群衆の叡智サミット2008Spring行って来た
群衆の叡智サミットは、SBMや予測市場やOSSなど多くの人が参加することで価値を生み出すメカニズムや事例について議論をして、理解を深めていくことを目的に開催されています。
自分がやっているshuugi.inに直接関係する話であり、CGM系のWebサービスを作っているなら押さえておきたい話でもあるので、非常に面白かったです。第二回目になるらしいですが、Springとついているので年内にもう一度開催する予定なのかな?
発表はUstで流されたものがそのまま公開されています。
WOCS2008Spring
以下まとめと感想です。誰の発言かあんまりメモっていなかったので
セッション1:「群衆の叡智」につながる条件とメカニズム
Webサイト、企業内・企業間のコラボレーションの事例についてのお話でした。
はてなブックマークご紹介 株式会社はてな 伊藤直也氏(id:naoya)
- みんなで面白いURLをブックマークして共有して楽しむサービス
- 会場に来た人ははてブ使っている人多数、パネリストの方々は使っていない
- 現状
- 登録15万6千人
- 300万UU/月
- 2480万ブックマーク 861万エントリ
- 人気投票ではなく、各々が勝手にブックマーク → 各個人が独立していてそれを集約することが重要
- お気に入りのブックマーカーを登録できるソーシャルメディアとしての機能
- 今後の課題
- 現在は単純集計 → 統計的手法による情報の集約、関連情報とか関連記事をうまく見せるなど
- 単純に集約したデータはマスすぎて各個人の好みに合わない → 各個人に合致した内容を
- テレビの報道の仕方だと事件の一面しか見えず、はてブにあがってくるブログ記事などをみることで多くの視点を持つことが出来た → 集約のメカニズムをなんとかして、意見の多様性を保ちたい
ちょっと前に記事になっていましたので、そちらを参考にするとより詳しくわかると思います。
OSSの開発モデルと企業間協調(の一側面) 日立製作所 鈴木友峰氏
- 前回の議論の結果、OSSは集合知ということに
- OSSの開発モデルはバザールモデル
- OSSコミュニティの開発パワーは無限であり、0でもある
- 叡智を発揮するためにはリーダーシップが重要
- OSSはコンセンサスで決められるので、ニッチなものが入らない = 先進的なものより二番煎じなものが多い
- 企業で評価プロジェクトを行ったところ、OSSは性能は問題なく、商用ミドルに対して破壊的なイノベーションであるとの結論
- OSS:オープンにすることで知識の積み上げができる ⇔ 企業製品:栄枯盛衰で消えていく
「企業のOSSのお話はお花畑ではないか」とのパネリストの生越氏*1の指摘。実際は新しいOSSが生まれては消えていき、死屍累々の上にOSSは成り立っているそうです。また、最近freshmeat*2にあがってくるOSSは2割がPHPによるCMSでぜんぜん分散化しておらず、むしろクラスタリングしているとのこと。
OSSコミュニティで重要なのは「Release Early, Release Often」(吉岡氏)。前提として開発が盛り上がっていないと開発者が集まらないのでスタートアップが大切だそうです(伊藤直氏)。
Prediction.jpとは 株式会社Prediction 谷川正剛氏
- 前回のサミットと同時にスタート
- 加者の自由な取引を通じて、さまざまな人たちの考え方を発見、集約・重み付けし、市場全体として評価、ないし予測するシステム
- 世の中のあらゆることを予測する
- 株式方式とベット方式(馬券方式)がある
- 7月にフルリニューアルの予定
いかに予測市場やSBMのような群衆の叡智の結果に信憑性を持たせるのかという話が議論されました。
なんとなくみんなの考えがわかるんだったらコックリさんじゃないのか、という意見も出ました。
信憑性を上げるには、なぜその結果が正しいのか、どういうルールに基づいているのかということを明らかにすることが重要なのではないかという結論になりました。
IBMでの取り組み IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社 伊藤久美氏
- IT系ではなく戦略系
- イノベーション = 発明(Invention)と洞察力(insight)が結合することによって生まれる → IBMが採用
- Jam、IoFT、GIO、Extreme Blueなどの取り組み
- Innovation Jam ・・・ オンラインで72時間 * 2ディスカッションし、新しいアイデアを出す試み。従業員だけでなくその家族やお客様や大学など104カ国、15万人が参加。4万6000件以上のアイデアが集まり、そこから10個選出した。
- IoFT(Impact on Future Tech)
- 未来学者がサインポストを決める
- サインポストがどのように動くのかWebの情報や特許情報などをデータマイニングで観測
- イノベーションに群衆の叡智を活用するには
群衆の叡智は専門家に勝っているのかどうかで議論が行われました。
専門家が集まればいいものが出来るのは当たり前で専門家が解決できないことを群衆の叡智でブレイクスルーしたのがOSSであるという話(吉岡氏)や、OSSはまぐれの連鎖でうまくいっているように見えるのでは、群衆の叡智で作ったものより意図的に群衆をエミュレートしたほうがより精度の高い叡智が得られるのでは(生越氏)といった意見が出ました。
また、競馬を例に、群衆とは何なのか?という疑問が投げかけられました。余談ですが、楠氏*5がこの話に関連して以下のようなエントリを書いています。
歌舞伎町で遇ったギークなタクシー運転手の編み出した、群衆の英知を活かした馬券購入法 - 雑種路線でいこう
セッション1の感想
OSSといえば革新的なイメージがあったのですが、確かに先進的なものはニッチなものになりやすいので、人が集まらない・使ってもらえないという状況になった結果消えていくのは納得がいきました。これはWebサービスにも言えることですね。
Prediction.jpの話で出てきたいかに結果に信憑性を持たせるか、という話は統計的な手法を使っているサービスを展開しようと考えている人は考慮すべき問題だと思いました。
たとえば、Amazonの「この商品を買った人はこの商品も買っています。」という文章は、具体的な手法はしらなくてもなんとなく妥当であることがユーザにとってイメージしやすいです。しかし、はてなブックマークなどがまったく新しい計算手法に則ってよい結果を出すようになったとしても、ユーザのその手法に対するコンセンサスが得られなければ結果に信憑性が生まれません。
PageRankなどはGoogleがアルゴリズムの概要を公開しているので、ユーザはなんとなく自分のページをどうすれば結果がよくなるかをわかっています。ユーザの行動が結果に反映されるサービスの場合、どのような行動に対してどのような反応が返ってくるのかをなんとなくでも公開することがコンセンサスを得るために必要なのではないでしょうか。
セッション2:「群衆の叡智」のポテンシャル - 経済活動のイノベーションは起こせるか
このセッションは、群衆の叡智とイノベーションの関係についての議論でした。
イノベーションとは 駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部 山口浩氏(H-Yamaguchi.net)
- 性産は生産要素の結合 = イノベーションは新技術・発明・特許ばかりではない → 例:キューピー + 駒澤大学
- 新しい生産要素の結合を行う人が企業者
- 成功した企業はその成功ゆえに失敗する
- イノベーションが生まれる仕組み
- 無から有は生まれない → 何かをベースに
- 思いつくだけでは駄目 → 思いついても成功するとは限らない
- 天の声は遠い → 群衆の叡智は絶対的な正解ではない
- 囲い込みか共有地か
- いくつかのポイント
- 考えるのは個人 → 自分が思いつくとは限らない
- 誰でも自分が得したい → 自分だけボロ負けは避けたい
- 生産要素を集約すると徳 → 何かいい仕組みがあれば
- どじょうは2匹いないかも → 事例は法則の証明ではない
- まとめ
- 正解を探すのはいかがなものか(幸せの青い鳥)
- 多様性、柔軟性こそが重要
OSSは最近は企業ばかりじゃないかといわれるがもっとも多くコミットしているのは個人で、また、Linuxカーネルについては担保されている270以上の企業が参加しており、多様性が確保されている、とパネリストの吉岡氏*6。
楠氏は、米MSで社外向けブログで、早め早めに情報をオープンにしてフィードバックを得るようにしている話を取り上げていました。
EGM(Employee Generated Media)における群衆の叡智 日本電気株式会社 福岡秀幸氏
- 群衆の叡智は正解を言い当てるゲームではない
- 群衆を構成する人をエンパワーするのが重要
- 相互作用することによってエンパワーメントされる
- EGM ・・・ 社員の社員による社員のためのメディア
- 大企業では独立性を満たさないため、群衆の叡智が発生しない
- 社員主導で企業内にイノベーションを
- NECグループの中で、15万人で誰でも閲覧可能なSNS
- 2004年9月にスタート
- 閲覧者20000人
- 投稿者2500人
- EGMというと、システムやツールに目がいくが、本質は人と情報
- ファシリテータ ・・・ コミュニティを愛し、その発展を願う人々のこと → イノベーションが生まれるのに必要
- EGMが企業内を変えたら次は企業間
- 一人一人がエンパワーされてイノベーションが生まれる
そのほかに、SNSが提供するのは出会うまでで出会った後はメールベースなどに水面下にもぐってしまう、知恵は出てくるけどお金を持っている事業部長と結びつく必要がある、などの話もされていました。
また、山口氏の「OSSが必ずしも企業に導入されてないのはなぜか」や「車や飛行機が群衆で作れるか」という問題提起に対し、生産要素の組合せに群衆の叡智が使えるのではないか(福岡氏)、予想できない人のコラボレーションが可能性を広げるのでは(岡田氏)といった意見が出てきました。
セッション2の感想
セッション1で腑に落ちなかった「群衆の叡智は正解を当てるゲームじゃないのか?」という疑問に対していくつか回答がこの議論の中で出てきたように思います。その一つが、群衆の叡智は人をエンパワーするものであるという福岡氏の意見です。また、群衆の叡智が合意形成をするための仕組みである(山口氏)、人に選択肢を提供するものである(徳力氏)といった意見も納得がいく回答でした。
研究ベースだとどうしても蓄積される情報自体やそれより得られた結果を重視してしまいますが、群衆の叡智を集約するサービスはその蓄積された情報を用いてユーザをエンパワーできることを心がけて行きたいですね。
機材の不具合で画面が出なくなって時間が空いたときの、徳力氏の「出るまで小話」メソッドは有効活用したいと思いました。
会場の意見を集約する仕組みについて
今回、普通のカンファレンスと違っていたところは、会場の意見を集約する仕組みを作っていたところです。会場で質問に対して1〜4の選択肢で回答して、インターネットからアクセスして解凍してもらって集計結果を見るという仕組みでした。
誰か田代砲を撃つのではないかと思いましたが、そんなことはありませんでした。
あと、コメント機能もあったのですが、いまいち機能していなかったようなのでUstのコメントも一緒に会場で見えるようにしてあるとよかったなあと思いました。無線が飛んでたらPCから利用が出来てコメントもしやすそうです。
あと、瓶に詰まったジェリービーンズの数を当てるゲームを会場入り口でやっていたのですが、正解の1321個に対し会場での平均は1415個でした。類似事例を紹介している本に比べると誤差が大きいですが、それでも結構近い結果が出ていて会場で感嘆の声が上がっていました。
終わりに
はてなアカウントとかTwitterアカウントを持っている人が多かった気がします。とりあえず後ろの席でそれっぽい会話をしている人に話しかけてみたところ、id:Dainさんとid:manameさんでした。id:naoyaさんが登壇者にいるからってのもあるのかな。
会場からはネット接続できなかったので、誰かUstのログをください。
あと、次回はもっと学生が集まるとよいですね。
*1:WASP株式会社(おごちゃんの雑文 | NAVER等まとめサイトへの転載を禁じます)
*3:同じことをしている全然別の人・部署・企業
*5:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(id:mkusunok)