四十路女が日本一長い路線バスに乗って片道6時間の旅へ。日本最古の神社で文学賞最終候補祈願するのこと

 

日本一の路線バス「八木新宮線」とは

「全長169.8㎞、停留所の数は168、高速道路を使わない路線では、日本一の走行距離を誇る路線バス、それが八木新宮特急バスです(奈良交通HPより)」

 

プロローグ

2021年仕事納めの12月末。小さな印刷会社でデザイナーとして働く私は、例年であればこの時期は年賀状業務などもとうに終わってあまりやることもなく、のんびりと消化試合のような仕事をこなすはずであった。が。おいこらどういうことだ。仕事納めの日まで年賀状百枚単位で刷ってるじゃねえか。1日に一気に7件校了させて即日「g」に入稿した後自社で五百枚ハガキ印刷、さらに名刺4名は別で「P」に入稿とかやめてくれ絶対ミスするやんか。

心も体もボロボロ。薬物のオーバードーズ(※ボラギノールを多めに投入すること)など、不安定な年の瀬、私の心の支えはこの旅路への期待感だけだった。


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これである。

 

冒頭に記したように、八木新宮線とは日本一長い路線バスだ。

長距離バスの旅というと一般的には高速バスを思い浮かべる人が多いと思う。

しかしこちらが凄いのは、なんと言っても一つ一つの停留所に人が待っている可能性がある(そして実際乗ってみてわかったが、途中めっちゃ人が乗ってくるし降りていく)そんな地元に根ざした日常の交通手段というところなのだ。

そのその乗車時間、実に約4時間半(今回はスタートの近鉄八木駅バス停から蕨尾口停留所まで)。ちなみに新宮まで乗った場合はトータル6時間半かかる。

 

考えて見て欲しい、運転手さんは、その間のバスの停留所168カ所の通過時間を、寸分違わず守りながら169.8キロもの道のりを運転しているわけである。このことを考えただけでも、私は非常に胸が熱くなるのだった。

 

そんでもって、まあ実家は和歌山で、祖父母の家はちょうどこの八木新宮バスの走行区間である奈良の御所方面なので、通過するルートに親しみも情景もあるというか、とにかくいつか絶対乗りたい路線バスだと思っていたのだ。

 

とはいえ。6時間半だよあなた。あと、新宮って、下手に海外旅行行くより和歌山県内移動でも普通に3時間とかかかる場所なんですよ、新宮、なめたらいかんのですよ。

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地元民だからわかる、新宮の遠さ。とにかく時間がかかる。そして、長時間のバスである。体力的にも自信がなく、あとお尻の治安もそこそこ不安定でボラギノールが手放せない私としては、一歩を踏み出せすにいたのだった。

そんな時に、この交通費キャッシュバックキャンペーンがあるよという知らせが妹からきたのだ。コロナの感染者数もその頃は二桁もない日が続いていた。

よし、乗るしかねえ、このビッグウエーブならぬ、奈良交通バスに!!ということで、妹と二人で2021年の締めくくり、12月28日・29日、旅が始まったのです。

 

旅のスタート!ワクワクとトイレへの心配が止まらない!

12月28日旅の始まり当日。嬉しくてたまらんのだ。もう、異常にワクワクしていた。

出発は近鉄八木駅11時38分なのだが、まず初めに小5の娘を夫の実家に預けてから出発しなくてはいけなかった(夫の仕事納めは私より1日遅かったので、私が旅に出てる間は娘が家に一人ぼっちになってしまう)のと、何より万が一電車が止まったりしてバスに遅れては絶対に困ると思ったのでかなり早めに家を出た。

鶴橋のこの時刻表、ザ近鉄って感じで好きなんよなあ。


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鶴橋から近鉄大阪線。


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そして割とちょうど良い時間に八木駅到着。


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駐輪場の壁面カッコいいな

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で、心配していたのは、トイレである。今回八木駅から目的地の蕨尾口停留所までは約4時間40分。

この日本一長い路線バスは、路線バスにもかかわらずトイレ休憩が何度かあるのも大きな特色だ。八木駅から乗った私が次にトイレチャンスがあるのは五条バスセンター停留所、バスに乗り込んでから約1時間20分後ということになる。水分補給は、慎重にしなければいけない。

新宮行きバス停。新宮の遠さを知る者は、この文字だけでも震え上がる。


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ちなみに、和歌山県山間部にすむ妹は五條まで自家用車で行き、駅前のコインパーキングに車を停めてから五条駅停留所で合流することになっているが、この有様である。


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尿意を恐れ過ぎて朝からキャベツしか食ってない。

しかし私は、トイレをこんなにも心配しているくせに、同時に「コーヒー気狂い」という悲しい習性を持つ女だったのだ。コーヒーを飲まなければ、どうにもこうにもいられない、絶対トイレ行きたくなるのに、そう、わかってる、だけど、だから一口だけ……。

駅前の素敵な喫茶店に入りたい誘惑はなんとか断ち切った。


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でも、もう、飲めなくてもいいからアロマ的な感じで手元に置いておきたかった。そして八木駅前のローソンでコーヒーを一杯買ってしまった。

それにしても、この路線図のながいことよ!
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奈良交通の鹿マーク、可愛いね。

バスが到着した。中はこんな感じ。


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おお、ドリンクホルダーがあるではないか!これでコーヒーを飲むペースを次のトイレ休憩までに調節できそうだ。というか、ドキドキわくわくしすぎて一瞬だった笑。妹と五条で合流。


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ここまで、最初から長旅をするぞ!という感じでバスに乗り込んだ私のような人は車内に8人程度。

 

その他の何人もの人々は、途中の駅で去り、そしてまた途中から乗ってきたりしていた。

ある老人は途中の病院に通院していたし、あるカップルは途中の橿原神宮イオンで降りた。

ある人は「こんな所で降りるのか!」とびっくりしてしまうような何もない山奥に降りていった。

みんな、当たり前のようにいろんな人が生活の大切な交通手段としてこのバスを利用していることに、なんだか感動してしまったのだった。

 

景色がどんどん白くなる

13時6分に五条駅停留所を過ぎてからは道のりが本格的に山のなかへと突入する。延々と上り坂カーブオンリー、旧国道の細い道路も多く、運転手さんの神がかりの技が続く。窓の外の景色は、高度を増すごとに白くなる。


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そして五条バスセンターの次のトイレ休憩、15時に上野地停留所で約20分、再びのトイレ休憩。ここのトイレのすぐそばには「谷瀬の吊り橋」という日本一の吊り橋がある。


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凍る吊り橋、踏み板がベコベコと浮くし滑るしスリル満点。


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次のトイレ休憩は16時14分十津川温泉停留所。私たちの泊まる民宿はそこからもう少しだけ先の蕨尾口、この日のゴールはもうすぐだ。

 

最高すぎた民宿「太陽の湯」

蕨尾口停留所は、細い山道の途中にあった、そしていきなり到着し、めちゃくちゃ慌ただしくバスを降りた。


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私にしてみたら片道六時間の目的地であり、余韻に浸りたいような気持ちであったが、あくまでもこれは路線バス。168の停留所うちの1つであり、さっさと降りてスムーズにバスが出発できるようにしなければいけない。

 

目的の宿は停留所から歩いてすぐであった。


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というか、十津川温泉停留所からも全然歩ける距離だった。そしてこちらの民宿が、何もかも実に最高だったのである。


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ご覧くださいこの、これ、素敵な部屋!きゃー、テンション上がる妹と私。

晩御飯は、ボタン鍋と鹿肉のカツなどジビエに舌鼓。

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そしてなんといってもこちらの宿が最高なのは、源泉掛け流しの天然温泉が3つもあり、いつでも入浴可能な上、「必ず1家族で貸切にできる」仕組みなのである。

どういうことかというと、こちらの民宿の温泉、男女が分けられていないので、女性が入浴する場合必ず「入浴中」のふだを出して鍵を閉めなければいけないことになっている。つまり、女子が風呂に入ってる間は実質貸切ということになるのだ。

これは家族にも嬉しいシステムで、なぜかというと通常子供は同性の親としか公共の浴場には入れない。もし、両親と子どもで入浴したい場合は、当然家族風呂を別料金で申し込むことになる。しかし、この宿なら1家族で一つの温泉を使用できる。

私と妹も、二人だけで露天風呂を独占できてとても贅沢な気分だった。

 

ただ、3つある温泉のうちの、一つがめちゃめちゃ熱かった。笑えるほど熱くてもう絶対人間が耐えうる温度じゃねえって感じの温度で、しかもこの温泉にはシャワーがなかった。あるのは水が出てくる水道と、長いホース。風呂場は極寒。しかしお湯は熱湯。クソ寒いのに湯船に入れない私たち。


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そこで、ホースから水を出し、それを湯船に二人で持って入ることにした。とにかく寒すぎて凍死しそうなので湯に浸かりたかった。


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なんだか長いホースを握りしめて、シーシャしてるインスタ女子っぽいね、と思った。

うん、全然違うしシーシャってなんやねん若い女の子ら、なんであんなシーシャばっかり嬉しそうにやってんのやろっておばはんいつも不思議やねんけども。

 

お風呂は4回入った。

貸切なので、露天風呂では風呂場の電気を全て消して、真っ暗な湯船に浸かり降ってくるような満天の星空を、妹とずっと眺めていた。

早朝は、夜明け前の時間を狙って再び露天風呂へ。相変わらずの極寒。まだ真っ暗な空が段々と開けていく様子は、とても神秘的だった。

 

民宿に持って行くべき3品はこれ!

ここで突然ですが民宿に持って行ってよかったもの3つ。

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コーヒー、鏡、エリップスの小分けトリートメント。これです。

いま私、地味にお役立ち情報書いてるので、民宿泊まる予定あるよーってひとは今日はここだけでも忘れないように帰ってください。

 

私は年に2回ほど家族旅行に行くのですが、ホテルなら通常コーヒーのサービスはあるし、鏡は部屋にドレッサーがあります。でも、民宿の場合はコーヒーもないし、部屋にトイレがついていないことも多いです。当然ドレッサーもありません。共用の洗面所の鏡で化粧をするのも何だか私は落ち着かないので、私は民宿に泊まる時はドリップパックと、大きめの鏡を持っていくようにしています。折り畳みの鏡はマツキヨのロージーローザ、SNSでもよくみるやつで鮮明に肌が映るので厚化粧にならずオススメ。普段から家でも役立つ。


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あと、エリップスのトリートメントは軽くて小さくて旅にはぴったりです。髪もサラサラになる。

おまけ

妹は、和歌山県民らしく「旅には蜜柑やろ!」言うてこの通りでした


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光る雲を突き抜け「玉置神社」へ

12月29日。この日は、玉置神社へ参拝する

ja.m.wikipedia.org

 

玉置神社は、十津川温泉停留所から1時間半の場所に位置する。玉置神社へ行こうかどうか妹に相談していた時のLINE画面。


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八木新宮バスの時の流れを前にして、もう姉妹揃って時間の感覚がおかしくなってる。一時間半とか五分ぐらいじゃねぐらいの気持ちになってしまっている。

ちなみに友達に玉置神社へ行くことを報告したらスゴイスゴイ言われたときのLINE。

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しかしこの時、本当の玉置神社の凄まじさを私達はわかっていなかった。

十津川温泉からバスに乗る。山をのぼり、車窓には雲海が。
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私達、いま雲の中を通ってるんだ。視界がとても悪い。
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そして道がツルツルに凍っている上に細い。

対向車が来たらどうするのだろうかという細さ、そしてガードレールがない。緊張感が半端ではない。

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そうして一時間半、ようやく鳥居が見えてきた。やったー!到着!お参りしよー♪

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って、え?

 

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なに


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この凍ってる山道、さくのない崖っぷちを、


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歩くのか、何分?五分とか?
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いや
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もう、何分歩いた?戻るに戻れない
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てか、さっきの鳥居何やったの笑

こんな凍ってるのに普通のスニーカーやし足元への不安感がすごくて、滑らないように神経を集中させながらへっぴり腰で歩くこと40分……暑いっ!

雪なのに汗だくになる私。これは更年期関係ないと思う。メガネが曇る。二日目もコンタクトにしなかったことを後悔。
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そして、ようやく到着……!
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また、同じ道を帰るのか……
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めちゃくちゃ喉が乾いた。暑くて、コーヒーとかいらんからスポーツドリンクが欲しかった。

こんな山の中に自販機を置いてくださったダイドーさんに心から感謝。
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いやー、まじで子供連れてこなくてよかったよなと心から思った、過酷な道でした。

今回の服装反省点

ここで今回のバス旅ファッションチェックですが、出発前に大寒波が来ていたこともあり、もともと十津川村は寒いのが有名な場所ですから、そりゃもう寒さ対策は万全にしておりました。

また、スカートはプリーツだと長時間座ることによって尻の圧でプリーツがぐちゃぐちゃになってしまうと思ったので、防寒とラクさを重視してウエストゴムのニットスカートにしました。トップスはユニクロのウールセーターです。


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で、帰りの29日は18時頃に大阪梅田に戻れる予定だったので、そのままその日は夫と二人きりだし、久しぶりにちょっと高級な店で晩御飯食べようかなんて話になってたのです。だから、あまりカジュアルな服装をしたくなくて。どうせバスに座っているだけだし、バッグもCELINEのラゲージにしたのですが、これは激しく後悔しました。革が重い。


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紀州のドンファンの元嫁がドンファンに買ってもらったことで有名なCELINEラゲージも、まさかこんな山奥の雪道でへっぴり腰で運ばれるとは思ってなかったでしょう。

私だって、よもやここまでスケートリンクのような坂道を長いこと歩くとは思ってなかったので、29日の梅田ディナーも見越して何ならヒールの靴を履いていこうとしていたんです。ほんまにスニーカーにしといて良かった。バスで後ろに座っていた若い女性二人組も同じことを喋っていたので、女性はここほんと服装気をつけてください。

 

玉置神社は、その立地条件から「選ばれた人間しか辿り着けない場所」と言われているので、レポート自体が少ないのですよね。

なので私がここで声を大にして言っておきます「玉置神社へは、ヒールを履いて行ってはならない。セリーヌもダメ。ワークマンの雪靴で出来れば手ぶらで行こう」です。

 

さて、玉置神社では絵馬を描きました。


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新潮社R18文学賞、今年も一次選考は合格したのです。


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実は一次通過は初めてではなく、過去には最高で二次まで進みました。

だからこそ、残りたい。今度こそ、最終に残りたい。一番に願うことは家族の幸せです、でも2022年は、2番目の願いとして何よりこれを神様に聞いてもらいたかった。

 

かくして2021年私のバス旅は終わりました。

でも今もまだ小説の結果は出ていません。毎回この期間は怖くて怖くて、もうずっとこのままドキドキしていたほうが幸せかもしれないとさえ思います。

 

そもそも過去には二次選考まで残ってたのに、今もこうして挑戦しているということは、その分落選し続けているということですからね。

 

デザイナーの仕事は忙しい。そして何より大切なのは家族。子育てと家事はおろそかにできない。圧倒的に書く時間がない。それでも寝ずに書いて、落選。何度も、もう早く夢なんか諦めて楽になってしまいたいと思いながら、だけどやっぱり書くことをやめられずにここまできました。

 

やめずにいられたのは、こんな私にいまも報酬を提示して文章依頼をしてくださる太田明日香さん、フラスコ飯店の川合さん、サンポーのヤスノリさんの存在と、そのご恩にいつか報いたいという気持ちもあるからです。

特に昨年は太田明日香さんの発行する「B面の歌を聴け」にエッセイを書かせて頂き、イベントにも参加できたことがほんとに大きなモチベーションになりました。

 

サイドストーリー

とはいえ、誰にも読まれない小説に労力と時間をかけ続けることは、相当にしんどい。自分の無能さに嫌気がさすのを通り越して笑えてくる。

何時間も何日も考えて、もがいて生み出した文章も、落選してしまえばそこで終わり。初めから無かったことと同じ。誰の目に触れることもない。ゼロ。この虚無。

みんなに見られたいから書くわけではない、そうかもしれない。

でも、毎日仕事をがんばって、愛する子供の心配事に気持ちを持っていかれながらも何とか時間を捻出し、必死で書いた小説が、誰にも読まれずに消えていく。これが何度か続くと、はやく俺をラクにしてくれよ、という気持ちにもなる。

 

遡ること2018年の文フリ

ここに一冊の本がある。2018年の大阪文フリで購入した本。


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その名も「ちょっぴりエッチでかなーりおバカな大和八木〜新宮167k m!日本最長路線バス旅行記」。

そう、今回の旅の主役八木新宮バスについて書かれたもので、綿密な取材を経てバス旅の内容が記されているのだ。

しかしそのしっかりした情報量にも関わらず、私が気になって仕方だなかったのが、「ちょっピリエッチでかな〜りおバカな」部分なのだ。

私の著書ではないので自費出版の内容を引用するのは失礼かもしれないという事情から残念ながら内容を載せられないのだけど、この本、本当に意味わがわからんぐらい無意味な下ネタとよくわからないアニメの内輪ネタが随所に散りばめられているのである。

取材量は本格的なガイドブックに遜色ない厚みとなっている。なのに、突如「ああっ出る!はあああああん」みたいな文言が急に出てきたりして、筆者の趣味?の訳のわからん下ネタ?かどうかも良きうわからない独特の文体が随所に繰り広げられるのだ。私は大変混乱した。なんで普通に書かないんだろう。「ちょっぴりエッチで」って、別にエッチなアクシデントは最後まで起こらないのに、1人で盛り上がってるだけやん……。

 

でも、この人、すごく楽しそうに文章を書いてるんだよな。

 

誰に評価されたいとかじゃなく。

 

今回バス旅をすることになり、本棚からこの本を数年ぶりに引っ張り出して改めて読んでみて、私はちょっと感動してしまった。このちょっぴりエッチな本に、改めて書くことへの大切な姿勢を教えられた気がする。

 

誰に見られなくても。私は書くべきなのだ、今年も。

ああでも玉置神社の神様、最終まで残らせてください、最後の1人に選ばれなくていいから、新潮社のホームページに公開されて読者投票してもらえるとこまで行きたいです、ね、神様。

 

余談


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本当はタイトル「痔主の四十路女が〜」にしたかったんですよね。そのほうが長時間バス旅のインパクト出るかなと思って。でも私のおしりは確かにしばしば治安が悪くなるのだけど、ボラキノール入れときゃすぐ良くなる程度の軽いやつで、世の中には、もっと重い痔の症状で困ってる人がいるだろうと思うとそこは簡単には書けないなと思って。私ごときが痔主名乗れないなって。俺のほうがとんでもない痔主だぜって、痔主マウントされちゃうかもしれないし、そんなこの世で一番悲しく情けない争いの芽は摘んでおいた方がいいし、自分の言葉と文章には責任持ちたいのでタイトルに冠するのはやめておきました。痔にも文章にも真摯な態度で向き合う私です。最後なんちゅうまとめ方よ。



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