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プロダクトの力でビジネスを推進する

第3回:ノーススターメトリックとは--持続可能で長期的なビジネス成果を定義する先行指標

仁枝かおり (Amplitude Analytics)

2025-01-07 07:00

 本連載では、プロダクトの力を活用してビジネスを推進する方法についてお話ししてきました。第3回では、機能横断的なチームが持続可能で長期的なビジネス成果を定義するための先行指標である「ノーススターメトリック(North Star Metric)」について紹介します。

 ノーススターメトリックは「北極星指標」を意味します。「北極星」がチームの目標と方位を示すのに役立つように、この指標は会社やプロダクトの現状を正確に把握し、次に進むべき方向を明確に示すために作られています。筆者は、PLG(プロダクトレッドグロース)の推進方法に悩んでいるお客さまには、ノーススターメトリックを設定するための「ノーススターフレームワーク(North Star Framework)」を必ず紹介しています。

 日本では多くの企業では、組織のサイロ化が進んでおり、部門や役職の垣根を越えて議論を行う際に、どの部署や誰が全体の調整を行うのかが明確でないことが大きな課題となっています。さらに、旧来型の企業のほとんどには専任のプロダクトチームが存在せず、IT部門やデジタルマーケティングチームでプロダクトのミッションを担い、開発をアウトソースするケースが多く見られます。

 その場合、誰が何をどのようなミッションのもとに行っているかを把握するのが難しくなっています。このような状況では、全体を導く指標として「ノーススターメトリック」が非常に有効です。

ノーススターメトリックとは

 ノーススターメトリックは、プロダクトチームが解決を目指す顧客の課題と、持続可能で長期的なビジネス成果との関係を定義する先行指標であり、単一指標です。

 ノーススターの主要な特性として、「ユーザーがプロダクトから得られる価値を示していること」「プロダクトとマーケティングの影響範囲内であること」、そして「収益の主要な指標の一つであること」が挙げられます。

 ノーススターメトリックは一つに絞ることが重要です。複数設定すると目標がぶれてしまい、どれを最重要課題とすべきが分かりにくくなります。また、ノーススターメトリックは持続可能なビジネス成果と顧客価値の先行指標であるため、「顧客の体験価値」の向上につながる必要があります。体験価値に結びつかないノーススターメトリックを設定しても、長期的な事業成長につなげるのは難しいと考えられます。

NetflixとBurger Kingの成功事例に学ぶノーススターメトリックの導入事例

 ノーススターフレームワークは、特にPLGモデルを採用している企業にとって効果的です。次に、自社のプロダクトに適したノーススターメトリックを設定することで成功を収めたNetflixとBurger Kingの事例を紹介します。

Netflix:適切なノーススターメトリックで顧客維持の促進に成功

 Netflixはもともと、現在のような動画配信サービスではなく、映画ファンにDVDを郵送するレンタルビジネスを運営していました。

 Netflixのプロダクトチームにとって、顧客維持をどう高めるかが大きな課題でした。無料試用期間で、顧客維持の関門とされる最初の1カ月の新規顧客の維持率は88%、つまり12%の顧客が1カ月でサービスの利用を停止していました。

 プロダクト担当者は、維持率は遅行指標であり先行指標ではないこと、チームが直接影響を与えられるノーススターを特定する必要があることを理解し、データと顧客パターンを詳細に分析しました。その結果、複数のDVDをキューに入れて待機している顧客は、より熱心なユーザーであり、退会する可能性がはるかに低いことが分かったのです。

 そこで彼らは、「初回利用時に最低3枚のDVDをキューに追加した顧客の割合」というノーススターメトリックを設定し、この指標の改善に注力しました。その結果、顧客価値と重要なビジネス成果(顧客リテンションやサブスクリプション収益など)が向上しました。

Burger King:デジタルトランザクションの最適化によって顧客価値を向上

 Burger Kingのデジタルチームは、「ユーザー1人当たりのデジタルトランザクション」というノーススターメトリックを設定しました。この指標は、Burger Kingの組織内で「スクワッド」と呼ばれ、「新規ユーザーのアクティベーション」「登録」「クーポン利用頻度と注文頻度」という3つの目標で構成されています(下図参照)。

提供:Amplitude Analytics
提供:Amplitude Analytics

 Burger Kingの各スクワッドは、目標に沿った機能開発に注力し、「ユーザー1人当たりのデジタルトランザクション」というノーススターメトリックに対して目標を設定・追跡しました。例えば、あるチームでは「モバイル注文限定のクーポン」を優先することで、「頻繁な利用」というメトリックにつながる要素を推進しました。この結果、ノーススターメトリックの原則を活用したデータ主導の戦略により、顧客体験の向上と測定可能な成果を実現しました。

 Burger Kingの元技術製品管理責任者であるElie Javice氏は、チーム全体で成長を促進するためにノーススターフレームワークを活用していると語りました。ノーススターフレームワークは、明確で統一された指標を提供することで、チームや個人が目標を異なる解釈をして一貫性のない行動を取るリスクを防ぎます。

 このフレームワークは、「顧客にブランドを愛してもらう」や「売り上げを増加させる」といった抽象的な目標ではなく、具体的で実行可能な優先事項に全員が合意することで、チーム全体が効率的に目標達成に向けて連携するための基盤を築く重要性を強調しています。

 以上の事例からも分かるように、自社に適したノーススターを見つけることは、ビジネスに好循環をもたらすために重要です。では、実際に自社のノーススターメトリックを導き出すには、どのようなステップが必要でしょうか。

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