天才アニソン作曲家・神前暁を語る(前編)ーー「GO MY WAY!!」と「God Knows…」と「もってけ!セーラーふく」

キャラソン好きの夫婦が、多数のアニメソングやゲームソングを手がける作曲家・神前暁さんを対談形式で絶賛します。

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作曲家・神前暁とは 

私:今日は我々がキャラソンに目覚めるきっかけになった作曲家、神前暁さんを取り上げて、力の限り絶賛したいと思います。

 

妻:神前さんがいなければ、これほどアニソンにハマることもなかったと思うね。

 

私:そうですね。私はキャラソン・アニソンについて、「作曲家で聴く面白さ」というものを常々主張しているわけですが、そんな価値観を教えてくれたのは神前暁さんでしたよね。

まず簡単に神前暁さんを紹介すると、ゲーム会社のナムコに所属してゲームソングの世界でそのキャリアを開始し、アイドルマスターなどの楽曲を手がけたあと、「涼宮ハルヒの憂鬱」でアニメソングの世界にデビュー。その後「らき☆すた」や「化物語」シリーズ等、多数の作品で劇伴やアニソン・キャラソンの作曲を手がけてきました。

 

妻:経歴を軽くなぞっただけで、それがそのままキャラクターソングの歴史を象徴するようなすごい作品達よね。

 

私:作曲家の田中公平先生は、かつてNHKの番組で神前さんと共演した際、「これからのアニソンはキャラソンだ」と言い切った上で、神前さんのことを「これからのキャラソンを担う人」と絶賛しました。

 

妻:「BS熱中夜話・アニメソングナイト 」の第二回だったよね。あのころのNHKのアニソン番組は素晴らしかった。

 

私:そうですね。震災後にやや下火になってしまったんですが、あの頃のNHKは確実にアニソンという時代の先端の啓蒙者として、すごいレベルの番組を作っていましたね。

 

妻:我々も基本的には、あそこで示された価値観の延長線上を生きているような感じだもんね。

 

私:それでは冒頭の話はこれぐらいにして、具体的な曲の紹介に入っていきたいと思います。

神前さんの楽曲って、非常に多彩ではあるんですが、私は大きく5つぐらいのレパートリーに大別出来るんではないかと思っています。ここではその各レパートリーの代表曲を取り上げて、神前さんの素晴らしさを振り返るとともに、神前さんに象徴される現代のキャラクターソングの魅力というものに迫っていきたいと思います。

 

キャラ声の映えるアイドルソング「Go My Way!!」

私:まず、最初に取り上げたいのは、神前さんの王道レパートリーであるアイドルグループ的な楽曲の代表「GO MY WAY!!」です。

GO MY WAY!!

GO MY WAY!!

  • 765+876PRO ALLSTARS
  • Anime
  • Â¥250

 

妻:名曲過ぎるよね。日本の音楽界全体を見ても、何年かに一度しか出ない曲だと思う。

 

私:私はゼロ年代で最も楽曲的に優れていたアイドルグループって、ハロープロジェクトでもAKBでもなくて、アイドルマスターだと思っているんですが、この曲はそれを代表する名曲でもありますね。

 

妻:あの舌足らずなキャラ声が栄えるアイドルソングなのよね。

 

私:ニコニコ動画では曲名自体、あの歌い方ゆえに「ごまえ」と言われていますもんね。

 

妻:舌足らずであるほどに魅力的に感じるというのはどういう仕組みなんだろうね。

 

私;日本のアイドルソングは必ずしも歌が上手い人のものじゃないのと語るのは前山田健一さんですが、この曲は、キャラ声ゆえの拙さというものを歌の魅力として取り入れている点がすごいんですよね。キャラ声によるバーチャルなアイドルソングを、アイドルソングの「進化形」として位置づけたという意味でも、意義の深い作品だと思っていますよ。

 

妻:まあそもそも、現実のアイドルソングよりも、ゲームにおけるアイドルソングのほうがレベルが高い時点で新しい時代を予感させたよね。

 

私:そういう意味では、リアルとバーチャルの価値の逆転が音楽の世界で実現したのがゼロ年代だったんだと思いますよ。

 

妻:確かにこの曲に代表されるキャラ声が映えるアイドルグループ的な楽曲は神前さんの王道レパートリーよね。

 

私:アイドルマスターの中では、この系統の曲といえば「HELLO!!」とか「魔法をかけて」、「READY!!」を始め多数の曲がありますね。

 

妻:それ以外の作品では、ゲーマガ編集部がプロデュースしたダンスユニット「me to me」の「スーパー☆スター」や、最近では、 アニメ「ビビッドレッド・オペレーション」の主題歌「Vivid Shining Sky」なんかもそうよね。

Vivid Shining Sky(ビビッドレッド・オペレーション)

Vivid Shining Sky(ビビッドレッド・オペレーション)

 

私:「スーパー☆スター」はコミケで売っていた限定イベントのCDとして埋もれさせるわけにはいかない名曲ですよね。

 

妻:PSPゲームの「探偵オペラ・ミルキーホームズ」の主題歌「雨上がりのミライ」なんて、あのゲームをやった人しか聴くことのない曲にしておくには惜しすぎる名曲だからね。

 

私:そうなんですよね。そして、それぞれの楽曲の盛り上げ方の工夫がすごいんですよね。例えば「ペンギン娘♥はぁと」というアニメの主題歌「恋愛自由少女♀」っていう曲がありますが、あれのセリフでの掛け合いなんかが絶妙なんですよ。

 

妻:それぞれに凝っていてね。キャラソンならではの演出が歌を盛り上げるのよね。

 

私:本当にこのジャンルの神前さんの曲は挙げるときりがないんですが、おかしなぐらいレベルが高いんですよね。この才能がアニソン界にいたのが奇跡ですよね。AKBも神前さんが作曲していればあんなにヒットまで時間がかからなかったと思います。

また、アイドルソングと言う意味では、神前さんはアイドルグループ的な楽曲ばかりではなく、一人で歌う80年台的なアイドルソングの名曲も多数手がけていますよね。

 

妻:それをいうなら何と言ってもアニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」のキャラソン「秋色のアリア」よね。

 

私:あれについては以前も語ったことがありますが、あの劇中でのキャラの熱唱も含めて素晴らしい曲でしたよね。

他にはアニメ「かんなぎ」の主題歌「motto☆派手にね!」なんかもそうですよね。

motto☆派手にね!

motto☆派手にね!

  • 戸松 遥
  • Pop
  • Â¥250

 

妻:そうね。神前さん自身も、自身の音楽的なルーツとして80年台のアイドルソングについて触れているもんね。

 

私:日本の音楽が最もキャッチーだったあの時代の楽曲を、キャラソンという新たな文脈で現代に持ち込んでいるのが神前さんの功績ともいうべきですよね。

 

カッコよさがフィクションと現実の境を超えるガールズロック「God Knows…」

私:次にあげたいのは、クールなガールズロック系の楽曲なんですが、まずは、神前さんのアニソンデビュー作品でもある「涼宮ハルヒの憂鬱」で流れたキャラソン「God Knows…」です。

 

妻:あの神回「ライブアライブ」の劇中歌として衝撃を受けた作品だね。この曲はあのシーンとは切り離せないよね。

 

私:あの文化祭のライブシーンはアニメの演出も含めて素晴らしかったですね。

文化祭に向けて涼宮ハルヒと映画製作を行っていたキョンが、疲れて文化祭のライブ会場である体育館でうとうとしていると、いきなりバニーガールの格好をした涼宮ハルヒがステージに上って歌い始めるんですよね。

 

妻:視聴者としても、完全に主人公のキョン目線で、あの突然さに対する戸惑いからあの場面に入っていくのよね。

 

私:そうですね。「なんで歌っているの?」から始まった戸惑いに対して何の説明もないまま、長門有希のギター演奏の作画がすごいとか、平野綾の歌が上手いとか、圧倒的なパフォーマンスの中で「この曲なんかすごくかっこいい」って確信していくんですよね。

 

妻:劇中で最初戸惑っている観客が次第に熱狂していく様子と、あれを見ているファンの心理が完全にシンクロするのよね。

作詞家の畑亜貴さんが、涼宮ハルヒの中二病的なキャラクターを意識して書いたという歌詞もあの曲にハマっているのよね。

 

私:やはりキャラソンにおけるロックって、基本的にはいい意味での中二病的なカッコよさの象徴だと思うんですが、まさにそれを具現化した場面でしたよね。あのカッコよさにはもうフィクションと現実の境目がないんですよね。

それまであらゆることに超人的なを才能を発揮する涼宮ハルヒっていうのはあくまでもフィクションの世界の存在なんですが、キャラソンという形で示される歌のすごさってリアルなんですよね。

 

妻:あの場面の後、このライブを振り返って涼宮ハルヒがキョンに対して「今自分は何かをやっている気がした」って語るんだけど、あれはアニメを見ていると、劇中の意味を越えて響いてきたよ。

 

私:そうですね。あれはキャラソンというものがアニメ作品において新しい価値を持ったことを象徴したセリフと捉えられますよね。

キャラソンって現実とフィクションの境を超えていくんだっていう衝撃を与えた、まさに神回でしたね。

 

妻:この作品で神前さんが初めてアニソンを手がけたっていうのもすごいよね。

 

私:あの奇跡のような場面がアニソンデビューというのは衝撃ですよね。

 

妻:このジャンルの作品を挙げるなら、やっぱり涼宮ハルヒ作品なら、「Lost my music」とか「Super Driver」なんかよね。

Super Driver

Super Driver

  • 平野 綾
  • Anime
  • Â¥250

 

私:あの頃の平野綾と神前さんのコンビは素晴らしかったですよね。私はこの二人が、日本の音楽シーンを塗り替えるところを夢見ていたんですけどね。

 

妻:「化物語シリーズ」で神原駿河の歌う「ambivalent world」とか、つばさキャットの「sugar sweet nightmare」とかね。

 

私:「ambivalent world」いいですね。つうか、神前駿河が素晴らしすぎます。

 

妻:神前駿河好きだよね…。テレビ番組で以前、神前さんが言っていたのは、化物語で神前駿河のキャラソンを作る時に、スポーツ少女のイメージで行くか、エロでいくか迷ったっていってたんだよね。

 

私:エロバージョンも是非聴いてみたいですね。「花物語」の映像化にあたっては、その路線でのキャラソンをやってくれることを願っていますよ。

 

妻:他には、あとこの分野でいうと、アイドルマスターのキャラソン「空」とか、アニメ「Aチャンネル」の主題歌で河野マリナさんが歌う「Morning Arch」とかなんかかな。

Morning Arch

Morning Arch

  • 河野マリナ
  • Anime
  • Â¥250

 

私:この分野の名曲も上げればきりがないんですよね。

 

電波ソングの王道を示した金字塔「もってけ!セーラーふく」

私:続いては神前さんの電波ソングについて語りたいのですが、やっぱりそれを語るならまず、アニメ「らき☆すた」の主題歌「もってけ!セーラーふく」ですよね。

 

妻:神前さんの名声を不動のものにした作品よね。もう有名になりすぎて、さっきの「God Know…」に続き、今更語るのも憚られるような感じよね

 

私:そうですね。しかし、この曲の凄いところはテクノ系の電波ソングというジャンルで一時代を築いたっていうところですね。

 

妻:たしかに、こういうアップテンポなテクノ系サウンドっていうのは電波ソングのよくあるパターンなんだけど、コアなファンは好む楽曲はありながら、王道といえるほどヒットしたものはなかった気がするね。

 

私:そこが神前さんの凄さだとおもいますね。紛うことなき電波系でありながら、サビとか異常にポップで聴きやすい感じにまとめてくるんですよね。あの卓越したメロディセンスによるテクノとポップスの融合させることによって、この極めて中毒性の高い電波ソングが成り立っているんだと思います。

 

妻:この電波ソングが当時オリコンで2位までいったというのも、このジャンルにおける快挙よね。

 

私:テクノっていうジャンルは、日本で電波ソングとなって変態性を表現した音楽としてキャラソンを彩るために生まれた音楽なんだと思っていますよ。

 

妻:テクノの歴史を知らないのに適当なことを言ってみたね。 

 

私:もともと神前さんはゲームソング出身なのでテクノっぽい音楽の素養のある方ではあるんですよね。

 

妻:あの「ふたりのもじぴったん」を手がけた人でもあるからね。

他にこのジャンルを挙げるなら、化物語のまよいマイマイの「帰り道」とか。「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の「めてお☆いんぱくと」、古くはアイドルマスターの「キラメキラリ」とかも同じジャンルといえるんじゃないかな。 

 

私:最近の曲では、アニメ「波打ち際のむろみさん」の主題歌で上坂すみれさんが歌う「七つの海よりキミの海」ですね。

 

妻:あのロシア民謡を取り入れたアップテンポな電波ソングはすばらしかったね。

 

私:また電波ソングということでいうなら、系統は違いますが、化物語の千石撫子のキャラソン「恋愛サーキュレーション」も外してはいけないですよね。あの撫子ちゃんにラップを歌わせた神前さんのセンスがすごかったですね。

 

妻:あの引っ込み思案キャラに、まさかのラップだからね。しかも、あの冒頭の「せーの」について、ラップに臨む撫子がけなげに自分を鼓舞すべく「撫子がんばる」という気持ちをのせたものだということで、歌詞を付ける前に神前さん自らがデモテープに入れたと言っていたからね。

 

私:卓越したキャラクター理解と、それを常人では思いつかない活用の仕方で音楽にするところが見事すぎますよね。

(後編に続く)