一方で、ハッとさせられる、背中を押してくれる台詞も数多くあります。
芦原妃名子『セクシー田中さん(6)』 (フラワーコミックスα)小学館
“胸を張ろうと 決めたんだ 誰に何を 言われても 何度も 背筋を伸ばす”
“若い人に 3倍努力すれば 追いつける 10倍努力 すれば 追い越せる
私のこれからの 人生の中で 今が一番 若いんだから”
“あなたは 今 あなた自身と 向き合って できることを やればいい”
私は漫画の技術的なことには明るくありませんが、セリフの一文字一文字も、構図やコマ割りも、伝えたいメッセージが読者の心に届くように計算されているのではないでしょうか。物語を介して、登場人物が、芦原先生が、自分に寄り添ってくれている気がするのです。
この作品を読んで、曲がってしまう背筋を、何度でも伸ばそうと思った読者はきっと多いと思います。
愛おしいキャラクターたちがリアリティをもって物語のなかで生きている。心に響くセリフが散りばめられた珠玉の物語は、『セクシー田中さん』だけではありません。
●四季を重ねながら綴られる初恋『砂時計』
芦原妃名子『砂時計(1)』 (フラワーコミックス)小学館
両親の離婚をきっかけに母親の実家・島根に越してくる主人公の杏(あん)。そこで出会った幼なじみ・大悟(だいご)との物語である『砂時計』(小学館刊)は、映画・ドラマ化された大ヒット作品です。
年齢と四季の移ろいを重ねながら描かれる恋模様は、美しくも切ない。一見すると気が強く明るい杏ですが、12歳で母親を自死で亡くしており、どこか不安定。そんな弱さを抱えながら、周囲の人たちと共に前へ前へと進もうとする杏の姿には、胸が熱くなります。自分の指針が揺らぎそうなとき。自分に自信をなくしたとき。何度もこの作品に救われました。