たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

新ジャンル「霊デレ」な「恋愛怪談サヨコさん」が死ぬほどかわいいというか、周りはみんな死んでいるというか。

●霊デレ。●

いい意味で表紙に騙されました。
いやだってね、このシリアスな表紙、意味ありげな顔、怪談の文字。猟奇系・オカルト系の真面目な事件が起きてそれをサヨコさんが解決する話なのかなとか思うじゃないですか。
違うの全然違う。
この漫画は「霊デレ」だ!
 
霊デレといっても、「霊にデレデレする」という、みつどもえの松岡みたいのとは違います。あれはオンリーワンすぎる。
この作品のヒロイン、サヨコさんは強烈な依童体質。霊をぞろぞろ連れて歩く、ものすごく霊に慕われている少女です。
そんな「霊媒体質」な彼女が「恋をしてデレデレ」するので霊デレ。命名オレ。
というか他になんと言えばいいかわかりません。とりあえずこの霊デレサヨコさんが最強にかわいい、というのをプッシュした、オカルト系良質ラブコメディです。
 

●いや特になにもできません●

サヨコさんのスペックを話しておきましょう。
 
1、かわいい。
誰が見ても美しいと感じる長くて薄い色の髪、端正な和服姿、やわらかな物腰。
最強に大和撫子です。
いいですね、会いたいですね。
まあ、ここからが問題。
 
2、霊が見えます。
そう、霊が見えるのです!
最強に霊見える子ですね!
この1巻で見えるのは、修行を積んでいる虚無僧と、あとはヒロインのサヨコさんだけ。
主人公(と言っても途中から主人公サヨコさんになりますが)の少年稲葉君ですら見えない。つか当たり前ですが。
まあこのへんの理由はまだはっきりしていませんが、見えるってのはすごい。・・・よね?
 
3、地縛霊を開放できます。
そう、地縛霊を呪縛からい開放して動けるように出来るのです。
最強に解放者ですね!
とまあ、ここだけ書くとすごーい力の持ち主に見えます。実際すごい力だと思います。
ところがどっこいなのです。
 
4、あとは何も出来ません。
そう、地縛霊が動けるように開放して、自分に取り憑かせることで移動させることが出来る。これはすごい。
けれど、そこから成仏とか除霊とか一切できません。
その姿、最強にハーメルンの笛吹きですね!
もーーーぞろぞろぞろぞろと、実にその数800体。多すぎだろ!
霊同士で「捨てねこ拾いまくるねこ屋敷の家主かっ!」「おいおいそんな言い方はないだろう」というシーンがありますが、いやあ、捨て猫拾いまくる猫屋敷の家主だと思います。
霊が見える。すごい力です。
地縛霊を取り憑かせて開放できる。すごい力です。
でもそれだけ。
つまり彼女は自分に霊を大量に取り憑かせるところまでしか出来ないのです。
なんという一人百鬼夜行。
ちなみに、霊自体はサヨコさんにしか見えない、稲葉少年にも見えないので、他の人から見ると「ただのかわいい子」なのがミソです。霊同士でも「なんじゃこりゃー!」となる行列っぷり。百鬼夜行どころじゃないですな。八百鬼夜行ですな。
 
5、優しいです。
なんでそんな連れて歩くの?と言われたら「優しいから」としか言えないのです。
最強に天使ですね!
もうこの子めちゃくちゃ純粋なんですよ!地縛霊、かわいそうでしょう?ほっとけないんですよ彼女は。
街を歩いては地縛霊を見るたびに、かわいそうだから自分に取り憑かせる。
それがつもりつもって800体。
ちと積もりすぎですが。
 
6、ひとりぼっちです。
さて、霊をいくらでも取り憑かせる事のできる体質、というだけでゲラゲラ笑っていいところなんですが、この物語のキモはそこから派生する人間関係にあります。
本人はなぜか霊が取り憑いても平気な体質ですが、周りはそうもいかないわけです。霊障、ってやつです。
霊障とは、憑依やたたりによって、不幸になったり、病気になったり、精神的に不安定になったりすること。
たとえ取り憑いていなくても、800体もぞろぞろ連れて歩いたらそりゃー周りに影響を与えてしまうっちゅうもんです。だから彼女は人に近づけないのです。近づいたら、その人を不幸にしてしまうから。
だから、ひとりぼっち。
 
さあ、物語はここからだ!
 

●人のぬくもりに触れました●

人に霊障を与えてしまうため、彼女は普通の生活を送れません。
優しい子だから、人に迷惑をかけないように心配してしまいます。つまり、霊障の影響が出るため誰にも近寄ることが出来ません。
加えて、霊障が自分に来ない体質、とはいっても、単に運が悪いのかはたまた霊障の余波があるのか、彼女自転車に跳ねられるは車に跳ねられるはと、結構不幸です。
特に自動車に跳ねられたときは首ギブス眼帯付きというボロボロな有様。ほぼ死にかけ。
 
しかし彼女全然気にしません。
なぜなら自分に取り憑かせている他の霊達はもっともっと苦しい目にあっているのを見続けているから。
首のない人、吊るされた人、という定番から、熱中症で死んでしまった人まで。こんな死人だらけを見ていたら自分のケガとか、死ぬこととか、まあ怖く亡くなって麻痺してきますわな。
だから「私にはたくさんの仲間(霊)がいる」「私が我慢すれば誰も傷つかない」とものすごく自分を制した生活を送っているのです。というかそれが当たり前なので、苦しいこととは思っていなかった、というのが正しいでしょうか。
無論、人間らしい生き方が出来ない辛さも分かってはいますが、諦めてもいました。
 
この作品の面白いところは、サヨコさんの感覚のズレもそうなんですが霊達がみんないいやつらだらけなんですよ。
もうどの霊も憎めない。こんなやつらに囲まれていたらそれはそれはもう、意外と幸せなんじゃないのって思うくらい。見た目グロテスクですが。
霊の側も、地縛霊になっていたところを、自分が人間としての幸せを捨ててまで頑張って助けてくれたのを知っているので、ものっそい慕ってくるんですよ。だからもう霊達が魅力的でなりません。
 
ところが、青年稲葉くんとサヨコさんは出会ってしまいます。昔ながらの、でも最悪な方法で。
とある理由で(作品を読めば理由はわかります)稲葉くんは全く霊障を受け付けません。しかも稲葉くんのまわりまでその力が及んでいるため、稲葉くんといればサヨコさんは普通に他の人と接することすらできます。
今までは人に「触れる」ということすら出来ませんでした。近づいたら霊障で相手がやられてしまうからです。
しかし、稲葉くんは人として触ることが出来るのです。
はじめての人のぬくもり。はじめての男性。彼女が恋におちるのは一瞬でした。
 
はいっ!
霊デレ入りました!
ようするにこの作品、人と接したことのない少女が、少年に興味を持って恋の暴走をする話なのです。
この暴走っぷりが初っ端からものすごくて、例えばたまたまパンツ姿の少年を見たあと、興味が沸きすぎてしまって幽体離脱したら霊達のようにもっと色々見られる(パンツの中とか)と言って、仮死状態になっちゃうくらいの暴走っぷり。
恋する少女は無敵というけど、恋する少女は死にかけたらだめだろう。
 
なんせ彼女が接することの出来る人間が稲葉くんしかいない=稲葉くんが全人類唯一の人間男子状態なので、彼女のストーキングっぷりも半端ではありません。
というかほぼ犯罪レベルのストーカーっぷり。
悪気はないの! しかもいい子だから迷惑かけないように必死なの! でも止まらないの!
いやー、暴走少女は本当に痛快ですな。
 
正直「霊ができて少女もわけありだから、ラブコメとは言え笑えない部分もあろうに」と思いましたが、割と何も考えずにゲラゲラ笑える漫画になってます。
一巻の最初からクライマックス状態でしたが、後半さらにヒートアップ。
この子、いや、かわいいしいい子だけど、ちょっと色々勉強したほうがいいと思う。
 
稲葉くんがまたいいキャラなんです。
霊障を受けないという体質はあっても、それを本人は当然知らず、しかもサヨコさんの後ろの霊が全く見えません。
つまりデレッデレなサヨコさん、霊と会話するサヨコさん、自分のことをなぜか知っている(ストーキングのたまものです)サヨコさんが怖くて仕方ないんですよ。
そりゃそうだ。なぜか生年月日知られてたり、虚空に向かって「霊がいるの」と言って話しかけていたりされたら、ねえ。コワイヨ。
 
「霊デレ」の面白さは、勘違いコント的に相手との感覚がズレちゃうところです。
この恋、実るんでしょうか。
基本的にかわいい子で優しい子と完璧なサヨコさんです、「霊の見えない人」の感覚に慣れれば実るかもしれませんが、「霊が見えて当然」という感覚のままの場合だったら、永遠に追いかけっこは終わらない気がします。
いやー、霊達もなんだか愛しいし、サヨコさんはかわいいし、稲葉くんはピュアで受難な性格だし、サヨコさんはかわいい。
あんま難しいこと考えずに「サヨコさんかわいい!」と楽しめる素敵な作品です。
 

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深読みしていくと、「霊」という存在は、言わばカルチャーギャップともとれます。
全く感覚の違う人間同士がいかに意思を疎通させていくかの試行錯誤の物語なんですよね。
サヨコさんは言わば精神的に社会性の育っていない人、と置き換えることも出来ます。実際は自己犠牲の素晴らしいいい子なんですが、人間関係の素行自体は幼子のままです。
ある意味、丁寧にサヨコさんの精神の成長と、「初めて触れた人だから」という依存から本当の「恋」に変わっていく様子を楽しめる作品。
稲葉くんの真面目さといい人さもじわじわ湧きでてきました。続きが本当に楽しみ。笑いながら、しみじみさせてください。
サヨコさんが幸せを感じると、800の霊達はうれしそうに笑います。
じゃあ霊と一緒にぼくも笑うよ。はっはっは。