カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記

表現規制反対活動を昔していた。元エロマンガ家。元塾講師。現在は田舎で引きこもりに似た何か。

『「ニート」って言うな!』読了

『「ニート」って言うな!』読了。たいへん良書。感想よりも適切な要約を各自行うことが大事な本かな、と思う。でもサラリと感想を。
「ニート」は実在しない。実在するのは、若年失業者と、若年を恐怖する未熟な年配者と、恐怖を(意図を持って?)煽る人々と、それを利用するカルト&カルトとつるむ政治である。と読みました。この感想は不正確にすぎるかな。

「ニート」って言うな! (光文社新書)

「ニート」って言うな! (光文社新書)

内藤朝雄氏の記述。未熟なのは若者ではなく年配者の方である。

内藤朝雄氏の記述から以下抜粋。

これまでの青少年ネガティヴ・キャンペーンを分析すると、〔略〕基本的なメカニズムを抽出することができます。〔略〕比較的不変の「いいがかり資源」と「ヒット商品」の理論として提出したいと思います。それは比較的不変の「いいがかり資源」を組み合わせて、新しい「ヒット商品」〔たとえば「ニート」〕が、「先行ヒット商品」〔たとえば「パラサイト」「ひきこもり」〕のイメージに上乗せする仕方で移り変わっていく、という理論モデルです〔略〕。(157p)

内藤朝雄はメラニ―・クラインの「投影同一化」という概念を用いて、若年を見る未熟な年配者の視線・心理を解析する。

〔略〕「投影同一化」の場合は、自分の中の、不気味で不安で耐え難い、自己の崩壊感覚、不全感のようなものを、相手に投影して、相手の中で生きます。こういう感情のもとに施される教育というものは、非常に執拗で、〔略〕いつもいつも教育することを求めます。相手の中にある自分の不気味なものを、いつも教育という儀式でもって鎮め続ける必要があるのです。教育をし続けていないと心が安まらないのです。(175p)
〔略〕多くの場合、相手を教育するというのは攻撃でもあるのです。〔略〕復讐としての教育です。しつけというときには、だいたい攻撃の意味が入ってきます。〔略〕青少年への攻撃は、いじめや虐待もそうですが、だいたいがしつけと称して為されることが多いのです。(176p)
〔略〕投影同一化は縁が切れないどころか、ねばねばと心や態度に因縁をつけながら相手の中に侵入して、いつまでもかきまわし続けます。
どうも今の日本社会には、若者に対するこの種のタイプの憎しみがマス・メディアを通じて蔓延しているようです。(177p)
〔略〕たまらない不全感に対処する儀式として、他人に対する教育が続けられるのです。(178p)
〔略〕これは同時に、多くの青少年にとって非常に不快な行為でもあるわけです。〔略〕憎々しげに教育をしかける者たちの多くは、本当は相手のためなどではなくて、他人を痰壺にあつらえて憎しみを排泄しているということを、(その時その時、自分と他人をだましながら)心の奥底では知っていてやっています。〔略〕
年配者の青少年に対する不気味な投影同一化ぶりを観察すると、未熟なのは若者ではなく年配者の方であることがわかります。(179−180p)

教育は阿片である。「若者自立塾」は幼児プレイである。

教育というのは、相手を懐に包み込んで、なかなか切り離せません。「子宮」的なのです。(181p)
教育は阿片である。(182p)
経済や公正な分配の問題を、幻想的な教育の問題にすり替えられてはたまりません。〔略〕問題は、若年層の構造的な失業や雇用の問題であり、正社員以外の労働者が健康保険などのきちんとした社会的処遇を受けられない問題です。〔略〕それらが教育の問題にすり替えられることによって、あたかも問題が「ないかのように」扱われてしまいます。
いい年をした三十何歳までの人間をニートとして括って、きちんとこの人たちを自立させなければ、とか、育てあげなければ、ということが国をあげてなされていることは〔略〕ほとんど幼児プレイとしか言えないような状況です。

イギリスの本来の「NEET」は16歳から18歳までの未成年労働者階級の失業者を指す。日本で濫用されている「ニート」は34歳まで年齢が拡張され、かつ失業問題を隠蔽する言葉として運用されている。「ニート」定義を拡大濫用したのは、内閣府「青少年の就労に関する研究会」座長の玄田有史。つまり内閣府が、「失業問題は政府の雇用対策が失敗しているからじゃありません、ていうか失業問題は発生してません、若年層の《自己責任》です」という宣伝・情報操作に利用している「言い訳」が「ニート」だ。
本田由紀氏が丁寧に解析しているが、「ニート」定義に含まれるかなり多くの人が、病気や事故で働くことができなくなった人々だ。この、病気や事故の結果働くことができない人々を政府は「ニート」と呼び、「失業しているのは《やる気》がないからだ、若年層の《自己責任》だ」と責任転嫁するだけでなく、さらにいけ図々しく、「ニート利権」をつくった。

本田由紀の記述。「ニート利権」

以下、本田由紀id:yukihonda氏の記述から。

〔略〕「ニート利権」のようなものが〔略〕機能してしまって、〔略〕「ニート」支援を謳いはじめたとたんに、お金が降りてくるというようなことが起きているのです。〔略〕
その典型が、2005年度から政府の若者支援策の一環として開始された「若者自立支援塾」です。これは、「合宿形式による集団生活の中で、生活訓練、労働体験を通じて、職業人、社会人として必要な基本能力の獲得、勤労観の醸成を図り、働く自信と意欲を付与する」ことを目的とするものとされています。〔略〕全国で20ヵ所のNPO法人が選定されてすでに活動を開始してますが、そのような団体には政府から予算がついているのです。(57-58p)

自己啓発セミナーや新興宗教のダミーNPOに「ニート対策」の名目で税金を配っているのだろうと想像する。自民党森派は自己啓発セミナーや霊感詐欺くせえ新興宗教と関係が深いわけだし。
さらに本田由紀氏が詳細に述べているが、日本では、学校卒業時に典型雇用されないと、つまり正社員にならないと、その後正社員になるルートというのがほとんど存在しない。
つまり「若者自立支援塾」はまんま詐欺であり、霊感詐欺としての自己啓発セミナーでしかない。政府はわざわざ自分が一種の霊感詐欺を行い、末端の霊感詐欺に税金を投入しているわけで、こんな霊感詐欺では「怪我や病気で働けなくなった」若年が正規雇用される結果は導かれない。日本には新卒者以外に正規雇用の機会はほとんどないのだから。機会は与えず霊感詐欺に税金支援する、という施策は実に日本大本営の大本営ぶりを示している。
私の文体は猛烈にシニカルになってしまったが、本田由紀氏はもっと誠実に記述しているし「霊感詐欺」という言葉は使ってないので、その辺誤解なきよう。
オタク叩きへの対抗言説資源としても、たいへんに有効な書籍である。「ニート」と「オタク」は入れ替え可能な、「いいがかり資源」による「ヒット商品」なわけだから。

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