今日の長門有希SS

 特に深い意味はないのだが、なんとなく財布に入っているカードを整理していた俺はレンタルビデオ店の会員証が切れている事に気が付いた。一ヶ月ほどこのまま放っておくと失効してしまうんだったか。
「長門、たまには映画でも借りるか?」
「……」
 わずかに首を縦に振る。了承の合図。
「最近行ってなかった」
 そうだな。考えてみたら、ここのところ映画やCDを借りに行った記憶がない。
「違う」
 ふるふると横に首を振り、
「あなたの家に」
 そう言えば、最近はこの部屋に入り浸ってばかりで、あまり長門を家に連れて行っていなかった。やっぱりこいつにも、俺の家に来たいって気持ちはあるんだろうか。
「ちょっと待ってくれよ」
「早く行きたい」
 さっさと外出の準備を始める長門に、俺は散らばっていた財布の中身を慌てて片付ける。
 行きたいのはレンタルビデオ店なのか、俺の家なのか、どちらなんだろうかね。


「あ、有希ちゃんいらっしゃーい」
 長門が来ると妹が飛びつくと言う恒例の行為も、そう言えば久々の光景だ。
 妹はしばらく会っていなかった長門に会えたのが嬉しいのか、しがみついたままなかなか離れようとしない。
「こら、そろそろ離れなさい」
「いい」
 引きはがそうとした俺を制し、長門は妹をぶら下げたまま靴を脱いでトコトコと居間に向かって歩いていく。長門は当然のように歩いているが、冷静になって考えるととんでもない光景だ。
 しばらくその様子を見てから、俺は二人に続いて居間に向かった。
 さて、今回借りてきたのはしばらく前に公開されたアニメ映画である。俺と長門の趣味とは微妙に外れた作品だが、どちらともなくこれを選んだのは勝手に袋をあさってニコニコしている妹に起因する。
 評判は……正直なところ、公開当時はそれほど良くはなかった。だがまあ、映画の評価なんてのは金を払って行った者はどうしても辛口になってしまうのだろう。
 その点、借りてきて見る分にはそれほど素晴らしいものを求めない。だから、評判のよろしくない作品ではあるが、それほど心配する事もないだろう。
 さて、妹が勝手に機械に入れて再生したので映画が始まった。俺はそんな様子に苦笑しながら、一緒に買ってきたスナック菓子の袋を開けたり、コップを持ってきてジュースを注いだりしていた。


 結論としては、駄作と言っても差し支えのないものだった。妹なんぞは長門の膝ですっかり寝息を立ててしまっている。
 とは言え、まだ途中なので駄作かどうかはまだ判断できないだろう。時計を見ると、まだ半分以上――って、まだそれしか時間経ってないのか。
 まだ一時間以上あるのかとため息をついていると、長門が俺の胸にコツンと頭を押しつけてきた。
 おいおい、いくら妹が寝ていると言っても、こんなところでイチャイチャしていたら……
「すーすー……」
 どうやら長門も寝入ってしまったらしい。この状態じゃ動けないし、このまま鑑賞せにゃならんのか。
 映画の内容のせいか、妹から長門経由で伝染したのか、何となく俺も眠くなってきた。頑張って映画に集中しようかと少しだけ頑張ったが、やはり眠気には勝てない。
 まあいいさ、映画はまた見ればいい。
 そう考えた直後、俺の意識はすーっと落ちて行き、俺達三人はそのまましばらくドミノ倒しのような体勢でソファーで寝続ける事になった。


 結局、一週間後にその映画は最後まで見る事なく返した。