ゲームという形の芸術表現の頂点のひとつ。
先日開催された『The Game Awards』はもちろん、2019年の数々のゲーム賞でアート部門にノミネートされた、至高のビジュアルを持つ作品。
それが『GRIS』です。
2018年末にSteamとNintendo Switchで発売され、iOSでも2019年の夏に公開。
プレイヤーの間で評判となり、徐々に評価されていった作品です。
12月12日にはPS4での公開も始まりました。
先日の『The Game Awards 2019』では「GAMES FOR IMPACT」部門を受賞しており、「ART DIRECTION」にもノミネート。
開発メーカーの「Nomada Studio」も「FRESH INDIE GAME」にノミネートされています。
辛い体験の末にすべてがモノトーンと化し、声さえも失ってしまった女性が己を取り戻す物語…… なのですが、文章で書くと陳腐になります。
この作品のストーリーはゲームの中で繰り広げられる光景、それそのままであり、ビジュアルにはそう言い切れる力強さがあります。
最初はすべてを失っているため、序盤はゲーム的にも見た目的にも魅力に乏しいです。
(iOS版の)初期バージョンにはバグがあり、進行困難だったため、私は一度、早々にやめてしまいました。
しかしアップデートによって無理なく進められるようになり、中盤からはハッとするほどの鮮やかな景色に彩られ、できることも増えていきます。
価格はiOS版610円、Steam版1730円。Nintendo Switch版とPS4版は1780円。
サウンドとビジュアルが全てのゲームなので、大きめの画面で、ヘッドホンを付けてのプレイを推奨します。
横視点のジャンプアクションゲームですが、敵はほとんど出てきません。
フィールドを探索し、先に進む道を見つけていく、謎解きアドベンチャーと言える内容。
ダメージを受けることがないのでライフはなく、落下しても元の場所に戻れるマップになっています。
つまり、“ミス”はありません。
タッチパネルでも操作性は良好ですが、「長押し」で効果が変わる特技があることには注意して下さい。
ジャンプは長押しで高く跳び、二段ジャンプは二段目で長押しすると滑空、他にも指をスライドした後に長押しすると効果範囲が拡大するものがあります。
絶望している主人公の女性は、最初はトボトボ歩くことしかできません。
途中で意を決して走り始めますが、できることは移動とジャンプのみ。
しかし進んだ先で「色」を取り戻すことにより、世界が色付くと同時に、ブロック状に変化して重くなる技や、前述した二段ジャンプなど、様々な特技を得ることができます。
特にブロック化を使うしかけが多く、ひび割れた床や壷を破壊したり、重さを利用してシーソーを動かすなど、最後まで活用することになります。
システムにあまり特筆すべきところはありません。
テクニックが要求されるようなシーンはなく、装備や経験値もなく、会話や文章さえありません。
でも、この作品はそれでいい。
画面に広がる美しい景色を楽しむのにそれらは邪魔なだけです。
そしてビジュアルだけで勝負しているのは、挑戦的でさえあります。
モノトーンの世界に色を取り戻すという設定はありがちですが、ときに水彩絵具をこぼしたように、ときに光が差し込むように、風景をサーッと彩っていく演出は見応えがあり、とても芸術的に表現されています。
そして赤なら荒野、緑なら森といったように、世界は大きく変わり、飽きさせない展開が次々と現れます。
中盤以降になると謎解きが難しくなり、マップもかなり広くなります。
少し悩む場面や、迷子になりそうになるエリアも出てきて、このゲームにこれは不要なのでは? と思うことも。
でも、どこを切り取っても絵になるシーンばかりで、絶望している主人公には悪いですが、この世界は観光気分で歩き回るのには最高です。
Appleが先日発表した2019年のベストゲームでは「ベストMacゲーム」とされていました。
Macはアートやサウンドのクリエイター御用達なので、確かにこの作品に相応しいかもしれません。
iPhoneの小さな画面では、ちょっと勿体なく感じるビジュアルです。
クリアまでは5時間ほどで、ボリュームもこの手のゲームとしては適度。
風景や展開には込められたテーマを感じますが、小難しい解釈は必要なく、誰が見ても美しいと感じられる美術と演出で構成されています。
ゲームのアートを語るなら、やっておかなければならない作品でしょう。
GRIS
絶望した女性が内面を旅する芸術作品
・アクションアドベンチャー
・Nomada Studio(スペイン)
・iOS版610円、Steam版1730円、Nintendo Switch/PS4版1780円
文/カムライターオ