1960年代、Disneyの伝説的なイマジニアは、薄気味悪い骨だけの魚が海の生き物のように泳ぐ、幽霊の魚の水槽を作りたいと考えていた。そして2024年、Disneyはついにこのビジョンを実現するテクノロジーを手に入れた。
Disneyのようなエンターテインメント企業は、消費者が「これはぜひ体験してみたい」「次の休みはここへ行ってみよう」と思うような没入感の高い体験を作り出す方法を絶えず模索している。そうした機会の1つが、Disneyの最新クルーズ船「Disney Treasure」だ。イマジニアたちによって作り出された「Haunted Mansion Parlor」は不気味な幽霊船という別世界へとゲストを連れて行くバーで、今では、Disneyの人気アトラクション「ホーンテッドマンション」の物語の一部となっている。
Haunted Mansion Parlorは本格的な乗り物ではないものの、細部までこだわって作られている。ゲストが、紫にゆらめく「Ghoulish Delight」といったホーンテッドマンションにちなんだカクテルを楽しんだり、自分の周りで踊る幽霊を眺めたりしている間に、8つの章からなる物語が展開される。Disneyのリゾートパークにあるホーンテッドマンションの乗り物と同じく、マダム・レオタのタロット占いのシーンや、踊る亡霊たちでいっぱいの舞踏室のシーン、幽霊の楽団のファントム・ファイブによる墓地での演奏シーンなども再現されている。
しかし、アトラクションとの違いは、ゲストが幽霊たちと間近で交流したり、隣に座ったりできることだ。360度から見られる幽霊もいるほか、なんと触れることもできる。
同僚のBridget Carey記者は、Disney Treasureが11月にニューヨークに停泊していたとき、Haunted Mansion Parlorを体験することができた。Carey記者はHaunted Mansion Parlorについて、「壁のあらゆる部分に注意を払う必要がある。部屋全体が変化して、物語を語るからだ」と述べている。「しかも、ギミックを間近で観察することもできる。この点は、乗り物とはかなり異なる。特に素晴らしいのは、幽霊の魚が現れたり消えたりする巨大な水槽だ」
それから数週間後、筆者はHaunted Mansion Parlor開発の経緯について、イマジニアのDaniel Joseph氏に話を聞くことができた。同氏は、「マジシャンは決してタネを明かさない」という信念を貫きながらも、Disneyの素晴らしいイリュージョンの数々を作り出すのに使われているテクノロジーや科学、工学について語ってくれた。
Joseph氏は筆者に対して、「私のチームは基本的に、世界各地にあるDisneyのテーマパークでイリュージョンを実現するための新しい手法やテクノロジーを考え出したり、時には発明したりしている」と語った。「今回のバーは、『1960年代にはできなかったことを、全く新しいホーンテッドマンションで実現する方法を見つけ出すチャンスをあげよう』というような、われわれに『ぜひやりたい』と思わせる究極の呼びかけのようなものだった」
Haunted Mansion Parlorの開発は5年におよんだ。ホーンテッドマンションのアトラクション制作に携わったイマジニアのRolly Crump氏が構想した幽霊の魚の水槽は、すでに大きな印象を残している。水槽の中では「幽霊」の魚が泳ぎ回り、おばけのような海の生き物たちが、水槽のガラスに鼻を押し当てて、興味津々でその様子をじっと見つめているゲストたちに立ち向かっている。
この水槽を実現するには、科学と新しいテクノロジーの両方の知識が必要だった。
「開発中は、いろいろな素材を試してみた。中に入っているのは本物の液体だが、屈折率や液体、水と相性が良いものをいくつか試し、光がどのように曲がって、液体の中を通り抜けるのかを確認した」(Joseph氏)
Haunted Mansion Parlorで注目すべきもう1つのポイントは、肖像画のギャラリーだ。このギャラリーでは、ホーンテッドマンションのアトラクション開発に携わった別のイマジニアであるMarc Davis氏のアートスタイルの絵画が飾られている。肖像画は、溶けるような、あるいは絵の具がしたたり落ちるような演出が施され、気味の悪い画像が新たに現れるという仕掛けになっている。最初の「変化する肖像画」は、Disneylandのホーンテッドマンションで初めて登場し、このアトラクション開発に携わったさらに別のイマジニアであるYale Gracey氏によって生み出されたものだ。ホーンテッドマンションには、同氏にちなんで名付けられたキャラクターが登場する。
溶ける「絵画」は、サムスンのスマートテレビ「The Frame」(反射を防止するマットディスプレイを搭載しており、絵画や写真のデジタルコピーの表示にも使用できる)と同様のテクノロジーを使用しているのか、とJoseph氏に尋ねてみた。The Frameは、通常のテレビとして使用していないときは、本物のアート作品が壁に掛かっているように見せられるからだ。同氏は、笑いながら否定し、同じコンセプトではないと答えたが、変化する肖像画を実現するためにどのような先進的テクノロジーを使ったのかは明かさなかった。そして、変化する肖像画は、どこからどう見ても本物の絵画である、と語った。
「ゲストが至近距離まで近づけるので、油絵のような感触と質感を持つものを作りたかった。実際の筆遣いも確認できるし、さまざまな素材の変化も確認できる。キャンバスだけの部分もあれば、つや消しや下塗り剤、絵の具の質感、実際の絵の具がまだ残っている部分もある。ゲストが左右に移動すると、絵画が変化するのを確認できる。天井に照明がある美術館で絵画を鑑賞しているような感覚だ」(Joseph氏)
Disneyの魔法を体験するとき、テクノロジーについて考える人はおそらくほとんどいないだろう。だが、テクノロジーこそが、イマジニアが一番に考えていることだ。Joseph氏は、「CES」のようなテクノロジー見本市に足を運んで、どのようなテクノロジーが開発されているのかを確認し、Disneyでそれを「本来とは別の目的で利用」できる方法はないか、ヒントを得ている、と語った。
「Walt Disney Imagineeringの発明家兼イリュージョン開発者として、消費者向けテクノロジーだけでなく、プロフェッショナル向けテクノロジーについても、最新の動向をしっかりと把握するよう努めている。テクノロジーは目まぐるしく変化するからだ」(Joseph氏)
しかし、ほとんどの企業がCESをテクノロジーと電子機器の最新技術を披露する機会として利用しているのに対し、Joseph氏は、「『これを本来とは別の目的に利用して、そのテクノロジーの元の発明者が考えもしなかったようなことを実行し、Disneyに新たな優位性をもたらすことはできるか。このテクノロジーを見たほかの人が普通はやりそうもないことを、私がこのテクノロジーを使って実行するには、どうすればいいのか』というレンズを通して」CESを見ているそうだ。
ただし、最新かつ最高のテクノロジーを使うことが常に重要なわけではない。Joseph氏によると、Haunted Mansion Parlorのバーの後ろの鏡で繰り広げられるシーンでは、イマジニアたちは、「キャラクターには、超高性能のゲームエンジンやハイテクを使った、オリジナルのアナログのアニマトロニクスに見えるように作ったコンピューター生成画像(CGI)」は使わないことにしたという。
代わりに、Disneyのパークのホーンテッドマンションで使われているオリジナルのオーディオアニマトロニクスの高解像度の高ISO映像が撮影された。
「Haunted Mansion Parlorでは、1969年の美的価値観を当時の感じそのままで取り入れたいと考えた。(そこで、)アトラクションで実際のフィギュアを撮影すればいいのではないか、という考えに至った。それが実現すれば実にクールであり、高品質でありながらもオリジナルの邸宅の物語に根ざしたものになる」(同氏)
イマジニアらが最新のテクノロジーを注視する一方で、手を出そうとしていないのがAIだ。
「われわれはこれまで、手掛けた一切のものについてAIを使ったことはない」と同氏。「今後AIがどうなるかは分からないが、現時点ではまだだ」
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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