今日の長門有希SS

「あんた、足おかしくない?」
 教室に戻ると、ハルヒが俺を一瞥し怪訝な表情を浮かべた。
 よくわかったな。さっきの体育で足首を軽く捻ったんだ。
 だが、別に大した怪我じゃないさ。こんなもんすぐ治るだろう。
「馬鹿、いいから保健室行って来なさい!」
 最近クラスではかなり平穏になっていたハルヒだが、珍しく声を荒げた。俺も面食らっているが、クラスの視線がこちらに集中しているのを感じる。
「あんたね、無理しておかしくしたらどうすんのよ。あんたはSOS団の大事な、雑用係なんだからね! 放課後までには完治させなさい!」
 言っている事は滅茶苦茶だが、どうも俺を気遣ってくれている事は確からしい。
 ここは素直に従っておいた方がいいだろう。別に授業の皆勤賞を狙っているわけじゃないんだ。
「わかったよ。心配かけたな」
 ハルヒは一瞬びっくりしたような顔をしてから、ふんと顔を背けた。
 軽く足を引きずって保健室に行くと、湿布を貼られてすぐに返される事になった。思っていた通り、大した事はなかったようである。
 足を軽く引きずって教室に戻る道すがら、もしかしたら教室で安静にしていた方が良かったのかも知れないと思ったが、見てもらったおかげで変なひねり方をしていない事がわかったのは確かだ。その点では来た甲斐があった。
 教室に帰ろうと思っていたが、どうせだからこのまま今の授業は休んでしまおうと思い、行き先を部室に変更した。
「……」
 ドアの前に立つと少しだけ緊張。さすがに授業中には長門はいないはずだが、もしかするといるんじゃないかと少しだけ期待してしまうが、
「そりゃそうだよな」
 当然のように部室は無人だった。
 少し休もうと、椅子に腰掛ける。足は動かさないように気を付けた方がいいだろうか。
 前の時間が体育だったから少し疲れたなと思い椅子にもたれかかる。こうしていると、何だか妙に心地よくて、
「……」
 いきなり目の前に長門の顔があった。
 ええと……さっきまで誰もいなかったよな?
 まさか、長門は俺を驚かせようとどこかに隠れていて、
「眠っていた」
 長門が来たという事は、もう昼食の時間という事だろうか。
 やれやれ、予想以上に眠ってしまったようだ。
「……」
 長門はじーっと俺の顔をのぞき込んでいる。
 一体、どうしたんだ?
「ごはん」
 ああすまん、まさかここまで寝ると思ってないから教室に置きっぱなしだ。今から取って来るが、足を捻ってるから少し遅くなるぞ。
「わたしが行く?」
 長門が俺の教室に入ってカバンから弁当を取ってくる?
 いや、それはどう考えてもまずい。一応、俺達の交際は秘密にしているわけであり、そんな事をしたら一発でバレてしまうだろう。となると、やはり俺が行くしかないわけだが――
 突然、ガチャガチャとドアノブが鳴る。ドアが開くと、
「お邪魔するね」
 朝倉が顔を出した。
 一体、どういう事だ?
「お腹を空かせてると思ったから」
 朝倉が持っていたのは、見慣れた弁当箱だった。俺と長門と、それと、見慣れない弁当箱が1つ。
「せっかくだから、わたしも仲間に入れて欲しいな」
 まあ断る理由はないだろう。
 それよりお前、怪しまれないように持ってきただろうな?
「うん、大丈夫」
 朝倉はニコリと微笑みかける。まあ、こいつなら信用しても大丈夫だろう。


 そのようなわけで、その日の昼休みは朝倉を交えて部室で過ごした。たまにはこんな日があってもいいだろう、別に俺達はべたべたしたいってわけじゃないんだ。節度はわきまえているさ。
 長門と朝倉が話し込んでいたので、俺は一足先に教室に帰ることにした。
 気が付くと足もだいぶ良くなっていたようで、多少の違和感が残るものの歩くのに支障はない。
 そして教室に戻ると、谷口が、
「キョン、てめぇいつの間に朝倉に手を出していたんだよ!」
 と掴みかかってきた。
 朝倉、何も大丈夫じゃないじゃないか!