しかし、マップでは表現できない。この場合も、たとえば矢印を引いて通行可能であることを示す情報の追加などが必要になる。

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(スライド:徳岡氏提供)

 加えて、地図の上では独立しているように見えるが、実際には繋がっている場合もある。紅海とペルシャ湾は、現実では地図外で接続しているのだが、地図で描かれている部分では独立して見える。これでは、たとえばマップ外マップを作成するといった煩雑な処理が必要になってしまうわけだ。

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 だが、このマップロジックには、利点もある。

 むろん、一番の利点は、とにかく直感的に理解しやすいことだ。なにせ現実の地図とおなじものなので、わかりやすい。また、ゲームデザインの都合にあわせた意図的なマップデザインの変更も、じつは可能である。
 たとえば、現実の地図では3方面に面しているエリアの国境線を修正し、2方面にのみ面するようにしてゲームバランスを調整しても、ほとんど誰も気づかない。確かに、筆者も気づくことはないだろう。
 仮にそこに気づくような手練れのゲーマーがいたとしても、ゲームバランスにとって必要であるささやかな変更を指摘することは、無粋だと感じるのではなかろうか、と筆者は考える。

マップデザインその7:PtP(ポイント・トゥ・ポイント) 

 それでは、現実の地図を用いて、ゲームデザイナーがもっと自由に世界を解釈できるものはないのだろうか。もちろん存在している――それが最後となる7番目のマップデザイン、PtPだ。

 これは現実の地図の上に、重要な意味をもつポイント(主要都市など)を設定し、そのポイントとポイントを線で結ぶものである。AtAの変形であるが、難しいアイデアをより容易に実行できる。

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徳岡氏「この接続は『このようなこともできる』という例であり、『現実がこうである』と主張するものではありません」
(スライド:徳岡氏提供)

 このマップロジックの肝は、すでに画面に現れている。地図を読み解けば、「エルサレムに行くためには、イスラエルを必ず通らなければならない」という制限が存在することがわかるだろう。この経路の制限は、地図上に存在する国家の外交関係を、効率よくプレイヤーに伝えるものだ。

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徳岡氏「この接続は『このようなこともできる』という例であり、『現実がこうである』と主張するものではありません」
(スライド:徳岡氏提供)

 移動経路を読むだけで政治が見える。イランとイラクは国際政治的には孤立しているが、両者は結束している。イラクとサウジアラビアの間に国交は成立していないが、地理的には国境が面している。この表現は、ゲームシステムによってフィクションを語ること、つまりゲームデザイナーによる世界の解釈が、もっともよく反映されるものであると言えるだろう。

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 ただ、この方式にも弱点がある――徹底的に、ゲーマー向けであることだ。徳岡氏はここでスライドをすばやく操作して、聴衆に熱く語りかけた。

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「こんな状況から、」
(スライド:徳岡氏提供)
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「こうなって、」
(スライド:徳岡氏提供)
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「こうなることを喜ぶのは、ゲーマーだけです!」 ここで会場は爆笑に包まれた
(スライド:徳岡氏提供)

 確かに、これは抽象度が高すぎる。各国の領土をべた塗りにし、色分けで領有権を表すやりかたのほうが、われわれが実際に地図を読む感覚にも近い。つまりこのマップデザインは、ゲーム画面に表示されていることを能動的に解釈できる人間――ゲーマーに向けられたものになってしまうのだ。

 まさに、こちらが立てばあちらが立たぬ。ゲームとしての面白さを良いところまで追求したと思ったら、それは敷居の高いものになってしまう。PtPという方式が抱える問題点は、この講演全体を通じて語られてきたマップロジックという概念そのものの問題と希望をもっともよく象徴するものであるように思われた。

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 時間に追われながら早口で話してきた徳岡氏は、切り上げるようにして講演を終えた。

 会場は盛大な拍手に包まれたが、じつは講演の冒頭で、徳岡氏が断言していたことがひとつある。それは講演資料にも記されている一文だ――「このマップ構造ならどんなゲームにも対応できる! サイコー! なんてものは、存在しない」

 考えてみると、これはマップロジックに留まらない、ひろくゲーム全般に敷延できる真実ではなかろうか。ジャンルの壁もそうだし、小説や映画といった他のメディアでもそうだ。

 しかしながら、この事実のまえに物怖じすることなく、極限まで「マップ」を研究することによって、より普遍的な道具を引き出そうとする氏の姿は、われわれが後を追うことができる最も良い「対応」ではなかろうか。もっと言えば、われわれの人生においてさえ、あらゆる状況に対応できる魔法のような道具は存在しないのだから。

 筆者は聴講中、すぐれた幾何学の発表を体験しているような感覚にとらわれた――これはもはやゲーム論の枠を超えた、真理に到達する試みのように感じられたのである。読者のみなさまにも、幾ばくかこの感覚を共有いただけたならば、幸いだ。

 最後に。筆者は講演後、徳岡氏にインタビューを依頼し、快諾いただいた。その内容は後日この電ファミニコゲーマーにて掲載予定である。むろん、そこではこの講演をさらに深掘りした内容を聞いている。楽しみにお待ちいただきたい。

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 本講演の登壇者の徳岡氏が聞き手/書き手を務めた、実況者集団“我々だ”のグルッペン・フューラー氏と、『幼女戦記』作者のカルロ・ゼン氏の対談。「マニアック」、「コア」という印象でなにかと敬遠されがちな歴史や軍事といったテーマで、幅広い層からの人気を獲得した両者は、一体何を想いコンテンツを作ってきたのでしょうか?

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著者
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藤田祥平
1991年大阪府生まれ、文筆家。
Twitter : @rollstone
Website : http://shoheifujita.smvi.co/
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