NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

読売新聞グループが紹介する「質の高い専門家」が千島学説の支持者だった

「まちの専門家をさがせるWebガイド マイベストプロ大阪」というサイトで、「犬のアレルギー症状を改善させるプロ」と称する人がコラムを書いていた。肥満性細胞腫という犬の癌について、「抗ガン剤については、止めておかれる方が良いと思います」と書いた後に、


■犬の癌、犬の抗ガン剤について。 - 永井三千寿 [マイベストプロ大阪]


次は、血液をサラサラにする為に、ワンちゃんの腸内環境を整えることが大切かと思います。
なぜなら、腸の絨毛で血液が造られているという千島学説に照らし合わせると、腸の働きを高めることが重要となるからです。

腸がキレイになれば、そこから巡る血液もキレイになり、全身に巡る訳ですから、身体が元気になるのは、当然のことですよね?
腸というのは、身体のど真ん中にも位置し、免疫機能を司っている大切な働きをしていますし。


ドッグフードを安心、安全な物に変え、腸の働きを高めるサプリメントを活用すれば、相乗効果が上がりますしね。
それらに加えて、先ほどのようなガンに対する免疫力を上げるサプリメントを、併用すれば、さらに良くなるでしょうし。


腸の働きを高めることは重要かもしれないが、「腸の絨毛で血液が造られているという千島学説」はまったくのトンデモ学説である。詳しくは■千島学説(腸内造血説)に関するFAQで論じた。高校レベルの生物学の知識があれば千島学説のおかしさは理解できる。つまり千島学説に肯定的であることは、ごく基本的な生物学の知識すらないことを意味している。

犬の抗がん剤治療については私はまったく知らないのでノーコメントである。しかし、人間の臨床において、千島学説などのトンデモ学説の信奉者や、効果の明確でないサプリメントを売りつける業者が、医学的な知識なしに無責任に「止めておかれる方が良い」などと抗がん剤治療を否定することがしばしばあることは指摘しておこう。

引用元では「腸の働きを高めるサプリメント」「ガンに対する免疫力を上げるサプリメント」の部分がハイパーリンクとなっており、このコラムの筆者である永井三千寿氏が店舗責任者である「犬のアレルギー専科」というサイトに飛ばされる。私が読んだ限りでは、これらのサプリメントが「腸の働きを高める」「ガンに対する免疫力を上げる」という根拠は書かれていなかった。もし人間用であれば薬事法に抵触するように私には思われる。



■犬のワクチンって本当に必要なのでしょうか? - 永井三千寿 [マイベストプロ大阪]


人間のワクチンについても、そうですか、不要論を唱える方々がいます。

私が、会員となっている「千島学説研究会」に参加されている医師たちは、インフルエンザワクチン、最近、TVなどで取り上げられている「子宮頸ガンワクチン」などは、毒を打つようなものだから、必要ないと断言されています。


しかも、子宮頸ガンワクチンについては、「不妊ワクチン」とも揶揄されるぐらいですから。


(中略)


今回のテーマ、犬のワクチンについても、インターネット上に様々な情報が出回っています。


また、獣医が「犬のワクチンは、3年に1回で良い?」ということにも、意見を書かれています。


上記のリンクについては、お読み頂いている方の判断に任せますが、私は、去年から愛犬へのワクチン接種を行わなくなりました。
人間でも不要と言われているワクチンを、本当に、小さな犬、動物に必要なのか?、分からなくなったからです。


人間のワクチンについての不要論であれば私もよく知っている。『「千島学説研究会」に参加されている医師たち』は、なるほど、ワクチンは必要ないと断言するかもしれない。なんたって、病原体は自然発生するという説を信じているような人たちである。個々のワクチンについての要否は検討されるべきであるが、ワクチン一般が不要であるという論には科学的根拠が無く、専門家には相手にされていない。千島学説や「子宮頸ガンワクチンは不妊ワクチンだ」というデマを信じてしまう人が支持してるだけである。

犬のワクチンの必要性については私は専門外なのでわからない。しかしながら、狂犬病の予防接種については法律によって義務となっているのではなかったのか。「去年から愛犬へのワクチン接種を行わなくなりました」というのは問題があるように思われる。しかも一飼い主の意見ではなく、「専門家」を称する人のコラムなのだ。専門家であれば明確な根拠を提示してもらいたい。

以上、このコラムを書いた「犬のアレルギー症状を改善させるプロ」には多くの問題があるように思われる。基本的な生物学の知識に乏しく、科学的根拠のない学説に肯定的である一方、標準的な医学に対して否定的で、しかも効果の明確でないサプリメントを売りつけている。よくあるパターンであり、これだけなら私は記事にしなかったであろう。記事にした理由は、この「犬のアレルギー症状を改善させるプロ」が読売新聞グループのお墨付きを得ているからである。

■マイベストプロ大阪とは? | まちの専門家をさがせるWebガイド・マイベストプロ大阪によれば、「マイベストプロ大阪とは…読売新聞グループが運営する、おおさかの専門家・プロを探せるWebガイド。」である。「審査を通過した質の高い専門家のみ掲載!」されているそうだ。「千島学説研究会」の会員で、予防接種を否定し、「ガンに対する免疫力を上げるサプリメント」を売る業者が、質の高い専門家とみなされているわけである。






審査を通過した質の高い専門家のみ掲載!

具体的な掲載基準は発見できなかったが、「実際にお会いして取材」「掲載者の思い、顔が見える」*1などが述べられていた。しかしながら、他の専門家によるチェックはなさそうである。「犬のアレルギー症状を改善させるプロ」の例は獣医学の専門家がチェックしていれば掲載は容易に防げたであろう。(個人的に意見を述べさせてもらえば、全国紙の新聞記者なら別に獣医学の専門家でなくても、「犬のアレルギー専科」のサイトをざっと見て「これはなんか怪しい」と感じるぐらいのリテラシーは持っていただきたい)。

読売新聞グループは、「実際にお会いして取材」「顔が見える」なんてものはあてにならず、他の専門家によるチェックが重要であることを今まさに痛感しているところだと思う*2。「定期的な見直しにより、信頼性の維持・向上にも努めている」そうであるから、これを機会に「犬のアレルギー症状を改善させるプロ」が信頼に値するか否か、検討していただきたい。





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*1:URL:http://mbp-osaka.com/information/promise.html

*2:当時、「iPS細胞(新型万能細胞)から心筋細胞を作り、心不全患者に細胞移植の治療を行った」との読売新聞による報道が誤報であったことが判明した。