東ちづる「40代で母娘一緒にカウンセリングを受け、子離れ・親離れができた。お互い<見ない、聞かない、知らない>を大事にすることで、いい関係を築けるようになって」

2024年12月20日(金)12時30分 婦人公論.jp


「カウンセリングを経て、母と私はやっと子離れ、親離れができました」(撮影:宮崎貢司)

幼い頃から「いい子」を演じ、自分の気持ちを押し殺してきたという東ちづるさん。40歳のとき母と一緒にカウンセリングを受けたことで、それぞれが自分らしく生きられるようになったと言います(構成=内山靖子 撮影=宮崎貢司)

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<前編よりつづく>

子離れと親離れを同時に達成


カウンセリングは、母と私それぞれで3回、合同で3回の計9回、約半年間に及びました。私の期待通り、母は自分の素直な思いを吐露できるようになり、徐々に変わっていったのです。

それまでは、「これをやってみたいんだけど大丈夫かしら?」と、何かを決めるときは必ず私に確認していました。一緒にお寿司屋さんに行って、私がマグロを頼めば、「じゃあ、私もマグロ」。イカを頼めば「私も同じのを」と。

それがカウンセリング後は、私が何を頼んだかなど確認せず、「私、サバをもう一貫」と、自分の意思を口にできるようになりました。

親や夫、子ども、友だちなど、他人の意見を優先させ、自分の本心を抑えていたことに、母は気づくことができたのです。私は涙が出るほど嬉しかった。

カウンセリングを終えて20年も経つと、人工股関節の手術を受けることを1人で決めていて。「こっちの都合もあるから、もっと早く教えてよ!」と妹が怒ると、「なんで? 入院するのは私よ」と。

さらにこの前は、私の誕生日を忘れていたんです(笑)。「いい母親」であることに固執していた以前の母だったら、そんなことは絶対にありえなかった。

「何がほしい? お祝いの食事はどうする?」って、何日も前から準備していましたからね。でも、それだけ自分のことに目が向くようになった証拠です。

一方で、私自身もいい方向に変わることができました。カウンセリング前は、それまでよりラクになったとはいえ、相変わらず「いい子でいなきゃ」という思いが残っていて。人前で失敗したり、他人に自分の弱みを見せることに臆病でした。

ところが、カウンセリングで自分の弱い部分をさらけ出せたことで吹っ切れた。現在公開中の『まぜこぜ一座殺人事件〜まつりのあとのあとのまつり』という映画は、私が企画・プロデュースしたのですが、何のノウハウもない仕事への挑戦に、以前だったら躊躇していたと思います。

それができたのは、「初めてなんだから、失敗したっていいじゃない」「わからないことやできないことは、周りに聞いて助けてもらおう」と思えるようになったから。カウンセリングを経て、母と私はやっと子離れ、親離れができました。

要介護になっても同居はしない


もともと、好奇心や探求心が旺盛な性格だったこともあり、母は85歳になった今も、「自分の人生をもっと楽しもう」と、ますますいい方向に変化し続けています。

妹が再婚して引っ越してから20年近くひとり暮らしをしていますが、「1人が一番気楽」と笑っているんです。現在は、うちから徒歩15分ほどのシニア専用マンションに住んでおり、そこでの催しに参加したり、週に一度、スポーツクラブに通って足腰を鍛えたり。

私の個人事務所の経理を任せており、知人に頼まれて着つけをすることもあって、何かと忙しい日々のようです。

先日は、私の勧めで「ピースボートクルーズ」に参加しました。大型客船で3ヵ月半かけて地球を一周する旅です。

乗船前こそ、「1人で大丈夫かしら?」と不安がっていましたが、乗船の際に感じのいい青年が母の荷物を運んでくれたら、たちまち上機嫌になっちゃって(笑)。1ヵ月半を過ぎた頃には「楽しくて、帰りたくないわ」とLINEが来たほどです。

母がひとり暮らしになったとき、うちの夫は「お母さんと一緒に暮らそうよ」と言ってくれました。でも、私は無理だと思いましたし、母も同居は望んでいません。

風通しのいい関係になったとはいえ、やっぱり親子ゆえの甘えや厳しさはなくならない。とくに私と母の場合は、一緒に暮らしたら、再び相手に期待して依存し合ってしまうのが明らかです。

妹は私と違い、子どもの頃から母に反抗し、自分の思いをぶつけてケンカが絶えない関係でした。でもそのぶん、共依存に陥らずに、なんとか同居もできていたのでしょうね。

この先、母が要介護になりひとり暮らしができなくなった場合は、介護のプロにお願いすることに決めています。妹は「お母さんと一緒に住んでもいいよ」と言っていますが、母自身が、「プロの手に任せたい」と。娘としては、「経済的な心配は何もしなくていいからね」と母に伝えてあります。

今、私と母は、せいぜい週に一度顔を合わせるかどうかという距離感です。同じスポーツクラブに通っているので、母と私のレッスンの日時が重なると、更衣室でおしゃべりしたり、いただきもののフルーツなどをおすそ分けしたり。それくらいの関係が私たちにはちょうどいいのでしょう。

私の場合に限らず、母と娘がいい関係を築くためには、お互いに期待しないことが一番です。「親なのに、どうして私の気持ちをわかってくれないの?」と娘は思いがちですが、それは母のほうも同じこと。

私はどうしても我慢ならないとき、「この人は親戚のおばちゃんだ」と思うようにしていますが(笑)、まずは物理的に離れることが大切。だって、「亭主元気で留守がいい」って言うでしょう。

親子の場合も同様に、相手の言動に心を乱されないためには、お互いに「見ない、聞かない、知らない」で過ごすことが一番なのだと思います。

婦人公論.jp

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