BRAINâž¡WORLD

ノベルゲーム感想と思考出力

『月に寄りそう乙女の作法』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『月に寄りそう乙女の作法』


 商業ブランド『Navel』さんから2012年10月に世に送り出された作品です。エロゲ界隈では知名度・評価共に非常に高く、その後に多くのFDやスピンオフが創られたほどの人気を誇っています。

 私にとって本作は、『SHUFFLE!』、『俺たちに翼はない』に続いて3番目に触れるNavel作品のシリーズ物になります。これまでにプレイしてきたNavel作品では魅力的なキャラクターたちによる賑やかしを好ましく思っていましたが、本作はどのような色を魅せてくれるのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 主人公『大蔵遊星』は、日本の財界を代表する”華麗なる一族”大蔵家の末端に、望まれぬ子として生を受けた。
 優秀な親族や家庭教師のもとで厳しく育てられた遊星は、多芸に秀でた万能家であったが、いうなれば籠の中の鳥であり、およそ人並みの夢や希望などとは無縁の生涯だった。

 そんな遊星が、初めて一族の監視下を離れ、ひとりで外の世界へ出る機会を得た。
 名もなき庶民の娘『小倉朝日』となって素性を伏せ、上流階級の子女が集う服飾専修機関『フィリア女学院』へ潜入することになったのだ。

 その一環として遊星(=朝日)は、学院一のスーパー同級生『桜小路ルナ』に仕えるメイドとして、彼女の住まう『桜屋敷』で働くことに。

 そしてそこには、ルナと縁のある学院生らが同居するという。
 一人はスイスから来た誇り高き留学生『ユルシュール』。
 一人は旧華族の流れを汲む家柄の大和撫子『花之宮瑞穂』。
 そしてもう一人が、少年時代の主人公に恋していた庶民派の社長令嬢『柳ヶ瀬湊』。

 いずれも個性的なお嬢様方に加えて、それぞれに付き従う超個性的な従者たちが遊星(=朝日)の生活を引っかきまわす。
 果たして遊星は、素性(おもに性別)を偽ったまま、屋敷と学園の二重生活を無事に過ごすことが出来るのか?

 桜小路を陽が照らす

 引用元

所感




~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 湊√ ⇒ 瑞穂√ ⇒ ユルシュール√ ⇒ ルナ√
 

共通パート

 面白かったです。
 既プレイである『SHUFFLE!』や『俺たちに翼はない』でもそうでしたが、相変わらずNavelさんはキャラクターを魅せるのが上手いなぁと思わずにはいられません。本作でも個性豊かで好感の持てるキャラクターが続々と登場し、そんなキャラクターたちが繰り広げるコメディも笑い所ヨシ・テンポヨシで、少なくとも共通パート時点ではかなり好印象を抱くことが出来ました。これは作品全体の面白さに対する期待も高まりますね。

 個人的には主人公である大蔵遊星が女装を始めるまでの特訓の徹底っぷりが好ましかったです。私はまだあまり女装モノというジャンルに造詣が深いワケではないのですが、数年前にプレイした『オトメ*ドメイン』や『Monkeys!¡』では準備段階での努力があまり強く描写されていなかった覚えがあるため、本作を通して改めて「そうだよなぁ。いくら女性顔負けの顔面をしているからといっても、このくらい徹底しないと危ない橋は渡れないよなぁ……」と女装モノの主人公に対し敬意を表するなど。

 1つ、今後の展開に対する不安点としては、他ならぬ主人公────大蔵遊星のスタンスでしょうか。子供時代の影響も強いのでしょうが、基本的に彼は打たれ弱く、かつ他者から影響を受けやすいタイプであると解釈できます。夢と謳った服飾の道ですら兄である衣遠の言う通り必死になりきれないまま道を諦めた様子でしたし、フィリア女学院での学びの中でもルナのデザインに魅了されたことでコロっと夢の在り方を変えてしまっていました。もちろんそれらが一概に悪い要素だと言うつもりはありません。衣遠の語る必死さは鬼気迫るほどに身を削るレベルを指したという点で極端ですし、ルナのデザインには人一人の夢すらも塗り替えてしまうほどの魅力が詰まっていたという見方も出来ますからね。誰かの影響を受けて夢を変えること自体も悪いことだとは思いません。ただ、少なくとも私の目には彼がナヨっとして優柔不断なように映りますし、あくまでも個人的な好みとしてはもっと芯が欲しいなぁと思ってしまいます。彼が今後どのように成長するのか、期待半分、不安半分で見守っていきます。個別ルートへGO。

柳ケ瀬 湊√

 面白さとしては可もなく不可もなし。
 ただ、前評判として不評なルートであることはチラホラ耳にしていたのですが、巷で言われているほど酷い物語だとは個人的に感じませんでした。本筋から脱線気味なシナリオであったことは否定しませんし、引っかかる点が散見されたのも事実ではありますがね。

 序盤はたしかに共通パートからの齟齬に感じられる点が多く困惑しました。七愛の会話参入量の増加、朝日に対する七愛から物腰の緩和、咄嗟の女性的反応が身についていたハズの遊星の退化、バニーガールを見た時のユーシェの下手な振る舞い、共通パートラストのルナ様とのやり取りも虚しくなぜかデザインコンペに参加しない遊星とそれに全く触れないルナ様などなど……。いくつかは描写の加減等で無理矢理納得することも可能ですが、どうしても納得できない齟齬もあり……。先述したような齟齬が最後まで続くが故に本ルートは不評なのかと当初は推察していました。ただ、中盤からは共通パートでの調子を取り戻したようにも見えるのですよね。本ルートはごちゃごちゃしすぎてどのライターさんがどれだけシナリオを務めたのかが明言されていないらしいのでおそらくモロに複数ライター制の弊害が出た結果なのでしょうが、個人的には途中から気にならなくなったのでまぁいいかくらいの気持ちで読んでいました。まぁ七愛の会話参入量以外はそもそも中盤からあまり影響しなくなりますしね……。兎にも角にも、ここの不満をどれだけ引き摺るかが評価の分かれ目なのかなぁと感じました。

 物語の方向性としては、庶民出身のヒロインを中心に据えて地元での人気とお嬢様学校での迫害を対比的に描写し、対人関係の様相は本人の人間性ではなく環境や立場にも依存するということを明確に描いていて個人的には好みの部類でした。取り返しがつかなくなった後になって初めてクラスメイトからの迫害が無くなり静観していた生徒が優しくし始めるというのも状況の変化に伴う対人関係の変化であって湊の人間性に依存しない変化であるため皮肉的ですよね……。痛烈だなぁ。救いがあるとすれば、湊の振る舞いを見てレッテルに縛られることから解放されたと明言したモブB(成松重工)とモブC(ケメ子)の存在でしょうか。
 それにしても……まさかヒロインの親の会社を本当に潰すとはね……。最終的に再建の目途が立つところまでは描かれたものの、読んでいる最中には制作側の思い切りの良さに驚きました。ただ、さすがにクラスメイトの半数の親の経営する会社の経営リテラシーを損なわせるのはやりすぎだったようにも感じました。事実確認すらロクにせず、娘の言葉を鵜呑みにして簡単にビジネスパートナーを切ってしまうだなんて、経営者としては愚行も愚行だと考えられますからね。そのような判断能力の経営者が、曲がりなりにも日本でトップクラスの会社の娘が集まるクラスの生徒の半数の親として存在している世界観に私は唖然としました。経営悪化により柳ヶ瀬運輸のサービスの質が低下しただとか、風評被害が自社にも及ぶことを恐れて契約を打ち切っただとか、そういった理由の方がまだ納得できますが、クラスメイトの半数が親に何かしらのアプローチを行ったことは明言されていますからね。実際問題、現実でもこんなことって起こりうるんですかね……?

 主人公────大蔵遊星の言動や成長については、特に言及することもなく……。優柔不断な印象は拭えていないので、湊との今後に対して彼が謳う『真剣さ』がどれほどのものか測るのは難しいなぁと思ったくらいかと。説得力が薄いことは否めないですね。まぁ、本人は「恋をすることで価値観が変わったことを、後悔はしていない」とのことなので、それもまた1つの彼らしい着地点なのでしょう。その後の遊星と湊の人生が上手くいくよう、ユーザーとしては祈るばかりです。

花之宮 瑞穂√

 満足度の高い内容でした。展開的にも面白かったです。
 女装主人公と男性嫌いヒロインの恋愛物語を描く上で私がやってほしかったことをしっかりやり遂げてくれた上で、なおかつ本作の本筋である衣装制作の夢と主人公の成長についても恋愛物語に紐づけて達成してくれた点で非常に好印象でした。

 女装モノを描く上でまず確実に採用されるのは男性バレの展開ですが、個人的にはかなり重めのシリアスを見せて欲しい気持ちがありました。だって、今まで女性だと思って接してきた相手が男性だったんですよ? なんとなく察していたならまだしも、急にその事実を突きつけられた女性陣の胸中には様々な感情や葛藤が渦巻くのが当然だと思うのですよね。それ故、即座に全員が受け入れるのはむしろ違和感というか、少なくとも私の目には都合が良く映ってしまいます(もちろんルナ様やユーシェのように他者を表面的要素ではなく本質で判断するキャラが考えた末に受け入れるのはむしろ納得なのですが、それはまた別のお話)。その点、本作では湊√に引き続き本ルートでもしっかりとシリアスに描写してくれていましたし、本ルートでは攻略ヒロインの中でもより男性への嫌悪が強かったヒロインが本ルートヒロインを務めていたということでメインシナリオのほとんどの尺を持っていくレベルのシリアスを魅せてくれたことに非常に満足しています。このようなシリアスな展開があってこそ、これまでの女装主人公────大蔵遊星との関わり合いを思い返すことにより本ルートヒロイン────花之宮瑞穂が男性嫌いを乗り越えて遊星を受け入れるという展開に厚みが出たのだと私は考えています。

 本ルートの魅力としては、遊星の『女装』がただの作品コンセプトで終わっていない点も挙げられると個人的には思っています。本ルートでは最終的に、遊星の女装した姿である小倉朝日もまた大蔵遊星にとっての『本当の自分』として受け入れることが言及されました。私がこれまでに触れてきた女装モノの作品ではどこか女装という要素はあくまでもツール(メタ的に言えば作品コンセプト)程度の扱いしかされていなかった印象を受けました。しかし本作ではあえて男性嫌いのヒロインとの恋愛を描くことにより、女装という要素そのものにも明確な意義を見出していたように感じるのです。もちろんその後の遊星を男性として受け入れようと寄り添う瑞穂の姿勢も非常に好ましいです。ただ、私は遊星から直々に宣言された「小倉朝日も本当の僕」というセリフとそこから読み取れる本作の方針に感銘を受けずにはいられなかった次第です。それでこそ女装モノ作品や!

ユルシュール・フルール・ジャンメール√

 面白かったです。

 ユーシェというヒロインの魅力をこれでもかと言わんばかりに落とし込んでいるという点では素晴らしいシナリオだったと言えるでしょう。私も、共通パートや他ヒロインの個別ルートを読んでいる時からユーシェがただの能天気で無遠慮なポンコツだとは思っていませんでした。本ルートを始める前の私の脳裏にあったユーシェ像は、普段意図的にそのように見せているだけで、実は非常に聡明でその場の雰囲気と調和を重んじた言動をするお嬢様という印象でした。蓋を開けてみた感じではまぁまぁ当たっていたのでしょうが、実際のユーシェ像がそこにプラスでさらに奥深い要素を兼ね備えていた点は僥倖です。さすがにユーシェが裏での努力量に裏付けされた努力の凡人だとは思ってもみなかったし、ここまで深い葛藤と逆転劇を描くシナリオになるなんて尚更予想だにしませんでした。上述した性質に加え、甘えん坊で弱々しい本性すらも有する半ば属性が渋滞気味なユーシェの『ユーシェらしさ』を見事に活かしきったシナリオだったからこそ、それを読んでいる最中の私もキャラクターたちに感情移入することが出来たのだろうなと感じています。

 展開的にもシリアスとギャグのメリハリやネガティブパートとポジティブパートの抑揚がしっかりしており、読んでいて程よく面白さが持続する物語構成になっていたと感じました。特にネガティブなパートにおける容赦の無い絶望感の演出は個人的に評価したい点です。巷では「フィクションでまで辛い思いをしたくない」という声が散見されますし個人個人が好き嫌いの範疇でそのような声を漏らすことは否定しませんが、私としてはやはりどん底のようなパートがあってこそそのような状況が跳ね返ってポジティブなパートに転じた際のカタルシスへと繋がると考えています。本ルートも例に漏れず、長い長い絶望的な状況があったからこそ、終盤におけるショーでの逆転劇がバネのような跳ね返りで大きく心を昂らせてくれました。
 加えて、本ルートは衣遠が不服そうに負けを認めた瑞穂√と異なり、正真正銘衣遠が納得の上で遊星やユーシェを認めたルートですからね。そのような背景も相まって尚更心が躍ったのかもしれません。
 また、個人的には本ルートにおけるイチャイチャとシリアスの切り替えの良さが好印象でした。これは『あの晴れわたる空より高く』の感想でも言及したことですが、何かしらに打ち込んでいる最中、かつその対象以外のことに時間を割いている余裕が無いような状況であるにもかかわらずイチャイチャパートが挟まってしまうと、どうしてもモヤってしまいますからね。その点、本ルートではユーシェの性格や散見される恋愛描写も相まって非常に不安視していたのですが、蓋を開けてみればそんな不安はライターさんにもお見通しというか、徹底してイチャイチャとシリアスのメリハリがついていて安心した次第です。

 ……そういえば、本ルートでは結局ところどころで仄めかされていたユーシェの実家での扱いの話があまり触れられないまま終わってしまいましたが、アフターストーリーかFDで触れられるのでしょうかね?

桜小路 ルナ√

 面白かったです。
 さすがはその名でタイトルを飾るヒロインの個別ルート。満足度の高さで言えば本作随一と言えるでしょう。

 主人として高いカリスマ性を有していながら人間味も溢れるルナ様の魅力が最大限に活かされたシナリオであると同時に、実質的な本作のTrue√として主人公────大蔵遊星との関係性が最も美しく描かれたシナリオでもあると感じました。
 いや、それにしてもルナ様のカリスマ性の高さには衝撃を受けています。本ルートに限った話ではなく作品全体を通してそうなのですが、一介の観測者でしかない私の胸中にすら「この方の元に仕えたい」という欲求が生まれたのですから、自身の感情のことながら戸惑いました。ここまで『上に立つ者』として惹きつけられるキャラクターに出逢った経験は記憶を遡っても全く思い当たりません。本作をプレイして良かったと思える貴重な体験の一つになりました。というか、傍から見ていただけの私ですらこうなのだから、そりゃ実際直接仕えていた遊星があそこまで心酔するのも納得です。神聖視のあまり行為時になかなか性的興奮を覚えなかったのも頷ける。
 ルナ様の高いカリスマ性の秘訣は、時折感じさせる『親近感』にあるのだと考えます。優れた主人とは、完璧超人であれば良いというワケではないのだな、とルナ様から学びました。何かしらに優れている分、何かしらで劣っていて、見栄を張りながらも時偶に弱さも見え隠れしてしまう。義理人情に厚くありながらそこに恩着せがましさや他意を感じさせず、飴と鞭、真面目さとユニークさを絶妙な塩梅で使い分ける。クールで感情の起伏が乏しいと思いきや実は悪戯好きで明るい性格。これら溢れんばかりの人間味を有していながら主人として締めるところはきっちり締める性質の持ち主だからこそ、適度な親近感や放っとけなさを覚えつつも尊敬の念は決して薄まることなく、故に高いカリスマ性を誇っていたのだろうと私は解釈しています。
 このようなルナ様の特性は、誰かのために生きようと心に決めていた遊星と相性が抜群だったのだろうなとも感じています。加えてルナ様と遊星は、どちらも家では望まれた子ではなく、鳥籠の中の鳥のような生活を送ってきたという共通した境遇を持っていましたから、尚更通じ合うものがあったのでしょう。互いに鳥籠の中の鳥であった二人が強い絆で結ばれ、難題を跳ねのけ手を取り合って大空へ飛翔するような構図は、私の目にとても美しく映りました。

 展開についても序盤こそ退屈ではあったものの、中盤から終盤にかけての畳みかけは非常にシビアで思わず読み入ってしまいました。気が気でない展開が続くからこそ興味を惹かれ、それを跳ね返すような盛り上がりがあるからこそカタルシスを感じられるものです。本ルートは絶妙に私好みの加減で私が物語に望むそれが満たされていました。概ね満足しています。
 ただ、本作における最後のルートであった本ルートにおいてこれまでのルートでも巨大な壁として立ちはだかってきた大蔵衣遠が大きく株を落としたのが残念でなりませんでした。もちろん悪役ムーブ自体に嫌悪感を抱いているワケではありません。これまでのルートにおいても衣遠の思想や言動はやりすぎと思えるほど過激でしたが、そこには『才能主義』と『服飾に対する真摯なプライド』という筋の通った芯があるからこそ気にはならなかったのです。ただ、本ルートで衣遠はデザインの盗作という蛮行を働きました。これは、なぜ衣遠のプライドが傷つかないのか困惑するほどに服飾に対する真摯さからかけ離れた行為であり、かつ衣遠の認めた才能を愚弄する行為でもあります。いくら自身が才能無しと突き放した人間が制作に携わっていたからといってもそれらは決して変わりませんし、だからこそ衣遠はこれらの行いによって自身の芯をブレさせたのです。強い思想と過激な言動には相応の一貫性が求められ、そこがブレた人間の振る舞いからは途端に説得力が消失し、滑稽なモノと化します。作中でも言及があったことから鑑みるに衣遠の芯のブレについてはおそらくライターさんも意図している通りなのでそこまで悪く言えることでもないですし、衣遠もまた不完全な人間であり成長の余地を残していると言われればそこまでなのですが……。なんというか、あくまでも個人的な感情として、過激ながらも魅力のある巨大な敵であったが故に残念だった次第です。

BAD END√

 本ルートが続編である『乙女理論とその周辺』に繋がるとのことで、色々と興味深い内容ではありました。
 BAD ENDがあるとすれば共通パートにおける性別バレだとは踏んでいましたが、思いのほかあっさりと屋敷から追い出されて驚きましたね。その後のヒロインズの反応も全く触れられていないので、続編ではヒロインズと再会した際にどのような反応を向けられるのかが気になります。
 また、気になることといえば他に衣遠の背景もそうでしょう。衣遠と遊星母の関係性についてはルナ様√における衣遠の言動から「何かあるな」と察することが出来ましたが、本ルートでも触れられたということは続編で回収される可能性が高いということなのでしょう。本作では立ちはだかる壁という役割として描かれた衣遠でしたが、もしかしたら続編で背景が掘り下げられることによってより好感を抱けるキャラクターに昇華されるのかもしれませんね。今から続編をプレイするのが楽しみです。

総評


 全体を通して、安定して面白かったです。
 所感でも記した通りですが、コメディとシリアスの抑揚やキャラクターの魅力の描き方などが秀でており、総じて多くのユーザーからの支持を得ていることに納得出来るような平均点の高い作品であったという印象を受けました。特にルナ様の魅力が凄まじく、発売から10年以上経過した今でも根強い人気を誇る理由を自身の感情でひしひしと感じています。これは心地良い後味として尾を引くだろうなぁ。私もルナ様にお仕えしたい。
 ただ、個人的にはもう少しコメディとして面白味があるのかなと期待していたため、その点では少々残念でした。もちろん勝手な期待によるバイアスの話なので作品は何も悪くなく私自身が悪いのですが、前評判としてコメディの面白さが本作の魅力として前面に押し出されていたので、その点で満足度が期待に届かなかったのは少し残念に思っています。

 複数ライター制かつ服飾という専門性の高い題材を扱ったことの弊害なのか、一部キャラのルート間における振る舞いの齟齬や題材ベースで本作を見た時の若干の纏まりの無さは少々気になりましたが、完走した今となってはあまり気にしていません。明確に『粗』と呼べる部類の不満点ではあるのでしょうが、個人的には後に響く要素でなくて良かったなぁと安堵しているところです。

 「題材ベースで本作を見た時に若干纏まりが感じられない」という話をチラっと上述しましたが、かといって本作に全く纏まりがなかったかと問われればそうでもありません。あくまでも題材ベースではそう感じたというだけの話であって、こと大蔵遊星が鳥籠から大空へはばたく物語としてであれば私は本作を纏まりのある作品であると評せます。遊星がプロローグにおいて打ち立てた生き方は、「誰かのためになる立派な人間として生きる」という母親からの影響と「不条理な一生をがむしゃらながらも楽しんで生きる」というジャンからの影響をベースにしつつ、これまで持てなかった夢を持ってそれを叶えようとするものでした。そのような観点から改めて本作を振り返ると、どのルートでも遊星はプロローグで打ち立てた生き方を達成しているのですよね。だからこそ、少なくとも遊星の生き方という要素に焦点を置くのであれば、本作は纏まりと一貫性を持った作品であったと言えるのです。……まぁ、とはいえ遊星の抱く夢に関しては大分玉虫色な印象を受けたので、その点は少々玉に瑕でしたが……。まぁ、それまでの暮らしを考えれば致し方ないのかなとも思いつつ、受け入れることにしました。

おわりに


 『月に寄りそう乙女の作法』感想、いかかだったでしょうか。

 はやくりそな√やりたい。

 次にプレイする作品は、未プレイのえるりんご作品とポロンテスタ作品です。冬コミまでは同人作品を責めていく予定です。年が明けたら本作のアペンドアフターをプレイし、その後は早速続編である『乙女理論とその周辺』に着手するかもしれません。

 それでは✋