LYE の League of Legends メモ

League of Legends プロリーグ LCS の解説を翻訳したり、同作や MOBA ジャンルで使われる英語を説明したりする予定。

Scarra 氏、LoL プロシーン昔と今、未来を語る (League Community Podcast)

Riot Games 公式 Podcast で 元プロ選手の Scarra 氏が元チームメイトの Jatt 氏(Teamfight Breakdown の解説などでもお馴染み)と一緒に過去を振り返るエピソードがあり、個人的にとても興味深かったので、適当につまみ食い翻訳しました。どぞ。

間違いの指摘などはこちらのコメント欄か@lye_ までよろしくです。

 

ゲスト概要:

Scarra (William Li )

テキサス州ヒューストンで生まれ育った中国系アメリカ人。両親は中国出身。
WoW にハマった後、Heroes of Newerth で MOBA に触れる。League Of Legends は兄に誘われて、ベータ時代(シーズン 1 開始一ヶ月前)にプレイ開始。
League Of Legends の"ほぼ"第一世代のプロ(当時は Qualifier が今と違ったのでプロの定義が曖昧だった)のひとり。

 

ホスト: LoL にハマっていったきっかけは?

プレイ開始当時、ベータプレイヤーはみんな知り合いみたいな感じだった。そこに、ランクマッチで 24 戦 23 勝みたいなすごいスコアでいきなり現れて、周囲から「こいつ誰だ!?」って思われるようになった。たまたま過去に他のゲームでつるんでいた友達がベータに参加していたので、その友人を通じてコミュニティ内の他のメンバーと親しくなったんだ。しかし Esports のシーンにおける過去 5 年は、まるで一世紀のように感じられるね。未だに発展途上だけれど。

 

シーズン 2 が始まる前はまだ LCS(League Championship Series、LoL のプロリーグ)もなく、今ほど大会運営も整備もされていなかった。プロとして活躍するためには色んなサイトで開催されるオンライン大会で勝ち上がり、サーキットポイントを獲得していく必要があったんだ。だからそういった大会に参加しなければポイントは増えない。おまけに当時は一部の大会が完全招待制だったりと本当にクレイジーだった。ある程度の知名度がないと大会に参加することすらできなかったんだから。

 

ホスト: League Of Legends がプリシーズン 2 からシーズン 2 ワールドチャンピオンシップ、そして LCS へと進化を遂げていく中で、プロプレイヤーとして活動するのはどんな感じでした? LCS が発足してからは、毎週ファンの前でプレイすることになったりしたわけですが。

とにかくクレイジーだった。シーズン 2 の時代には Twitter のフォロアー数がすごい勢いで増えた。Twitter がファンと交流する唯一の場所だったというのもあったし。そして LCS が始まった後は、道を歩いていても気づかれるくらいになった。アジア人が多い場所だとなおさらだったかな。「うわ Scarra だ!」って大きな声で言われたり。本当に、LCS が契機になってものすごく名が知られるようになった感覚はあったよ。

 

ただ、色々なことがキッチリしていく過程で、失われてしまった面白さもあるにはあるよね。たとえば、海外遠征なんかは今ほどきちんとしていなかったから、韓国に行った時に凍え死にそうになったりした。タクシーに乗って行き先を告げたんだけど、ぜんぜん違うところで降ろされて、言葉は分かんないしどうすればいいんだ! って。

 

でも当時のほうが国際的な交流が盛んだったよね。今も IEM とかオールスターとかができて国際色みたいなものは豊かになってきたけど、当時は本当に色んな場所で面白い人に会えた気がするな。まあ最終的に2週間毎に国際線に乗って移動するのがだるくてホント嫌になったんだけど。学校も休んだし。それが今や毎週同じ会場で試合ができるんだから... どう言っていいかわからないけれど、安定は悪いことじゃないよね。

 

Jatt: 今は色んな事に配慮が行き届いているから、もう二度と同じような状況にはならないと思うけれど、あの時代を過ごせたことは良い経験だったよね。

 

そうだね、今や Team Solo Mid みたいな大きなチームの選手になったら、その時点で Twitter のフォロアー数が 0 人でも、スプリット(四半期の区切り)の終わりには 15 万人くらいになる。僕の時は何年もかかったのにね。ソーシャルメディアの盛り上がりがすごい。

でも昔の、草の根運動的なアマチュア感ていうのは失われてしまったよね。例えば今プロになったら、ブランディングとかいろんな事が整備されてるから、Twitter でファンとやりとりするときも距離を取ってしまう。つまり、以前は自分が属していたコミュニティから、一歩距離をおいてしまう。あの近くてゆるい感じと、安定した環境ってのはトレードオフなんだろうね。

 

ホスト: ちょっと状況は異なるけれど、北米プロチームの Renegades に所属していた Remi 選手(注:初の女性プロ選手として注目を浴びたものの「落ち着いてプレイすることができない」という理由でレギュラーから外れたことで話題になった)もそれに関係するところがありそうですね。それまでは、ファンと近い距離でやりとりしていたのが、突然何十、何百万という目にさらされることになるわけだから。その点 Scarra さんはどう対応したんですか?

 

自分はそのへんうまくできなかった。自分のパフォーマンスが悪くなった理由の一つも、メンタル的な「サポート環境」が整っていなかったからだと思ってる。なんかの研究結果で見たんだけど、こういうスポーツをやってる人やストレス負荷の高い環境にいる人は、誰かよりかかれる人が必要なんだって。友達とか、家族みたいなね。


でもヒューストンを離れた自分には、両親も家族も地元の友達も近くにいなかった。それに韓国だ LA だって移動も多かったから仲の良い友達をつくるのも難しかった。そんな時 Twitter とかで「いいプレイだったよ」とかそういう言葉が飛んでくれば助けになるんだろうけれど、飛んで来るのは「ヘタクソ」とか「さっさとやめろ」とかなんだよね。そんな中で「サポート環境」が整っていなかったから、色々と歪んでしまった。もっと効果的に対処する方法もあったはずなんだけれどね。今はさすがにそのへん理解しているけれど。距離の取り方とか。でも当時は「どうしよう」、「何が悪かったんだろう」って思ってしまってた。

 

そんな時自分が思いついた解決策は、「もっとプレイしよう」だった。一日 14 、いや一時期は 16 時間プレイした。その時は燃え尽きたから結局 14 時間に戻したけど。スプリットが終わるまでそんな感じだった。あの時はチームメイトですら信じてくれなかったもん。「俺、朝 7 時に起きてから、チームの模擬戦が始まる昼過ぎまでプレイしてるのに、それ以上プレイできるわけ無いじゃん」って言われた。まあ、単に自分はチーム練習終わった後も深夜までプレイしてたんだけど。もちろんそんなの、効果的な上達方法じゃなかった。でもそれしか思い浮かばなかったんだ。

 

ホスト: それってコーチングの問題ですかね?

 

そうだと思う。もちろん当時だってチャンピオン同士の相性とか対処方法とかは他のプレイヤーと Skype で話をよくしたし、自分のプレイを見直して、分析して、改善を試みてたけど、結局自分の一番の欠点である「意思決定力」は高めることができなかった。だから操作技術的には上手になっても、プレイヤーとしての技量の底上げにならなかったんだ。

 

Jatt: これってあまり語られない問題だよね。誰も「自分は批評とうまく向き合うことができません」なんて言いたくないし。でもフィードバックからノイズを取り除くのってすごく難しい。だからこそ、サポート体制を整えるのってすごく大事だ。自分が下手を打った時、それを「正しい方法」で伝えてくれる、「信頼できる相手」がいることがどれほどの意味を持つか。もちろんそれは、上手くいった時にはそれを認めてくれる相手でもある。でも Twitter や Reddit はその役割を果たしてくれない。否定的意見が多いし、意地の悪いコメントも多い。そんなのに、スポーツの経験とか、そういう立場になった経験がない人が、対処できるわけがないよね。高校卒業したばかりのコはもちろん、大人にだって難しいことだ。

 

プロ選手はチームに所属しているわけじゃない。で、サポート環境がない場合、チームこそがサポート環境になるよね。チームのみんなが「お前よくやってるよ」って言ってくれたら、「おお、自分はよくやってるんだ」って思う。見知らぬ誰かがオンラインで何言ってても、チームのほうのいうことを聞くよね。ただし、そのチームメンバーが「お前マジダメだわ」とか言うようになったら、精神的ストレスは溜まり続ける。自分が退団する直前の Counter Logic Gaming はお世辞にもいい「サポート環境」を提供してくれたとは言えなかった。一人だけ親身になってくれる相手はいたけど、他のメンバーは「彼、上手くないよね」、「でもまあ、いつか輝く時が来るかもね」みたいな感じだった。それって上達するのに最適な環境とはいえないよね。今はそんなこと心配する必要はないと思うけどね。心理学の専門家とか入ってきてるし。でもそういう環境が整う前は、チームの中の雰囲気が険悪で、だれもサポートしてくれなくて、「自分を信じきれなく」なってチームを去ってしまうってことが実際に起きていたと思う。

 

Jatt: そんな環境でプレイすれば、ゲーム内容にも自ずと意識が反映されてくる。そして、その結果が、さらに自己肯定感を失わせる。そういうコーチング辺りのことは、Esports まわりでもゆっくりと理解を深めていっている最中だよね、今。

 

ホスト: 引退に関してですけど、年齢による反応速度の低下って大きな要因でしたか? 自分は元カウンターストライクプレイヤーだったんだけど、スナイパーとして、ms 単位で反応速度が落ちてきたのを感じたんですよね。自分の頭では理解できて、脳から指示を出そうとしているのに、体がついてこない感覚があった。でも対戦相手はできる。自分より 1 ms 早く動いてくる。そういう感覚はありましたか?


それは感じなかったかな。個人的には、上達するためにはどれだけの時間を費やしているかがモノをいうと思ってる。一日は誰にとっても平等に 24 時間しかない。毎日模擬戦を 6 時間やって、そのあとも個人的にランクマッチをやってれば、技術的な部分はついてくる。と、自分は思ってる。そして、自分は下手になったとは思ってない。周りが上手くなったんだと。ただ、自分の弱みはゴーサインを出したりする「意思決定力」の不足にあった。でもそれって技術的な練習をしていても身につかなくて、誰かに習う必要があるものだったんだ。皮肉なことに、自分は Counter Logic Gaming や Dignitus のコーチをやっている時に、所属選手である Link 選手や Aphromoo 選手からその「意思決定」のやり方を学んだんだ。技術的な能力を磨く時間を犠牲にしてコーチの仕事をすることで、結果的に欠点を埋めることができた。


その後コーチをやめた後、得た知識を活かしてプレイヤーとして復帰しようと思ったんだけれど、新しいメンバーと一緒にチャレンジャーシリーズ(プロリーグの下にあるリーグで、ここで好成績を収めることでプロリーグに上がれる)を戦うのは相当しんどかったね...荒野のウェスタンッて感じ。1、2 ヶ月がんばったけどやる気が完全に削がれちゃった。

チャレンジャーシリーズといえば... シーズン 1 や 2 の頃はチャレンジャーチームくらいだとみんな平気で契約違反してたんだよね。「お前は成績残せてないから金払わない」っていって、その選手が他のチームに行くとか。自分が知ってるだけでも 2、3 件はあった。ひどい話だよ。Riot は絶対そんなの許さないだろうけれど、結構あったんだよね。他にも、時間に遅れてくるとか。

ホスト: これから、今まで身につけた知識をもって後進育成にあたるとかは考えないんですか?

どうだろう。LCS を引退した後にセルフブランディングをしてそういうことを仕事にするのもあるかもしれないけど... 今は選手の実力が上がってるからね。自分が初めてコーチをした時とかは、一分ごとに「次の作戦目標は何だ?!」って声かけて、誰かが必ず答えるようにするとかやってたけど、今じゃチャレンジャーのチームでも、「1 分後にドラゴン取るから Top はレーンを押して。それから周囲のビジョンを確保」みたいなことを誰もがやってる。それって 2、3 年前にはなかったことなんだよね。今は多くのプレイヤーがよくゲームを理解してる。

昔ある大会で、メンバーが一人来られなくて補欠メンバーが代わりに出場することになったんだけど、当時自分は Mid ポジションを担当してたんだ。で、補欠の選手に聞いたの。「君、ロールどこ? チャンピオンは?」そしたら「Mid で Morgana です」って答えだったから、急遽自分が Top に行って、相手チームが Morgana を Ban しませんようにって祈ってた。自分のロールが変更になったけど、トーナメント戦で何日も続くから勝ち進むうちになんとかなるだろみたいなかんじで。今じゃあ絶対にありえないけど、当時はそれで勝てたんだよね。それくらい進化してる。

 

ホスト: 今じゃコーチがいて、アナリストがいて、アナリストの部下としてさらに別のアナリストがいたりする。何もかも洗練されてきましたね。

 

Jatt:  個人的には今後 5 年 10 年で、プレイヤーの年齢って上がっていく可能性はあると思うんだ。理由はいくつかある。さっき Scarra は「自分は下手になったとは思ってない。周りが上手くなったんだ」と言ったけど、それは正しいと思う。当時の名プレイヤーが他を圧倒していたのは、最初に「手法」を編み出していたから。その後、他の人がそれを模倣して、その後興味を持つ人が増えて、プロになりたい人の人数も増えた。今や、チャレンジャーシリーズの参加希望人数は凄まじいことになってる。

 

で、その中からプロになるのは、強い情熱とか、天性の才能とかを兼ね備えた人だけだ。でももし、そういう人が 22 歳くらいになった時、生活のために毎日 8 時間仕事をしなくちゃいけないとか、将来のために学校でいい成績を取っとかなくちゃいけないとかってなったらプロとして活躍できる年齢は低いままだろうけれど、色々な支援体制が整って、生活とか学校とか気にせずに LoL に専念できる環境ができたとしたら、24、5 歳、その先もプロとして活躍することが可能だと思う。そして 1 ms の反応速度の遅れは、長年の経験で埋め合わせることが可能になると思う。

 

おおむね同意見だけど、自分は少し違った見方をしてるかな。年齢を重ねるってことは、「自分のやり方が固まってくる」ってことでもある。ゲームをどう理解するか、特定の物事をどう解釈するか、細かいことではどこにワードを置くかといかそういうことをね。でも逆にそういう「俺はずっとこれでやってきた」って行動が、必ずしも最善ではないと思うんだ。常に自己評価を更新し続けるのってすごく大変だよ。そこでコーチの出番かもしれないけどね。「~~するべきだ」って言ってくれる人がいれば違うだろうし。

 

コーチの他には「後輩メソッド」もあると思う。弟子みたいに「後輩(注:ホントにコーハイと言ってました)」を持って、指導してあげる。そうすると後輩は「なんでココでこうするんですか?」みたいな質問をしてくる。もちろんアホみたいな質問も受けるだろうけど、でもたとえば「なぜここにワードを置くんですか」という質問に対して「あ、こっちのほうがいい場所だね」っていう瞬間も訪れるかもしれない。後輩のプレイを見ていて、「今 Bot に向かうの確かにアリだな」と、自分の行動と比較することで自身のクセを修正していくことも可能かもしれない。もちろんそのレベルの客観性を持つのは難しいけれどね。

 

本来はそこをコーチが埋めるべきだと思うんだけどね。客観性を持った第三者として、プレイヤーを導くのがコーチだから。でも正直言って、今 LoL のコーチってそんなに質が高くないと思ってる。だってバスケやアメフトのコーチと待遇を比較してみてよ。「給与は 2500 万、家族のぶんも含めて引越し代は全部こちらが持ちます、ご子息の学費は無料にします」みたいな待遇で、コーチもスポーツ科学とか専攻してたりする。対して LoL では、なんというか叩き上げの人がコーチになる。もちろん心理学者とかは外部から入ってもらってるわけだけど、ほとんどの人材は元プレイヤーだ。でもここからさらに Esports が盛り上がって、市場規模が大きくなったら、適切なマネージメント陣営を持つところが増えるんじゃないかな。そうなればプレイヤーも能力を最大限に発揮できると思う。そういった中で、自らを柔軟に成長させていけるプレイヤーは、今よりも長い期間プロとして活動できるようになるだろうね。

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