2024.12.16

川と共に生きろ!佐賀・六角川流域の「フェス」に込めたメッセージ

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

佐賀県の4市3町にまたがり、白石平野を蛇行しながら有明海に注ぐ六角川(ろっかくがわ)。
河口部では約6mにも及ぶ干満差があり、その特徴を利用した舟運によって炭鉱が発展した歴史ある流域です。
しかし、その干満差ゆえに歴史的に氾濫を繰り返している川でもあり、流域の住民は「六角川との関係性」を常に考えながら暮らしを営んできました。

そんな中、「多くの人に六角川の素晴らしさ、六角川と共に生きる大切さを伝えたい」という想いのもと、2024年10月に地域密着型フェス「六角RIVERフェス in 大町 2024」が初めて開催されました。

そのフェスの様子をレポートすると共に、フェスという形にした理由や開催背景などについても、「六角川、川の学校」の校長で、六角RIVERフェス実行委員会の代表も務める下田代満(しもたしろみつる)さんに伺った内容をもとにお伝えします。

六角RIVERフェス in 大町 2024開催レポート

2024年10月20日(日)、佐賀県大町町スポーツセンターにて「六角RIVERフェス in 大町 2024」が開催されました。
「六角川流域を『人・音・食・遊』でつなぐプロジェクト」として初めて実施され、大町町や周辺地域から幅広い世代の方が集まり、盛り上がりを見せると同時に「六角川のことを身近に感じられる」場所となっていました。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

メイン会場の大町町スポーツセンターみどりの広場では、「人・音・食・遊」をテーマにイベントが終日開催され、地域内外から多くの人が来場。
当日はミズベリング事務局メンバーも会場入りし、実行委員の方におすすめしていただいた「大町たろめん」など地域のグルメを堪能(食)。
他にも地元作家・店舗のブース出展(人)、ライブペイント(遊)、音楽やダンスのパフォーマンス(音)など様々なコンテンツがあり、様々な関心を持った様々な層が集結している光景が印象的でした。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

また、六角川エリアではカヤック体験ツアーが開催されました。
上り・下りと2つのルートがあり、これは有明海の干満差の影響で潮の流れが変化するために作れるルートだそうで、ツアー中も潮の流れが変わる瞬間を目の当たりにしました。
また、カヤックを漕ぎながらガイドさんから六角川の歴史や治水に関する話を聞き、特に「昔は氾濫する前提で生活エリアが川から離れた場所にあり、かつ流れ出た土砂がかえって田んぼの栄養になっていた」というお話が印象的でした。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

(写真提供:六角川、川の学校)

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

(写真提供:六角川、川の学校)

六角川はどんな川なのか?

ところで、そもそも六角川とはどのような川なのでしょうか?

名前を聞いたことがある人は、もしかすると「六角川=水害の川」というイメージをお持ちかもしれません。
実際、1990年、2019年、2021年には大きな浸水被害が発生するなど、洪水に悩まされてきた歴史があります。
筆者は、その原因を「六角川が緩い川だから」と考えていました。
事実、河口から29 kmにある大日堰までの平均河床勾配は1/4,000程度で、ほとんど平坦な中を流れる川であるといえます。
そのため、六角川の流路は白石平野の中をグネグネと蛇行しており、江戸時代から捷水路(蛇行をショートカットするための水路)が建設されてきました。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

(地理院タイル (全国最新写真(シームレス)および治水地形分類図)を加工して作成)

しかし、改めて全国にある河川の河床勾配と比較して見ると、実はそれほど緩い川でもないのです。
例えば東京を流れる荒川は、河口から30 kmほどの区間で平均河床勾配を計算すると1/5,000 ~ 1/10,000程度で、大阪の淀川も同様です。

では、六角川ならではの特徴とは一体何なのでしょうか?

その鍵は海に潜んでいます。
六角川は、筑後川や白川、本明川などと共に、九州北西部の4県にまたがる九州最大の湾である有明海へと流れています。

その六角川の最大の特徴は、大潮で6mにもなる非常に大きな干満差です。

川の河口の水位は海面の高さで決まるため、有明海が満潮時の六角川は河口の水位がとても高くなり、水はけの悪い川(洪水が氾濫しやすい川)となってしまいます。
これが、六角川が長らく洪水に悩まされてきた原因なのです。
そのため住民の中にも、六角川を「生活を脅かす怖い川」と感じてしまう人が増えてきているのかもしれません。

しかし、有明海の大きな干満差は、川にとって決してネガティブな要素だけはありません。
その一つが舟運の発達で、昭和20年代後半に日本の石炭産業が最盛期を迎えると、その石炭を運び出すために六角川の舟運が用いられ、六角川沿いの大町町の杵島炭鉱は大変な活気を帯びました。

通常、舟が下流から上流に川をのぼることは難しく、風や動物の力などをうまく動力として使う必要があります。
しかし六角川は、有明海の潮が満ちる時、川の水が下流から上流に勢いよく逆流するため、その流れに乗って川をのぼることができたのです。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

(写真:大町町公民館所有)

「六角川が有明海にとっても重要な河川であることも、やっぱりみなさん知らないんですよね。六角川が佐賀平野とか白石平野とかを作ってきた歴史があり、かつ自然がよく残っていて、有明海の生き物たちの稚魚にとっても良い育成の場にもなっている、すごくいい川なんです」

そう六角川の特徴を話すのは、六角川で30年以上も水環境活動に取り組み、六角川が流域にとって重要な河川であることを伝えるために「六角川、川の学校」を立ち上げ、六角RIVERフェス実行委員会では代表を務める下田代満さん。
1949年に大町町で生まれ育ち、舟が往来する六角川の姿を原風景にもちながら、釣具屋として働くなど有明海に関わる機会も多かったそう。
下田代さんにとって、六角川と有明海は切っても切れない存在なのです。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

(下田代満さん)

しかし、下田代さんには当たり前の「六角川とのつながり」も、多くの人の意識からは遠のいてしまっています。
そこで下田代さんは、「六角川、川の学校」の立ち上げや、「森と海を結ぶ会」(佐賀のボランティアグループ)の活動を通じて、行政とも連携しながら、六角川の流域と海のつながりを多くの人に知ってもらうための取り組みを進めてきました。

六角RIVERフェスに込めた思い

今回、下田代さんが六角RIVERフェスに込めた思いも、まさにこの「知ってもらいたい」という部分にあります。
根っからの六角川好き、郷土愛に溢れる下田代さんにとって、1999年、2019年、2021年の三度の水害によって「六角川に背を向けた暮らし」が加速してしまうことはとても残念なことでした。

「立て続けに起こった水害に対して、六角川がクローズアップされて、排水ができなかったために悪者のように扱われたんです。そのタイミングで『流域治水』という言葉がよく聞こえるようになりました。流域治水のためには、やっぱり流域内で人が繋がり、あまり浸水しないエリアで浸水しやすいエリアの水害を軽減していく必要があると理解してもらうことが大事だな、と。それで、人をつなぐためのツールとして、カヤックを使うようになりました」

人を繋いでいくことで、川に対する理解者を増やしていこうと考えた下田代さんは、2022年からカヤックをツールに流域をつなぐ活動を開始。
2024年2月には、流域市町の首長さんをカヤックに乗せて、川のつながりをまちづくりに生かしてもらう働きかけをされてきました。
そして今回、川のことや流域と海のつながりをより多くの人伝えていくために、六角RIVERフェスを開催したのです。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

しかし、六角川でカヤックの利用をする上で、いくつか課題があるようです。

一つは、有明海の干満差の影響で、階段護岸を使える時間が限られること。
潮が引いてしまうとカヤックの乗り降りが難しくなってしまうのです。
そしてもう一つは、川への入りづらさ。
ガタ泥の堆積やヨシの繁茂によって、河川敷には水面に乗り降りできる場所が少ないのです。
かつて大町精霊流しのために建設された階段護岸も、六角川の堆積物であるガタ泥に埋め尽くされていたために改めて掘り返したそうです。

さらに、六角川の逆流によって海のゴミがどんどんと上流に押し寄せられ、それが河川敷に溜まってしまうというゴミの問題もあります。

しかし、そうした現状は多くの人に伝わっていません。
だからこそ、下田代さんは「川の中を見てもらい、六角川と自分たちの暮らしの関係性を考えてもらうことが最大の目的だ」と言います。
今回行われたイベントには、日頃から川のことをあまり考えたことのない人たちが川のことを知るきっかけになってほしいという純粋な思いが込められているのです。

そのアクションの一つとして、今回の六角川RIVERフェスの会場にはゴミ箱が全く設置されていませんでした。
「参加者にポリ袋を渡し、自己責任でゴミを持ち帰ってもらう」形にすることで、六角川のゴミの問題を身近に感じてもらい、参加者全員で六角川の環境を守っていく姿勢を示したのです。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

また、カヌーツアーがガイドさんの話を聞きながら進む形だったのは、六角川の魅力とともにこれらの問題や今後の課題などについて体感できるようにするため。
流れの変化や堤防と水面の高低差などを川の中から観察し、かつガイドさんが過去のことも教えてくれることで、六角川と周辺での歴史や未来像について、より自分ごととして考えてもらうためにカヌーツアーを開催したのです。
その中で、川を流れるゴミや滞留しているゴミを目の当たりにし、ゴミ問題をリアルに感じる重要な機会にもなっていました。

仲間たちがイベントに彩りを添えた

ここで肝心なのは、六角RIVERフェスは決して下田代さんが一人で企画したものではないということです。
主催である六角RIVERフェス実行委員会のメンバーは21名(2024年10月時点)まで増え、それぞれが思い思いのアイデアで楽しいフェスにするため奮闘しています。
また、地元企業も非常に協力的で、まさに人のつながりが生み出すイベントになっています。

また、イラストが印象的なイベントチラシは、実行委員会の会議の会場になっていたカフェのオーナーがデザインに詳しい人で、積極的にイメージを考えてくれたそうです。
当初、チラシの真ん中に掲げられていたキャッチコピーは「川と共に生きる」という控えめなものでしたが、その人の「もっと力強いメッセージにした方がいいんじゃないか」という意見を踏まえて、今回の形になったようです。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

下田代さんは、カヤック体験と小さなマルシェのみを行うつもりで企画を始めたそうですが、チラシの通り最終的には「MARKET・FOOD・MUSIC・LIVE ART・カヤック体験」と盛りだくさんのイベントとなりました。
これこそ実行委員会のメンバーが、それぞれやりたいことを実現しようとした結果であり、下田代さんは「どんどん私の考えから飛び出して、もうライブがメインみたいな感じになりつつあるというか、主導権を奪われつつあるような感じですね(笑)」と嬉しそうに話します。
メンバーの個性が発揮されてイベントが彩り豊かになることで、結果的に多くの人が参加しやすいものになったのだと思います。

「六角川愛」を次世代へ繋ぐ

「武雄の流域で一巡したら、あとは誰か次の世代の人に受け継いでもらおうと思ってはいますが、それまでは頑張りたいですね」

下田代さんの深い六角川愛、地元愛に端を発した六角RIVERフェス。
多くの人に川を楽しむ機会が提供され、川を通じた流域での人のつながりもすでに育まれており、今回のイベントで目的はすでに達成されているようにも見えます。
しかし、あくまで今回は “in 大町” の第1回であり、今後も六角川流域の市町を巡って回を重ねていく計画になっています。
実際、会場では「大町以外の場所で第2回も開催できればいいですね」という声も聞こえており、第2回は”in〇〇”が別の地域名になっていくのでしょう。

佐賀 六角川 リバーフェス ミズベリング

(六角川流域である佐賀県杵島郡江北町と白石町を結ぶ新渡大橋)

また、親しみやすい下田代さんの人柄と愛情に、多くの人が心動かされて六角川RIVERフェスは実現していますが、今後は次世代に主導権を渡しながら運営し、六角川が世代を超えて愛される川にしたいと考えられています。

「まず、六角川そのものが素晴らしい川であることを、みんなに伝えていきたい。『ここには素晴らしい川がある』と、ふるさと自慢というか、よそに自慢できるような川にしていきたいですね」

近年、気候変動や流域治水といった言葉がお茶の間を賑わせ、「川=水害」とイメージされがちです。
しかし、下田代さんが語るように、六角川は自慢できる素晴らしい川であり、決して怖いものではありません。
より多くの人が同じように六角川を好きになれば、もっと豊かな川にするためのアクションが生まれていくはずです。
例えば、水の流し方も今とは変わり、生き物のことを考えた川づくりも進むでしょう。
下田代さんの六角川愛は、次世代の「川と共にある豊かな暮らし」に繋がっていくのだと思います。

この記事を書いた人

ミズベリング

ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。

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