「ゾンビウイルスに感染した母と、残される子供のエモい話」だと思ったら「パワー系お母さんが一振りでゾンビを何匹も殺すゲーム」でもあった

病気ガチャで君だけの最強ゾンビお母さんを作り出そう!

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「ゾンビもののよさ」のひとつは、愛する人が感染者になってしまうという恐怖にある。ゾンビになってしまえば元には戻らないどころか、人間を襲う恐ろしい生き物になってしまうのだ。自らの手を汚して愛する彼や彼女がゾンビになるのを防ぐか、愛する人の手によって殺されるのか、あるいは何もしてやれないのか。その選択だけでひとつのドラマになる。

一方、まったく違うよさもある。「人間なんてクソ喰らえ」と世界を呪っている人にとってはゾンビの来襲はある意味で福音であり、ムカつくあいつも見知らぬあいつも殺していいのである。そう、心地よく殺して許される存在もまたゾンビなのだ。

このようにゾンビの魅力にはまったく正反対の方向性があるのだが、そのふたつを両取りしようとしたゲームもある(意図してなのかは知らないが)。それがいまから語る『アンダイイング(Undying )』だ。

「ゾンビになりかけている母、残される子供」というエモすぎる設定

『アンダイイング』は北京に本拠を置くVanimalsが開発したインディーゲームである。「ディアブロ」シリーズを生み出したデヴィッド・ブレヴィックがパブリッシャー側として監修しているとのことで、期待が集まるのも不思議ではないだろう。

さらに本作は、世界設定が大きな魅力となっている。主人公はゾンビウイルスに感染した母親「アンリン」と、その息子である「コーディ」。死を目前にした母は、子供を生かすためにさまざまなことを教えて限られた時間を生き抜くのである。

この設定だけでもエモくて泣けるという人もいるだろうし、BGMも哀愁あふれるピアノ曲が常に流れている。日本でも唱歌として知られる『旅愁』が重要なテーマとして使われており、歌詞どおり過去の平和や母との別れに対する切なさを感じるサバイバル・アドベンチャーなのだ。

また、母子の旅のなかで出会う人々も独特の物語を抱えている。家に閉じこもり親の帰りを待つ子供、生存者のキャンプで強権を振るリーダー、そして刑務所にいるたくさんの囚人など、ゾンビものらしさがあふれているだろう。

……と、傍から見ればこのゲームは「ゾンビウイルスに感染した母と、残される子供のエモい話」に思えるのだが、実際に遊んでみると意外な発見がたくさんある。そもそも本作の母親は非常にしぶといのだ。

一般的なゾンビものの感覚だと、ゾンビに噛まれて感染状態、となるとせいぜい一週間程度でゾンビ化して終わりのように思うが、本作では40日以上の余裕がある。その日々の中では、悲しい雰囲気一辺倒でもないのである。

いまの日本語訳は機械翻訳、ゆえに発生するコミカルな場面

『アンダイイング』の雰囲気が奇妙なものになっている最大の原因はローカライズにある。

現在Steam版は正式リリースを迎えているものの、日本語に関してはほとんど機械翻訳になっている。ゆえに切なさ激減、コミカルさ激マシなのだ。

プレイ中に出会ったトップレベルのひどい翻訳。一文に「あなた」が4回も出てくるゲームははじめてみた。

たとえばアンリンは自分の息子のことを「子供!」と呼んだり、あるいは自分の父親のことを「おパパ」と言ったりする。NPCの名前も奇妙で「落ち着いて接地」や「群衆を助けるために戻ってください」はあまりにも印象的すぎる。「至高のオーバーロード・ジャブスコ」を思わせる翻訳である。

本作には「アイアンバックギャング」という集団がいるのだが、「鉄背団」と訳されているうえにいわゆる中華フォントで表示されるのだ。そして、あくどい敵が急に敬語で喋りだしたりと、機械翻訳の味わいが随所に存在する。

最も雰囲気を壊しているのが戦闘中の敵のセリフである。野盗は戦っている最中に「えっと私からちょっと遠いです」だとか「ここから遠いですもうあなたに会いたくないです」などと言い出す。

思わず笑ってしまったが、おそらく「逃げるな!」のようなことを言っているのだと思われる。ゾンビではなく人間に襲われるというのもまたゾンビもののハイライトなのだが、その場面すらこうなっているわけだ。

なお、日本語訳に関しては修正される予定のようだ。Nintendo Switch版が2024年春リリース予定なので、そのころに合わせての修正が期待される。また、この欠点も見方を変えれば長所となる。コミカルでおもしろいということは、ゾンビや悪人を殺す罪悪感が薄れるということだ。

ランダムな病気がお母さんを“最強”にする

母親の症状を選択する場面。出現した症状をいくつか選択しなければならず、日を追うごとに症状が増えていく。

『アンダイイング』に対するイメージが大きく変化するもうひとつのポイントとして、ローグライト要素がある。

本作はマップ上にランダムイベントが発生したり、手に入るアイテムや暗証番号が変わったり、あるいはコーディー(息子)のスキルを恒久的に育てる要素(別のセーブデータに影響が出るもの)などが存在する。そして一番重要な要素は、寝るとき母親にランダムで病気の症状が出るということだ。

たとえば腫瘍ができて定期的にダメージを受けるようになったり、空腹度の最大値が減るなど病気の内容はさまざまだ。ただし病気は悪い要素だけではなく、攻撃力・防御力アップなどのよい追加効果もセットになっている。

さあ、これが問題だ。母親が徐々にゾンビになるので子供が手助けしなければならない……と思いきや、病気によってはむしろ母親がどんどん強くなる。ましてや本作、セーブ&ロードで病気ガチャができてしまうのだ。

「正確」は非常に強い追加効果。これだけは消したくないので、あえて薬で病気を延長したりする。

「正確」という病気があれば強攻撃をタメなしで発動できるし、「毒の蓄積」という病気を持っていれば病状の数だけ攻撃力が上がる。つまり本作は、「病気ガチャで君だけの最強ゾンビお母さんを作り出そう!」という内容なのである。

もちろん、「ローグライトで厳選するのはいかがなものか」という声はあるだろう。しかし本作は病気格差がかなり大きく、下手なものを選ぶと詰みかねない(ただ難しくなるだけでなくストーリー進行も阻害する)。ハーブさえあれば病気を直せるものの、それを育てるには日数がかかるため病気なしプレイも容易ではない。

ふつうのローグライトであれば引きが悪くてもやり直せばいいものの、本作はストーリー重視でプレイ時間も約25時間と長い。詰み状態になったら死んでまた最初からやり直しとはならないのである(そもそも死んでもロードしてやり直すだけだ)。

つまり、ある程度の厳選は必要になってくるし、仮にそうしなくとも数日前のセーブデータからやり直すと自然と選び直しになる。こうして出来上がるのがゾンビ化したパワー系お母さんだ。

一振りでたくさんのゾンビを殺すお母さん。ちなみに宇宙飛行士の格好はスキン設定によるものだが、スキンも雰囲気にそぐわないものが多い。

日数が経つと母アンリンは、殴り殺したウサギをそのままバリバリと食い汚水をすすり、バットやバールでゾンビを殺しまくる最強ゾンビお母さんになる。一振りでゾンビを7~8匹殺すことも可能で、移動速度はまるでゴキブリのようになっていく。

冒頭に書いたように、『アンダイイング』は感傷的なゾンビものかと思いきや、無双的なおもしろさに推移していくのである。悲しげなBGMと正反対のゲームプレイだ。

物悲しいストーリーと強くなっていくゲームシステムの意外な融合

まるでサウナのあと水風呂に入るかのような温度差があるゲームなのだが、私は『アンダイイング』をどこか嫌いになれない。

母親がどんどん強くなっていくのは奇妙なものの、それでもビデオゲームの原則にはのっとっている。プレイするほど強くなるのは嬉しいものだし、じゃがいもやハーブを育てまくったり、クラフト台などを強化していく収集・育成の楽しみはきちんとあるのだ。

何より時間に追われるゲームなので、ゾンビを一振りで殺しまくったり、高速で移動してさっさとクエストをこなせるのは、ストレスから解放される気持ちよさがある。序盤の何本もバットを持ち込んでちまちまゾンビを殴る状況を考えると、(母親のほうがすっかり)強くなったものだと感心する。母は強し。

むしろ本作の問題は、全般的に進行方法がわかりにくいところである。Steamコミュニティなどをチェックしないと、クエストの進め方や新たなマップの出現方法が理解できない可能性が十分にある。また、子供に本を読み聞かせる方法はそもそもゲーム内で説明がない(具体的にはソファに座る必要がある)。

『アンダイイング』はわびしさとゾンビを殺す爽快感をかけあわせたゲームである。センチメンタルとスカッとした感覚を組み合わせるとはまったく驚きだが、それが独特の味わいになっているのは確かだろう。

翻訳が修正されてから遊ぶのがおすすめ……と言いたいところなのだが、無茶苦茶な雰囲気は機械翻訳のいまだからこそ味わえるともいえる。ゾンビアポカリプスにおけるカオスを描いた作品だと、いまは解釈しておこう。


渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。おすすめのお母さんスキル(衰退)は腐ったものが食えるようになる能力。母親は適当な腐ったものを、子供にはエナドリを飲ませるだけでよくなるので楽。

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