出展者ご紹介:編集工房ノア+ぽかん編集室/りいぶる・とふん

今日は関西から来てくださる、ふたつの出展者をご紹介します。
昨年に引き続き大阪からの参加、編集工房ノアさんとぽかん編集室の合同出展、そして、初参加、りいぶる・とふんさんです。

編集工房ノア+ぽかん編集室
『ぽかん』は、ゆっくりとしたペースでこれまでに5号出されている文芸のリトルプレス。ちょっと不思議な誌名は、作家・山田稔さんの名付けによるものだそうです。独自の審美眼(文学観というべきでしょうか)によって選ばれた10名ほどの執筆者による文章が収められているのですが、どれもが味わい深く、そして、穏やかな光を放っている魅力的な冊子です。「ぼくの百」「のんしゃらん通信」などの付録(とはとてもいえない豪華さですが)も、品のよい遊び心が味わえます。

『ぽかん』の編集発行人である真治さんに、ノアさんとの関係を伺ったところ、とても素敵な文章を書いてくださって、まるで『ぽかん』の誌面に紛れ込んだようでした。お読みください。

 編集工房ノアは大阪にある出版社で、富士正晴、竹中郁、杉山平一、足立巻一、川崎彰彦など関西に縁のある作家の本を出版しています。
 ことしの夏、その編集工房ノアより山田稔さんの『天野さんの傘』が刊行されました。本を読むという行為でしか得ることのできない幸福、終わることのない「つながってゆく」読書を味わえる一冊に仕上がっています。表題作「天野さんの傘」は詩人、天野忠について書かれた作品です。この作品を読んで、天野さんの詩や随筆を含め、関連書籍を再読したい衝動にかられ、書棚から引っ張り出してきました。まず詩集から『讃め歌抄』、『私有地』、『万年』、『うぐいすの練習』。そして、随筆。『そよかぜの中』、『木漏れ日拾い』、『春の帽子』、『耳たぶに吹く風』、『草のそよぎ』、『天野忠随筆選』(山田稔選)、などなど。関連書籍としては、山田稔『北園町九十三番地 天野忠さんのこと』玉置保巳『ゲーテの頭』、大野新『砂漠の椅子』、河野仁昭『天野忠さんの歩み』。列挙した作品はすべて前述した編集工房ノアから出版されています。さらっと言いましたが、この事実は奇跡のような幸福なのです。正直、詩集など出版したって儲かるわけがないので、詩集を積極的に出していている出版社なんていうのは、風変わりで妙ちきりんに決まっています。ですが、貧乏詩人そのひとをまるごと引き受けるような覚悟を自ら背負ってしまう出版人の、奇妙な情熱のお陰で、わたしたち読者は多くの詩集に出会うことができます。
 戦後、関西ではその妙ちきりんな役割を文童社(京都)、VAN書房(大阪)、蜘蛛出版社(神戸)などが担ってきましたが、編集工房ノアもその系列、と言えるでしょう。
 編集工房ノアからはじめて出た天野さんの詩集は『讃め歌抄』で、大野新さんから二百部買い取るので出版してもらえないか、と申し出があったようです。山田稔さんは「天野忠ほどの詩人でもこうなのかと粛然たる思いにとらわれた。」と書いています。このエピソードを読んで、やっぱり詩集を出版するって大変なのだなとおもうと同時に、今、天野さんの詩集を当たり前のように読めることのありがたさをかみしめました。
 一九七五年、社主の涸沢純平は編集工房ノアを立ち上げました。この時、涸沢青年、三十歳になるかならないかという若さです。なんと無謀な、とおもう一方で、ほんまにようやってくれたと感謝の気持ちでいっぱいになります。
 最近まで、編集工房ノアはただ一方的に応援している版元でしたが、『ぽかん』四号に寄稿いただいてから、涸沢さんと淡い交流が続いています。また、今年、四十周年を迎える編集工房ノアと一九七五年生まれのわたし(ぽかん編集発行人)は同級生、というのも共通点かもしれません。涸沢さんは『ぽかん』四号に寄せてくれた原稿で「あとは、うまく整理して、静かに消え去るのみ。あと少し。」と書いていましたが、この場を借りて、「あかん、涸沢さん。まだまだや。」と関西人でもないのに、関西弁で言いたいとおもいます。
 編集工房ノアの本は、ごく普通の、どちらかと言えば地味目な本で、造形的にものすごく凝っているとは言えません。ですが、涸沢さんや作者の思いはもちろん、とうとう一冊の詩集も出せず、埋もれていった多くの詩人たちの魂をも宿しているように感じます。どうぞこの機会に編集工房ノアの出版物に触れてください。

 ぽかん編集室は、『ぽかん』のバックナンバー販売、古本販売に加え、詩人の片山令子さんが発行するリーフレット『ひかりのはこ』を販売します。最新号の7号には、昨年のかまくらブックフェスタにあわせて作成した『ぽかん別冊 女友だち』に寄せてくださった「百合の時間」が収められています。また、今回のかまくらブックフェスタ参加
を記念し、ちょっとしたものを鋭意準備中です。おたのしみに!

ぽかん編集室  http://pokan00.blogspot.jp



今年七月に刊行された山田稔『天野さんの傘』


天野忠の詩集、随筆。(残念ながら『そよかぜの中』は版元品切れ)


天野忠関連書籍。(残念ながら『ゲーテの頭』は版元品切れ)


りいぶる・とふん

りいぶる・とふんさんは、扉野良人さんのプライベート・プレス。今年初めて、京都から参加いただけることになりました。古書に興味のあるかたなら、『sumus』はじめ古書にかんする雑誌や、著書『ボマルツォのどんぐり』で扉野さんの文章に触れておられると思います。本のことや文学のことなど圧倒的な質と量の知識をお持ちですが、その文章は、自慢げなところは微塵もなく謙虚で、でも、あたたかな情熱でこちらを誘ってくれます。
今回のブックフェスタのチラシに寄せて書いてくださった文章では、「とふん」という不思議な言葉の意味を明かしておられて、意外でしたが、でも納得させられました。さらにブログでは、「とふん」のもうひとつの由来についても語っておられます。そのなかで、「りいぶる・とふんもアマチュア出版であるという気構えがある」と述べられいて、「アマチュアがかならずしもプロ(専門家)を目指さず、そのアマチュアの本分を深め、なおかつ専門分野が及びもつかない仕事の可能性を秘める」という一節もあります。
「かまくらブックフェスタ」は、第1回目より、いわゆる出版社だけでなく、個人の方々にも出展をお願いしてきました。たんに、それがごく自然なことだと思えたからにすぎないのですが、そのようにしてきてよかったのだと、扉野さんに教えていただいた思いです。
りいぶる・とふんさんは、これまで単行本4点、雑誌2点、豆本詩集1点、全部で7点を出されているそうです。なかなか実際に出会えるチャンスが少ない本たちですし、特に、今年出されたばかりの『浮田要三の仕事』という豪華な本を手に取ることのできる貴重な機会になると思います。また、メリーゴーランド京都発行の詩集等もお持ちくださるとか。これも楽しみです。

りいぶる・とふん  http://d.hatena.ne.jp/tobiranorabbit/