職質アンチパターン

無責任な事を書きたい

研究に対する情熱や愛が死んだ

前置きだけど,僕は学費を全部自分でまかなっているし,その他の諸経費も自分で支払っている.念のため.

研究に対する情熱や愛が死んだ.
かつては研究への士気はあった.学部4年の頃は学会に2ヶ月に1回くらいのペースで出席したし,論文も何本か提出した.マスター1年の前期は国際会議にも出席したし,国内の学会にも出たし,もちろん論文も数本提出した (何本かはリジェクトされ,何本かは査読が継続中).やる気があったのは,まだ自分の力でなんとか出来ると思っていたからだ.
そしてマスター1年の後期,見事にモチベーションが死んだ.モチベーションが死んだ理由ははっきりわかっていて,いくつかある.
この死んだやる気を復活させるには,そのいくつかの理由のいくつかを解決するか,あるいは全てを解決する必要があるのだけれど,自分の力や意識改革や祈りではどうしようも出来ない要因も多分に存在し,現実問題として根本的な解決は難しい.

さて,研究に対する情熱を死に至らしめた理由は以下の通りだ.

  • 良いフィードバックが無い
  • 研究室の雰囲気としてコンピュータサイエンスを軽視している
  • サーバー管理などの本質的ではない雑務を押し付けられる
  • 研究テーマが特殊で適切な評価を得にくい

良いフィードバックがないというのは,論文を何本書こうが学会に何回出席しようが,また研究室にいくら貢献しようが,報酬が一切無いということだ.ここで言う報酬というのは金銭の話ではなく,単純に評価されるとか,褒められるとか,そういった類のことだ.これらの事はやって当たり前で,やれなければ罵倒される.仮にやっていたとしても,「進捗が無い」などと言われてやっていないとみなされる事もある.マイナスのフィードバックしか無い状態でモチベーションを維持するのは非常に骨が折れる.僕のような承認が欲しい人間には無理だ.
本音を言えば,フィードバックサイクルを細かく回して,良かったことや悪かったことをこまめに振り返りたい.人間,そういう風に細かいスパンで評価しなければ行動への原動力は失われてしまい,やる気は萎えてしまうと思う.活動に対する評価が無かったり,常に怒られたりする環境で実績を上げるというのは不可能に近いのではないか.

コンピュータサイエンスの軽視に関しては絶望的だ.
本来アルゴリズムとは呼べないようなものをアルゴリズムと持ち上げ,本質的なアルゴリズムやデータ構造を軽視し,場当たり的な解決法しか発想として出てこない.バージョン管理システムは「わからないから」という理由で利用を咎められる.
また,コードの品質を高める事に関する理解が無い.必然的に糞のようなソースコードが乱造される.コードの品質を高めようと努力すると,そんなことをしている暇があったら進捗を出したらどうですか,とか言われる.「劣悪極まりないコードを第三者が見た時,そこから気づきや発見は得られるのだろうか.」「この悪質なコードを引き継いだ後輩はどういう気持ちになるのだろうか.スムーズに研究を進められるだろうか.」という可能性を考えていないし,結果として高くなるコストに関して想像が及んでいない.
僕はもっと本質的な並列処理を研究できる,ちゃんとした信号処理を研究できる,と思ってこの研究室に入ったのだけれど,その期待は見事に裏切られた.研究室のリサーチ不足であった.反省しなければならない.

また,サーバー管理などの本質的ではない雑務が次々と押し付けられる.もちろん無償で.こういった事をid:y_uukiさんも記事中で書かれていたが,これは一般的なことなのだろうか?
無論こういった雑務を誰かがやらねばならないのは理解できる.研究室を円滑に運営するには必要なことなのだろう.しかし,本分である研究を圧迫する量の雑務を押し付けられ,それが原因で研究が滞れば怒られ,かと言って雑務の方をペンディングしても怒られる.この状況でやる気を出せ,というのは中々に困難だ.
多分,こうした最悪のサイクルは今後も続いていくのだろう.僕の後に引き継ぐ人の負担の軽減のために,セットアップスクリプトやChefのレシピやドキュメントなどを残してはいるが,有効活用されるかどうかは分からない.こうした属人性を避ける試みは,どうやら忌み嫌われる風潮にあるようだ.

研究テーマが特殊なのも要因の1つとなっている。僕の研究はいわゆるHPCと特殊なドメインの信号処理を組み合わせた内容で,HPCの分野からは「そのドメインや信号処理よくわからない」,信号処理の分野からは「そのドメインについても詳しく分からないし,HPCって何?」,特殊なドメインの分野からは「HPCも信号処理もわからない」という反応しか得られず,非常に虚しい気持ちになる.
つまるところ,研究内容がメインストリームではないが為に常にアウェイで適切なフィードバックを得ることが出来ないので,こちらもやる気を失わせるには十分な要因となっている.

結局のところ,僕は適切なフィードバックや評価が欲しいだけなのだと思う.この研究室でそうした適切な評価を得ることは不可能だと判断した僕はアルバイトという,少なくとも金銭というかたちでフィードバックが得られる世界に傾いていった.コードを書いて新しい機能を実装する,コードの品質を高める,そういった活動が金銭に変換されるのは快感だし,サービスに反映される様は見ていて非常に楽しい.なにより,そうした話題を共有できる人たちと出会えたのは大変良い体験だった.むしろこちらの方が学びがあるし,楽しい.

研究室を変えるとか,研究テーマを変えるとか,そういう事は正直もうどうでも良い.こうした連続的な最悪の体験により,大学やそれを中心とする研究やそれを中心とするアカデミックな雰囲気に僕はもう嫌気が差してしまった.普通に向いていないんだと思う.

早く逃げたい.修了したい.幸いな事に修了条件は満たしているから修了は出来そうだけれど,あと1年以上この最低極まりない環境に留まらねばならないのか.そう思うと気が滅入ってくる.正直大学や研究室に行きたくない.