JRPGと共に歩んだ私が、海外の大作RPG『バルダーズ・ゲート3』で得た大きな喜びと深い悲しみ

やべえ女戦士と恋した旅路

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

かつての日本では、RPGが非常に大きな存在感を持つジャンルであった。それまで『スーパーマリオブラザーズ3』といったアクションゲームを中心に楽しんでいた私も小学校中学年くらいになってくると、周囲の「RPGを遊ばねばゲーマーに非ず」という雰囲気(私が勝手に感じていただけかもしれないが)に呑まれていった。

RPGをまともにプレイしたのはおそらく『ドラゴンクエストV』が最初で、いとこにポテトチップスを食べさせてもらいながら遊んだのを覚えている。その後は『ファイナルファンタジーV』などを遊び、特に熱中したのは『MOTHER2 ギーグの逆襲』や『アークザラッドII』である。日本のRPGが非常に勢いを持っていた時期に育ったのだ。

もっとも、その後は王道といえるRPGから離れて「サガ」シリーズに傾倒するなどしたが、それはさておき。時は流れて2023年。海の向こうで『バルダーズ・ゲート3』というRPGが非常に注目されていた。

しかし、「なぜ日本のゲーマーはGOTYに輝いた『バルダーズ・ゲート3』を楽しめない可能性があるのか?」という記事に書いたように、このゲームはテーブルトークRPGである『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をベースにした作品だ。いわゆるJRPGに馴染んできた人にとっては文化の違いが立ちはだかるであろうゲームで、私もまた、それに戸惑った人間である。

もっとも、私は遊び続けることで幸運にもいくらか馴染むことができ、最終的にはかなり楽しみつつ50時間以上もプレイしてクリアできた。とはいえ、やはり完全に理解できるわけではなく、この冒険には大きな喜びと深い悲しみが伴うのであった。

とにかく苦しいのが「序盤のバトル」

『バルダーズ・ゲート3』で最初に最初につまづきそうになったのがエメラルドの森での防衛戦である。

攻めてくるゴブリンたちを迎え撃とうとするも、とにかく難しい。防衛網は容易に突破されてしまうし、崖の上から攻撃できる有利な状況にも関わらず巨大なクモがジャンプして崖を飛び越えてきて「卑怯だ」と言いたくなる。

使えそうなタルが落ちているがどうすればいいかわからないし、手持ちの呪文は思ったより強くない。敵の数が多いので戦闘も長引き、その挙げ句に打ちのめされる。「もうゴブリン側に寝返るようやり直そうかな……」とすら思うほどであった。

本作は選択肢が多いのが大きな特徴だ。さまざまなキャラクター、環境、呪文を使いこなせばバトルは有利になる。しかし序盤は当然ながら選択肢が限られるし、知識がなければなおさら戦略は狭まる。

結局は難易度を下げることを決断をしたが、後ほど情報を漁るとやはり序盤は難しいものらしい。レベルがいくつか上がるまでは探検家(低難易度)で冒険すべきという判断は間違っていなかったと思っている。

ふざけた方法で強敵を殺せて笑いが止まらない

呪文「氷の嵐」はエフェクトも美しい。

一方、ゲームに慣れてくるとおもしろい戦略が見つかるようになっていった。たとえば氷を降らせる呪文「氷の嵐」でザコを一掃しつつ、落ちた氷を溶かして水場を作り、そこに電撃の呪文で追撃するなんて戦法をよく使った。

そこに火が置いてあれば、脂を展開する呪文「脂」を唱えて誘爆を狙うなど、ようやく選択肢が豊富なバトルに乗れるようになっていった。こういう戦略を考えるのが『バルダーズ・ゲート3』の戦闘の魅力だろう。

また、キャラクタービルドにも気を使うようになった。最初は隠密行動や弓での攻撃が得意なクラス「ローグ」が弱いと思っていたのだが、難易度をノーマル相当に戻してマルチクラス(ほかのクラスのレベルアップができるようになるシステム)を設定すると一気に輝いたのである。

クラスのビルドに関しても知識が重要な作りで、類似のクラスのスキルを習得するようになるとグンと輝いたり、あるいはまったくシナジーがないクラスもあったりする。とにかくいろいろ試してみて、ダメだったら野営地でリセットしてみるほかないのだ。

消費アイテムも最初は数が多くてわからなかったのだが、試しに使ってみるとかなり有用であることがわかった。すると、ポーションの材料を集める探索や、買い物がより楽しくなっていく。

一番印象深いのは、とあるボスを強引に倒したときであった。正面から戦うと連続攻撃でハメ殺されてとても勝てそうにないため、強引な手を使うことにした。呪文「上級不可視化」で姿を消して近づき、敵を吹き飛ばす「念動力」で崖に落として即死を狙ったのだ。

これが見事にハマったときは笑いが止まらなかった。一方的にやられるだけの敵をこうも簡単に始末できるだなんて! 崖下から聞こえるボスの断末魔がいつもより心地よい。

たいていのJRPGはボスと向き合って会話してからバトルがはじまるものだと思うが、先手必勝こそ『バルダーズ・ゲート3』である。もちろん本作にもそういう会話はあるのだが、わざわざ会話しなくてもいいゲームなのだ。

しかし、世の中はそう甘くない。無理やり崖に落として倒したそのボスは本当に特別なキャラクターだったので、倒したあとに死体からとあるアイテムを回収する必要があった。これがないとまったく話が進まない。

だが、死体は奈落の底である。いくら自由なゲームであろうとも、プレイヤーの行動すべてに責任がとれるわけではない。またもや私は頭を抱えるはめになり、ロードボタンを押さざるを得なかった。

固有名詞がわからない

ちょっとした会話にも上記画像のように「ドラウ」「アブソリュート」「トゥルーソウル」といった固有名詞が出てくる。後ろのふたつはそのうち意味がわかるが、ドラウ(いわゆるダークエルフ)は知っている前提である。

『バルダーズ・ゲート3』を遊んでいてしんどかったのは、よくわからない固有名詞が多かったことである。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の膨大な世界設定が前提となっているのだから、当然ではあるのだが。

どこかへ行って誰かと会話するたび、「ちょっと待ってそれ調べるから!」と立ち止まらなければならない。そして調べてなんとなくわかっても、会話がいまいち腑に落ちないこともしばしばあった。

筆者は記憶をなくした「ダークアージ」を主人公にしていたのだが、「実は◯◯だった」と明らかになってもピンと来ず、しばらく調べてから「ああそれはたいへんだ」となった。なんとなく理解できたのはいいが、話についていけていない事実は重くのしかかる。

確かにダークアージは過去の記憶をなくしてはいるものの、世界の常識などをまったく覚えていないわけではないようである。やはり、冒険の舞台となる「フォーゴトン・レルム」に生きる存在なのだ。しかし、少なくとも私のようなプレイヤーはそうではない部外者である。うまくロールプレイができたとは、とてもではないが言い難い。

調べるのもなかなか手間で、そのうち文脈で判断できるものなどは調べず、なんとなくで理解するようになっていった(「スリードラゴン・アンティ」などは文脈から作中世界のカードゲームだと察せられる、など)。こういう固有名詞には詳細な説明があれば嬉しいが、いちいち説明があったとしてもそれはそれで読むのが大変そうではある。

固有名詞がわからないのは本作に馴染みきれなかった大きな要因であり、悲しみに似た感情を覚える原因であった。

あざとすぎる吸血鬼「アスタリオン」

本作はキャラクターも個性豊かだが、「アスタリオン」はとにかくあざとかった。

アスタリオンは美形の吸血鬼であり、かつ暴力的な性格というだけでも人気が出そうである。そのうえ、ゲームを進めていくと彼の弱いところまで見えてくるのだ。

最初は刺々しい態度のアスタリオンだが、次第に仲間としての絆を深めていき、血を吸わせてやり(もしくはロマンスが発生し)、過去の因縁によって取り乱す様子すら見せてくれる。そして、結末によっては「いろいろあったがまあ楽しかったよ」などと言い出すのである。ゲームプレイ中、思わず「こんなん人気キャラになるに決まってるだろ」と呟いてしまうほどであった。

昨今は『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の「チリ」が非常にあざといキャラクターだと感じたが、アスタリオンはそれに匹敵、もしくは越えるほどのインパクトを持った存在であった。

脳内では最高にカッコいいバトルシーンが現実では地味

レイゼルがボス相手に奮闘しているシーン。それ自体はいいのだが……。

あるボス戦で、仲間の「レイゼル」が大活躍していた。

彼女はファイターであり、その手に持った両手剣でボスを潰すかのようにぶった斬るのである。さらに彼女を加速&巨大化状態にすれば1ターンに何度も何度も強烈な攻撃を繰り出せる。まるでクラウドの「超究武神覇斬」のようにボスをボコボコにしたのだ。

その様子に興奮してスクリーンショットを何枚も撮ったのだが、あとからそれを見てみるとごちゃごちゃしているのに地味すぎる。そもそも説明もなにもなしに見ても意味がよくわからないだろう。

本作は斜め見下ろし視点で描かれており、全体の情報を見渡せるのが特徴だ。背景のビジュアルにもこだわっているし、美しい景色や印象的な場面はたしかにある。特にバルダーズ・ゲートという大きな街に到達したときは、その広さと人の多さ、読みきれないほどのセリフやたくさんの店やクエストに驚いたものだ。

とはいえ、バトルのアクションにものすごい演出が用意されているわけではない。利き手攻撃のモーションは限られたものだけのようだし、レイゼルが活躍するシーンでもそれがただ繰り返されているだけではある。

美しい景色も確かにある。が、それが伝わりにくいゲームなのは確かだ。

本作は加速された状態が行動回数で表現される。よって何度も通常速度で攻撃しているのを見て、「実際のところこれは高速で何度も攻撃をしているのだ」と脳内で補正しなければならないのである。JRPGにおけるカッコいい技のようなものは、どうやら本作にはなさそうだ。

つまり、「レイゼルの繰り出した超究武神覇斬のような連続攻撃」は私の頭の中にしかないのである。これは少し寂しく感じるし、遊んでいない人に彼女の攻撃のすごさは伝わらないだろう。

ロマンスが旅の大きな思い出となる

本作はロマンスのシーンも大きなポイントである。これはポルノというより、物語や体験に深みを与えるものだ。

我がダークアージは前述のレイゼルと恋仲になった。こう書くと、本作を遊んでいる人は「げえ」と思うかもしれない。レイゼルは喧嘩っ早い恐ろしい種族「ギスヤンキ」で、やたらと相手を殺して問題を解決しようとする。

はっきりいってレイゼルは危険人物に見えるのだが、冒険を続けていると向こうからロマンスのお誘いが来た。その内容はやはり暴力的ですらあるのだが、同時にやたらと情熱的でもある。

なんとなくそのまま関係を続けていると、レイゼルはダークアージのことを「ザク・ヴォンフィン・ドゥジ(我が喜びの源)」とまで言うようになってきた。すぐに汚い言葉を口にするあんな蛮族が。いやはや、愛は人を変えるものである。

それでもレイゼルは扱いにくい人物で、旅の途中で揉めることは一度や二度ではなかった。しかしながらふたりの恋はなんとかうまく行き、一緒にバルダーズ・ゲートの朝日を眺めながら肩を寄せ合う関係になる(おそらくダークアージの魅力の値が高いおかげだろう)。こうなると、彼女に対する印象も変わってくるのである。

ギスヤンキと性交しても子供は生まれないらしい。この事実が絡むサブクエストもある。

また、生殖に関する描写も世界設定の説得力になってよい。レイゼルは妊娠しないのか気になったのだが、実はギスヤンキという種族は生殖が特殊なのである。ダークアージは「ドラゴンボーン」という種族なので、まさか男性器が2本あるのか(いわゆるヘミペニスなのか)気になっていたのだが、下着を剥いて見てみるとどうやら人間寄りのようではあった。

なお、クマに変身した仲間とロマンスできるところが発売前に話題になっていたが、それ以外にも本作には驚くべきロマンスがある。これは明らかにジョークとして描かれているようだが、意外な種族の生殖の実態が明らかになったといえなくもない。

『バルダーズ・ゲート3』におけるロマンスは確かにフックなのだが、同時に世界を構築する重要な要素のひとつになっているといえよう。

エンディングが「自分好み」になる

本作はエンディングが1万7000通りあるらしいが、それよりも終わり方をある程度自分好みにできるところがよいように思えた。

私は世界が平和になるようなエンディングを迎えたが、何もかも完全にうまくいったわけではなかった。主人公のダークアージはとある大きな代償を支払ったし、恋人であるレイゼルとは離れ離れになってしまった。

しかし、アスタリオンからは「自分を自分として受け入れられるようになったのはお前のおかげだ」と言われるまでになったし、ウィザードの「ゲイル」とも親友のような間柄になった。仲間たちとずっと友人でいられるかはわからないが、世界を救った価値はあっただろうと思える、グッドながらビターな味わいもあるエンディングとなった。

最終盤はこのエンディングの雰囲気を調整するような選択肢が連続しており、本当に自分好みにできた。何もかも円満解決する強引なハッピーエンドは嫌だし、雑なバッドエンドも味気ない。代償を支払いつつもこの道でよかったのだと思えるような終わりこそ、私の求める旅の終わりである。

フォーゴトン・レルムでの冒険は楽しかった。話についていけず悲しみやギャップを感じるときもあったし、一方で本作でしか味わえないであろう大きな喜びもあった。まるで自分の選んだエンディングとそっくりだ。選択肢が豊富なゲームだけあって、自分の行動が反映されているのだろう。

やはりJRPGに親しんでいた身としては『バルダーズ・ゲート3』を完全に理解したとは言えない。それでも、記憶に残る偉大な旅だったのは確かだ。


渡邉卓也(@SSSSSDM)はフリーランスのゲームライター。クリア後にいろいろ調べると、まったく知らなかった情報やビルドがあってまたもや驚く。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article

バルダーズ・ゲート3

Larian Studios | 2023年12月21日
  • Platform / Topic
  • PC
  • Macintosh
  • PS5
  • XboxSeries
コメント