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「ためしてガッテン」の健康本の新常識クイズが難しすぎる件

医局に転がってた■ためしてガッテン 健康の新常識事典を何気なく読んでみた。各項目が健康に関する「常識」についての○か×のクイズ形式になっており、次のページに答えと解説が入る。全体的には良い本である。ただ、このクイズがなにげに難しいのだ。たとえば、こんな具体である。


新常識クイズ:「玉ねぎの血液サラサラ効果はあらゆる食品の中でもトップクラスである」 ○ どっち? ×
新常識クイズ:「ヨーグルトは花粉症に効く」 ○ どっち? ×
新常識クイズ:「風邪予防にはうがいが最も効果的」 ○ どっち? ×
新常識クイズ:「味オンチ(味覚障害)は亜鉛不足のせい」 ○ どっち? ×
新常識クイズ:「水虫は薬を塗っても完治は難しい」 ○ どっち? ×
新常識クイズ:「肺がんはX線検査をすれば見つけることができる」 ○ どっち? ×
新常識クイズ:「高血圧は降圧剤を飲めば改善できる」 ○ どっち? ×

興味がある読者は挑戦してみて欲しい。解説は下のほうに。












玉ねぎの血液サラサラ効果はあらゆる食品の中でもトップクラスである?


新常識クイズ:「玉ねぎの血液サラサラ効果はあらゆる食品の中でもトップクラスである」 ○ どっち? ×

第一問目からこんな感じ。そんなもん知らねえよ!玉ねぎに血液サラサラ効果があるとかいう話を聞くことはあるけど、俗説に過ぎないだろう。医学的な見地から考えれば答えは×であるのだが、健康本に載っているクイズであることを考慮すると必ずしも自信は持てない。結局、答えはこうである。


× 玉ねぎよりも、さんまやいわしのほうが10倍以上も高い

さんまやいわしの「血液サラサラ効果」は玉ねぎ10倍以上なのだそうだ。「抗血栓点」として数値化されているらしい。抗血栓点って何だよ。健康業界では「常識」になっているのか?学術的な根拠を探してみたが発見できなかった。抗血栓点を気にして食事を選ぶと結果的にバランスの良い食事になりそうなので、必ずしも悪いことではないだろう。しかし、「玉ねぎに血液サラサラ効果がある」という俗説とそう変わりがないような気がする。


ヨーグルトは花粉症に効く?


新常識クイズ:「ヨーグルトは花粉症に効く」 ○ どっち? ×

問いが微妙で答えに困る。厳密には×であるが、「ためしてガッテン」的には○であろうと私は予想した。なぜならば、アレルギー性疾患に対してプロバイオティクスの効果、つまり乳酸菌などの生菌による健康上の好影響はいくつかの臨床試験で証明されているからだ*1。しかし、私の予想は外れた。


× さまざまな効果があるが、花粉症に「効く」とまではいえない

「アレルギー反応が起こりにくい体質になる可能性はあります。ただし、花粉症が完全に治るわけではありません」なのだそうだ。その通りだね。完全には治るわけではないよね。だったら、問題文は、『「ヨーグルトは花粉症を完全に治す」 ○ どっち? ×』にしておけよ。そもそも、ヨーグルトの花粉症への効果は、少なくとも「抗血栓点」とやらよりかはエビデンスレベルが高いと思うがどうか。


風邪予防にはうがいが最も効果的?


新常識クイズ:「風邪予防にはうがいが最も効果的」 ○ どっち? ×

風邪予防にうがいが効果的であるのは確かだろう。ポイントは「最も」効果的かどうかである。受験テクニック的に答えるならば×である。問題文に「最も」という文言を入れた出題者の意図を推測すればいい。風邪予防にうがいよりも「効果的な何か」があるからこそ、このような問題文になったのであろう。「効果的な何か」が何なのかは知らんが。


× 多くは接触感染のため、予防にはうがいよりも手洗いが効果的

「風邪をひいた人が触れたコップを触った場合に50%の人が感染したのに対して、金網で区切られた同じ部屋で3日間生活しても感染者は0%だった」というアメリカで行われた実験が根拠であるらしい。しかし、この実験だけでは風邪予防にうがいよりも手洗いが効果的であるという結論は導けない。

文献情報が提示されておらず詳細な実験条件が不明であるが、日常的な感染状況とは異なる可能性がある。というのも、水うがいで風邪が予防できるという日本人における無作為化試験の結果があるからだ*2。この研究では対照と比較して水うがい群では上気道感染を60%に抑えられた*3。現時点で「うがいよりも手洗いが効果的」とは断言できるだけの医学的根拠は存在しないと思う。しかしながら、接触によって風邪のウイルスが感染することもあるからうがいだけでなく手洗いも大切であることを読者に示すのは、良いことであろう。


味オンチ(味覚障害)は亜鉛不足のせい?


新常識クイズ:「味オンチ(味覚障害)は亜鉛不足のせい」 ○ どっち? ×

味オンチと味覚障害は異なる概念だと思うが、そういう細かいことには目をつぶって、亜鉛不足が味覚障害の原因の一つであるので○であろうと考えた。


× 食習慣の変化によって増加中!亜鉛不足は原因のひとつでしかない

知ってるよ。亜鉛不足は味覚障害の原因の一つでしかないことなんて知っている。「味オンチのすべてが亜鉛不足が原因と考えるのは早計です」。知っているってば。


水虫は薬を塗っても完治は難しい?


新常識クイズ:「水虫は薬を塗っても完治は難しい」 ○ どっち? ×

足白癬には経口の抗真菌剤が必要になるケースもあるという趣旨だと推測する。○だ。「水虫のすべてが外用薬で完治すると考えるのは早計です」とか言うのであろう。


× かゆみがなくなっても薬を塗り続ければ、奥にひそむ菌も死んで完治する

そっちかー。かゆみがなくなってもしばらくは薬を塗り続けろという趣旨かー。正しいよ。正しいけどなー。


肺がんはX線検査をすれば見つけることができる?


新常識クイズ:「肺がんはX線検査をすれば見つけることができる」 ○ どっち? ×

一般的に考えると○であるが、こうなってくると疑心暗鬼になる。普通に肺がん検診を受けろという趣旨か、その裏を読んでレントゲンではなく低線量肺CTによる肺がん検診を受けろという趣旨か、さらに裏の裏を読んで低リスク者にはCT検診の意義は乏しいという趣旨か。


× 正面からのX線検査ではがんが見つかりにくい場所がある

その通りだね。単純レントゲンで異常なしであったが「ヘリカルCT」を受けたところ早期の肺がんが見つかったという事例が紹介されている。CTを受ければ早期の肺がんの発見率が上がるなんてのは当たり前の話であるが、CT検診を受けた方がいいかどうかとは話が別である。


高血圧は降圧剤を飲めば改善できる?


新常識クイズ:「高血圧は降圧剤を飲めば改善できる」 ○ どっち? ×

一般的に考えると○であるが、番組的には×であろう。「降圧剤で高血圧は改善するという常識は間違いで、新常識はこうだ」という趣旨に違いない。なぜ×なのかというところまで正しく推測しなければ勝負に勝ったとは言えない。ずばり、二次性高血圧のことを言っているのであろう。二次性高血圧とは、ホルモン産生腫瘍などの他の疾患から二次的に生じる高血圧のことである。多くは原因疾患の加療が必要であるからして「降圧剤を飲めば改善できる」わけではない。


× 降圧薬をのんでも効果がない”不良高血圧”の人たちがいる

二次性高血圧のことではなく、「コントロール不良高血圧」のことでした。「そんな不良高血圧の半数に効くと見直されているのが、利尿薬」ってあったけど、利尿薬だって降圧薬だろう。降圧剤の中にもいろんなカテゴリーがあって、そのうちの一つが利尿剤である。まあ、効果はそうは変わらないのに、安い利尿剤ではなく高価な他のカテゴリーの薬が処方されがちであるという問題に対する懐疑を提示したのかもしれない。


まとめ

この本の目的はクイズを通して健康に関する常識を学ぶことであるから、クイズが難しかったり、表現が微妙であったりしても、本の価値が落ちることはない。普通の人が普通に読む分には楽しんで読めるものだと思う。解説内容についても問題がまったくないとは言えないが、全体的には良い本であった。


*1:たとえばNagata Y et al, Biosci Biotechnol Biochem. 2010;74(9):1869-77.

*2:Satomura Ket al, Am J Prev Med. 2005 Nov;29(4):302-7.

*3:95 % CI=0.39 - 0.95