米アマゾン・ドットコム(以下、アマゾン社)のCEOであるジェフ・ベゾス氏が、ワシントン・ポスト社より日刊紙「ワシントン・ポスト」を含む新聞事業を2億5000万ドルで買収することが報じられた。ウォーターゲート事件を暴くなど、数々の功績を残してきた老舗新聞も、発行部数を大きく減少させるなど厳しい状況にあったようで、この点に着目したベゾス氏が報道メディアに大きな変革をもたらすべく、買収へと動いたものと思われる。
これによって、「ワシントン・ポスト」紙が、Kindleなどアマゾン社の保有するデジタルメディアへ大きく舵を切られるのかというと、すぐにそうはならない模様である。今回はあくまでベゾス氏個人が買収したのであり、アマゾン社が買収したのではない点が注目である。編集幹部も留任させるとのことで、急激な変化は求めず、徐々に変革させていくことが予想されている。
とはいえ、電子版にいち早く移行し、数多くの有料会員を保有している英国の「Financial Times」やアメリカの「Wall Street Journal」に比べ、2013年6月からようやく電子版有料化を開始したといった具合に大きな遅れをとっていた「ワシントン・ポスト」紙へのテコ入れは、急務にも感じられる。デジタルメディア、もしくはその他のメディア形式にてどのような収益確保施策を展開するのか、どのようにアマゾンが保有する事業と連携してくのか、非常に注目されるところである。あまり大きな成功事例がないジャンルだけに、その指針となれるのか、ベゾス氏の手腕に注目である。
一方で、日本における新聞媒体はどのような状況なのか。弊社がこれまでに行った調査データからその利用状況を見ると、新聞系サービス自体の利用は高く、特にウェブサービスにおいては調査対象者の半数を超えるユーザーが利用していた。ただし、これはあくまで無料サービスに限ったことで、有料サービスとなると事態は一転し、1割強ほどの利用者しかいない状況である。
国内大手新聞のスマートフォンやタブレットへの展開は、各社とも以前より実施していた。テレビCMでも様々なサービスがアピールされており、その認知度や利用率を上げようとした取り組みが感じられる。ただし、そのサービス内容は、デジタルファイル化した紙面を閲覧させるものや、簡易サイトを無料版で提供するもの、宅配新聞を定期購読することを条件としたサービスなど多様化しており、まだ効果的な提供形態を模索中、といった印象を受ける。
またデジタル新聞サービスは、画面サイズとの兼ね合いなどからも、特にタブレットとの相性がよさそうであるが、国内におけるタブレットの保有率はまだまだ低い状況にある。2013年6月に行った弊社の調査によると、タブレット保有率は調査対象者の15%にとどまっており、この数字は欧米各国と比べるとかなり低い。このような端末普及状況も、デジタル新聞の利用拡大を妨げる要因のひとつとして考えられるだろう。
とはいえ、新聞メディアとデジタル媒体との相性は間違いなく良いと思われる。個人ツールであることや、常に持っているという携帯性、いつでもすぐに閲覧できるという即時性、文字のみでなく写真や動画を使った報道が可能となる点など、その利点の多さは多岐に渡る。しかしながら、なかなか従来の形式から移行しないのは、スマートフォンやタブレットなどの利用が過渡期にあること(まだ使い慣れていないこと)や、デジタルサービスに対する課金への抵抗感、さらに無料ポータルサイトなどである程度のニュースを読むことが出来るといった環境があるためであろう。
米国においては、昨年米国内での紙媒体発行をやめたニューズウィークが、米インターネットメディア企業のIBTメディアに買収されることも発表されており、新聞のみにとどまらない形での変革が進んでいる模様である。まずはアマゾンのCEOであるベゾス氏の手腕に注目が集まるが、日本においても、デジタル新聞による大きな収益確保の道が今後切り開かれるのか、その指針となるような施策が登場するのか注目したい。むしろ、日本においてそのような手法が確立し、世界のスタンダードになって欲しいところである。
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