また一方で、朱里からの好意に気づきながらも「友だち」という言葉で縛り、向き合うことから逃げてきた朱里の同級生・進吾(しんご)。そして、朱里のことを狙うチャラい広告マン・小西も、男性ならではの生きづらさを抱えています。朱里と小西の恋が「上手くいくのか?!」と思ったら、急に小西と進吾がふたりで男飲みすることになるなど。
「えっ! そっち?」と、ありそうでなさそうな展開には驚かされます。そこが面白い。
芦原妃名子『セクシー田中さん(5)』 (フラワーコミックスα)小学館
人間は生きているだけで、さまざまな「想定外」に見舞われるものです。年齢を重ねても、そんな時はうろたえるし、自分の思うように世界は回らない。
そんな大人たちのリアルな「ままならない」を、コミカルに、何より愛をもって描いている作品なのです。
芦原先生の作品を読んでいると、乾いた心が潤っていく。それは、共感せずにはいられない、繊細な心理描写によってもたらされるものだと思います。
“なんで 皆 自分には 大した価値がないって すぐに 思っちゃうんだろう”
“友達 便利な言葉だな”
“「キレイだね」って 言われるよりも 「かわいい」って 頭をなでられたい 好きな人にだけは”
年齢や性別、生き方や考え方は違っても、登場人物たちが語る心情に、自分自身の心や経験のなかにある想いを重ねずにはいられないのです。「その気持ち、分かる」と共感することで、過去もしくは今の自分を肯定してもらえたような気持ちになりませんか? そんな共感と肯定はとても優しく、
まるで包み込まれるような読後感に、疲れた心が癒されるのです。