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WHOは抗がん剤治療を含めた三大療法を勧めている

ネットでは間違った医学情報がたくさん流れています。その中の一つに「WHOが抗がん剤の使用をやめるようにいいだした」というものがあります。実際には、WHOはそんなことは言い出していません。WHOのウェブサイトにアクセスすれば一目瞭然です。

がん治療についてWHOが言っていること

WHOはさまざまな医学情報を提供しています。たとえば、一般的ながん(Cancer)についてのページを引用してみましょう。がんに対する治療として、外科手術、放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)に効果があることをWHOは認めています。引用者による意訳と、抗がん剤治療の部分に強調をつけました。



â– WHO | Cancer


Cancer is the uncontrolled growth and spread of cells. It can affect almost any part of the body. The growths often invade surrounding tissue and can metastasize to distant sites. Many cancers can be prevented by avoiding exposure to common risk factors, such as tobacco smoke. In addition, a significant proportion of cancers can be cured, by surgery, radiotherapy or chemotherapy, especially if they are detected early.
(意訳)がんとは、コントロールされていない細胞の増殖や広がりです。がんは体のほとんどの場所に悪影響をもたらします。がんは、しばしば周囲の組織に浸潤したり、離れた場所に転移したりします。多くのがんは、たばこの煙のような一般的な危険因子への曝露を避けることで予防することができます。そして、外科手術、放射線療法、抗がん剤治療によって、かなりの確率でがんは治療できます。特に早期に発見された場合はそうです。


一般的ながんだけでなく、個別のがんについてもWHOは抗がん剤治療を治療の一つとして挙げています。たとえば、子宮頸がんについてWHOはどう書いているでしょうか。



â– WHO | Human papillomavirus (HPV) and cervical cancer


Women who are sexually active should be screened for abnormal cervical cells and pre-cancerous lesions, starting from 30 years of age.
If treatment is needed to excise abnormal cells or lesions, cryotherapy (destroying abnormal tissue on the cervix by freezing it) is recommended.
If signs of cervical cancer are present, treatment options for invasive cancer include surgery, radiotherapy and chemotherapy.
(意訳)性交渉歴がある女性は30歳から子宮頸部の異常細胞や前がん病変がないか、がん検診を受けるべきです。
前がん病変を切除する処置が必要であれば、冷凍凝固療法(凍らせることで子宮頸部の異常組織を破壊する)が勧められます。
子宮頸がんが存在する徴候がある場合、浸潤がんに対する治療の選択肢には、外科手術、放射線療法、抗がん剤治療があります。


その他のがんについても、医学の専門家が推奨する標準的な治療を、すなわち、外科手術、放射線療法、抗がん剤治療をWHOは勧めています。病名が同じでも、進行度や組織型、患者さんの状態、それぞれの国・地方での医療事情によって適切な治療法が変わることがあります。たとえば日本では、子宮頸部の前がん病変に対して、冷凍凝固療法ではなく円錐切除術が勧められることが多いです。もしあなたか、あるいはあなたのご家族が不幸にもがんに罹った場合は、まず第一に主治医の意見をよく聞いてください。納得ができなければ、別の医師にセカンド・オピニオンを求めてください。

がんと診断されると不安になるのは当然です。がんの治療には副作用があります。でも、ネット上の間違った情報に騙されても誰も責任を取ってくれません。インターネットで情報を集めるのなら、まず公的な組織のウェブサイトを見るべきです。英語でなら、WHOやCDC(アメリカ疾病予防管理センター)、ACS(アメリカがん協会)など、日本語なら厚生労働省や国立がん研究センターや各大学病院です。WHOのウェブサイトを読めばすぐにわかるような間違った情報を載せているウェブサイト(たくさんあります)を信用するべきではありません。


外部リンク

「うさうさメモ」でも、WHOのウェブサイトを参照しながら、抗がん剤についての根拠のない噂を検証しています。

■WHOは2015年4月現在も、抗がん剤を「禁止」していない - うさうさメモ


アメリカ在住がん研究者である大須賀覚先生も情報発信をしています。

■「アメリカで抗がん剤は使われていない」という嘘について


抗がん剤に限らず、「WHOはこう言った」というタイプの根拠のない噂があります。個人ブログならともかくマスメディアが、WHOのウェブサイトにアクセスすればすぐに嘘だとわかる噂を載せてしまうのは、みっともないとしか言いようがありません。

■WHOはインフルエンザワクチン接種を推奨している - うさうさメモ
■「インフルエンザにウイルスワクチンは無意味」のウソ 「病院が金儲けのため」は陰謀論? | ビジネスジャーナル