虚馬ダイアリー

「窓の外」のブログ

2024年に見て「良かったな」と思った映画から10本を選んでみる。


 皆様ご無沙汰しております。
 今年もしっかり旧Twitterシフトで映画感想を書き続け、こちらは放置している有様です。
 
 今年も正月から能登での地震に始まり、様々なことが起きました。解決しなければ課題を積み残したまま、今年も暮れようとしています。

 近年は配信が隆盛を迎える中、映画館で映画を見る事自体はゆっくりと「贅沢」であるかのよな空気が広がっています。クリント・イーストウッドという大ベテラン監督の新作映画が配信だけで公開され、映画館で上映されなくなる時代となりました。時代は静かに確実に、時に残酷に移っていきます。
 それでも映画館の火は消えない。映画館で新作映画を見る喜びをいつまでも味わっていけるように、私も微力ながら映画館で映画を見続けて、ネットの片隅で映画感想をつぶやきつづけたいと思っています。


 というわけで、2024年に自分が出会った映画の中から、「良かったな」という映画を10本選ばせてもらいました。「あれがない」「これもない」という方もいらっしゃるでしょうが、ご容赦いただいて、しばしおつきあいくださいませ。

10位「市民捜査官ドッキ」


<選考理由>
 昨年度映画ベスト10位「正直政治家チュ・サンスク」をはじめ、実は密かに推していた、韓国中年女性俳優の星ラ・ミラン主演映画初の日本正式ロードショー公開作品。普通のシングルマザーが詐欺被害に遭わせた組織を、逆に追い詰めていくという、実話ベース(!)作品。
 世の中、なにかと言えば「詐欺被害に遭うな」という圧に満ち、「被害者は迷惑」という「空気」を醸成していく中、この映画は「詐欺被害者」がヒーローになる映画となり、「詐欺被害者は一ミリも悪くない。騙す方が1000%悪い!」と高らかに歌い上げる。「騙す人間=頭いい。被害者=愚か」的な一部の謝った認識をもしっかり両断していく点が白眉であります。

9位「オッペンハイマー」


<選考理由>
 世界中が2023年に公開している中、唯一の原爆被爆国の日本だけが、原爆製造の中心的役割を果たした科学者・ロバート・オッペンハイマーの伝記映画が2024年になってやっと公開された訳ですが。
 これはなるほど。日本人には大変きつい映画で、核兵器が作られ、そしてそれが日本があずかり知らぬ「ロジック」で国際政治に組み込まれていく中で、日本がいわば「格好の標的」として選ばれていく課程をしっかり描いている。
 日本での被爆描写をオミットしているからこそ、この映画は日本人にとってより衝撃が深く重いという、自分にとって「忘れがたい」映画でありました。
 

8位「パスト ライブス」

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<選考理由>
 今年最も刺さった「初恋」のリアルな寓話。幼き日に住む国を分かち、やがて12年ごとに再会する運命でつながれた「初恋同士」の2人。今も相手を憎からず思う、そこに立ちはだかるものとは。「初恋」が持つ、幻想の強さと、積み重ねた人生の相克という、ある種残酷でもあるそのリアルが深く心に染み入りました。


7位「ソウルの春」

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<選考理由>
 この映画が韓国で公開されたのが昨年の11月で、日本公開が8月。この時点ではこの映画は「遠い昔に、韓国で起こった「悲劇的歴史の転換点」を抜群の演出力で描出した「実録フィクション映画」だった。いわば「韓国現代政治史における歴史的しくじり」を描いた映画である。遠い話である。
 ところが。本年12月。韓国大統領が戒厳令を発令する「暴挙」におよび、この映画で描かれた物語が切迫したリアルとして立ち上がってくる。そこで市民が、議員が民主主義を守るためにきちんと適切に行動し、悲劇に傾きそうな情勢を立て直す。その動きはこの映画のヒットによって「過去の歴史の汚点」に市民が向き合った結果だと思う。
 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と世に言う。賢者ならざる我々は映画による「追体験」で学ぶ事ができる。それもまた「映画の力」なのだと思わされた映画なのでした。

 

6位「デッドプール&ウルヴァリン」


<選考理由>
 「デッドプール」というヒーローは公式にも「無責任ヒーロー」と呼称されるように「下品な悪ふざけしているキャラクター」というイメージが流布しているわけだが、それはいわば「真面目である自分をごまかすため」のトリッキーな語り口に起因している。しかし、彼の根底にあるものは「生真面目すぎる」ほどの「まっすぐな情熱」を内包している。
 本作は従来の彼の「トリッキーな語り口」はそのままに、それが露悪になりすぎないかたちで彼本来の「まっすぐな情熱」が「ウルヴァリン」という「落ちぶれた20世紀フォックス系超ド正統ヒーロー」と並ぶ事によって、前面に出た快作となっている。ディズニーに20世紀フォックスが吸収され参入した外様の彼らが、本家マーベルの「マルチバース」路線を盛大に茶化し、その終焉を決定的にしたのも痛快である。大好きでーす!
 

5位「密輸 1970」


<選考理由>
 今年最も興奮した「活劇」である。1970年代の時代状況を背景にしつつ、だらこそ描ける犯罪映画として、密輸業者、海女、誰が他者を出し抜き「宝」を手にするか?という非常に優秀な「コン・ゲーム」要素も多分に含みつつ、一番の白眉はクライマックスに待っている圧倒的王道アクションシーンで、実に驚きに満ちている。一度見たら何度も見たくなる作品である。
 
 

4位「夜明けのすべて」


<選考理由>
 夜明けのすべて。「夜明け前が一番暗い」という言葉があるが、苦しい時期を「夜」と呼ぶならば、終わりに向かっている時が一番苦しい。月経前症候群(PMS)やパニック障害。彼ら彼女らの苦しみは他者には容易には理解されない。だがともに障害を持つのならば、その溝を埋められるのかも知れぬ。
 この映画は決して「正解」を描いた映画ではない。だが、見た後に得た「何か」がずっと心を離れない。そんな非常に、言葉で容易に形容しがたい、まさに「映画」である。

 

3位「シビル・ウォー」


<選考理由>

 見る前はてっきり「B級アクション映画」のように軍人や兵士、政治家などの決断や行動によって「なんとか危機を乗り越える」物語なのかと思っていたら、世界はもう悪い方向へしか向かわない中、記者とカメラマンの4人がワシントンD.C.に向かう中で、地獄と化した米国を彷徨う。
 非常に刺激的なシーンがSNSでミーム化してしまった作品だが、それはそれとして僕の中でこの映画が忘れがたい理由は別にある。
 いくつも戦場をファインダー越しに見て心が疲弊している女性カメラマンと、まだ何のキャリアもないカメラマン志望の娘。彼女が旅の課程で見る地獄の中で、二人の心はどう変わっていくのか。そして二人が選び取るもの。その皮肉な成り行きこそ、この映画が僕の心の中に刺さって抜けないものなのです。

 

2位「正義の行方」


<選考理由>
 今年「袴田事件」と呼ばれる事件で死刑判決を受けた袴田巖さんが、再審によって無罪となった。死刑確定者がえん罪かもしれぬ。その恐れはつねにある。
 この映画が扱っているのは「飯塚事件」という、1992年に登校中の女児2名が失踪、後日遺体となって発見された痛ましい事件である。この事件で逮捕された容疑者は死刑判決を受けた。そして、その刑は執行されている。
 この映画は事件を捜査する警察関係者、それを報道したメディア、死刑執行された容疑者はえん罪だったとして再審を進める弁護士、容疑者家族など、膨大なインタビューを敢行して描き出すのは、痛ましい事件の「謎」に真剣に向き合った人々の中にある「それぞれの正義」。そんなドキュメンタリーである。
 人は時に確信を持って「己の正義」に拠って行動する。ところが人は時にあっさりと間違う。ある者はその「確信」に固執し、ある者はあの時の「確信」は間違いではなかったかと迷い悩む。
 容疑者が死刑執行されてしまった今、本当の真相はわからないし、命は戻らない。この映画が問うのは、「人間が人間を裁くこと」の、その困難さである。そしてそれは「死刑」という制度の、間違った裁きを行った際の取り返しのつかなさにもつながっていくのである。
 この映画に「正答」はないが、選択を「誤った」のならそれが速やかに正される社会であってほしいと切に願わずにおれない。そんな映画である。


 

1位「ラストマイル」


 

<選考理由>
 元々、「アンナチュラル」も「MIU404」も大好きだったんだけど、世界観を共有しているお祭り映画として売り出されながら、結果、今年の映画で最も見て、最も見た後考えた映画でした。冒頭で「語らずに社会の構造と格差」を「画」で見せつけつつ、大手通販サイトの最新鋭「物流倉庫」を舞台に、未曾有の爆破事件を通して描く「それぞれの階層」のそれぞれの人が向き合わされる様々な「理不尽」。
 あくまで娯楽映画としての矜持を保ちながらも、この映画で描かれた社会の課題は映画の中ではすべて解決せず、観客は見た後も「それら」を持ち帰る事になる。

 テレビドラマから始まった「世界」が、新たな「映画」として見事に結実した、今年を代表する1本になったと思っています。