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混合診療原則解禁論の新種「ビジネスクラス理論」を検討する
二木 立(日本福祉大学教授・副学長)(2010.4.12補注)

2010/04/09

 2009年9月の民主党を中心とする連立政権(以下、民主党政権)の発足前後から、航空業界の「ビジネスクラス理論」を根拠とした新種の混合診療原則解禁論が主張され始めました。

 「ビジネスクラス理論」とは、かつて経営困難に直面していた航空業界が「ビジネスクラス」を発明することにより、経営が改善し、最新鋭機の購入が可能となった結果、航空機事故が激減し、その恩恵がエコノミークラスの乗客にも等しく行き渡るようになったとするものです。そして、この理論・経験を根拠にして、一部の指導的医師は、病院にもビジネスクラス=混合診療を導入すると、病院経営が改善するだけでなく、一般の患者も最新の医療サービスを受けられるようになると主張しています(1、2、3)

 この論理は直感的には魅力的に見えるためか、特に大病院勤務医の間ではかなりの支持を得ているようです。しかし、私がこの半年間、各種文献・資料を調べたところ、「ビジネスクラス理論」は学問的検証を受けていない俗説で、しかも歴史的事実に反することが明らかになりました。しかも、「ビジネスクラス理論」を根拠にして混合診療解禁を主張する人々は、航空業界のビジネスクラスに相当する混合診療が既に解禁されている事実を見落としています。本稿では、これらについて簡単に説明します。併せて、規制改革会議が2009年12月に発表した「規制改革の課題」で、混合診療解禁の根拠と対象をガラリと変えたことを指摘します。

航空業界の「ビジネスクラス理論」は歴史的事実に反する
 航空業界の「ビジネスクラス理論」の初出は、東京大学医科学研究所の上昌広氏等(3)によると、社会システム・デザイナーでオリックスの社外取締役などを務める横山禎徳氏が、2007年11月に「現場からの医療改革推進協議会」で行った講演「社会システム・デザイン・アプローチによる医療システム・デザイン2」(4)です。そこで横山氏は大筋で以下のように主張しました。


 航空業界は、1970年代初頭には利益が出るか出ないかで、機材更新ができない最悪の状況でした。しかし、70年代半ばから後半にかけて、料金を定価通りに払ってくれる企業を対象とする「ビジネスクラス」を発明した後、航空業界は急速に潤い、そのおかげで最新鋭機(第4世代の飛行機)の開発が進みました。

 その結果、飛行機の安全性が保たれ、2000年から今日まで、先進国の航空会社の第4世代の飛行機での死亡事故はテロ以外ゼロになっています。この恩恵はビジネスクラスの乗客だけでなく、エコノミークラスの乗客も受けています。

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