著作権保護期間を死後50年から70年に延長する動きを踏まえて設立された「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」の第2回公開トークが4月12日、都内で開催された。今回のテーマは「『知の創造と共有』から見た著作権保護期間延長問題」。期間延長に慎重な姿勢を見せるフォーラム発起人がパネリストを務め、それぞれの立場から著作権に関する課題について議論した。
「延長ではなく短縮してほしい」という急進的な意見で会場を沸かせたのは、落語家の三遊亭圓窓氏。「自作の創作落語であっても、無料で弟子たちに伝えていくのが落語界のしきたり。急に著作権と言われても戸惑うばかり」と慣習によっては制度が合わない現状があることを説明。また、創作落語のモチーフとして文学作品などを参考にすることがあることに触れ、「知を共有するためには(著作権を)なくした方がいいくらい」とした。
京都造形芸術大学芸術学部教授で現代美術家の椿昇氏は、著作権の存在が「日本の若者のメンタリティ育成を阻害している」と持論を展開。椿氏自身が某国大統領と撮影したようにみえるコラージュ写真を紹介して「こうした写真も、日本の若者は笑うより先に『訴えられませんか?』と心配してしまう。パロディ的風刺活動が許されないと思いこんでしまっている」と著作権の「悪影響」を指摘した。
「漫画好き」の立場から独自の提案を見せたのは早稲田大学大学院GITS客員助教授の境真良氏。コミックマーケット(コミケ)などで取り扱われるパロディ作品を例に挙げ「完全コピーの海賊版や常軌を逸した原作の冒涜が見られなければ(著作権に目くじら立てることなく)認めてあげても良いのでは」と話す。コミケの著作権をフリーにすることで「優れた作家の輩出するほか、世界各国から優れたクリエイターが集まる場になる可能性もある」としてメリットが大きいと述べた。
マイクロソフト最高技術責任補佐の楠正憲氏は「ソフトウェアの世界においては50年にしても70年にしても遠い話」とし、賛成派か慎重派かについての明言を避けた。その上で「ほとんどのコンテンツは5年以内に入手すら困難になるケースが多い。期限延長を論ずるのも重要だが、期限内の流通を活発化することが先決では」と提案した。
コーディネーターを務めた慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ総合研究機構 助教授の金正勲氏をはじめ、パネリスト全員がフォーラム発起人であること、そして積極的な賛成論者がいなかったこともあり、第1回のときような参加者内での対立は見られなかった第2回公開トーク。会場からは「生前に作品が世間から認められず、死後数十年経って高い評価を受けることもある。その際、著作権が保護されていなければプロとして浮かばれない」(写真家)との意見も出たが、その点において議論が盛り上がることはなかった。
著作者遺族の財産保障が大きなポイントでもある著作権延長論の中で、参加者に大きな問いを投げかけたのは圓窓氏。「あるテレビ番組の企画で、藤沢周平氏(故人)の作品を落語に採り入れるという構想を披露したところ、ご遺族から『そんな話、聞いてない』とクレームが来た。単に構想を話しただけでも著作権侵害なのか。藤沢先生は大変な小説家だが、ご遺族が偉いわけではないでしょう」とし、作者自身の意図が必ずしも反映されているとは言えない現状に苦言を呈した。
本文最後の圓窓氏のコメント中にある「テレビ番組」を制作したNHKの担当者より、「藤沢氏の遺族が『落語化の構想が遺族の承諾を得て実際に進んでいる案件のように受け取られるのではないか』と懸念していたのを、NHKが圓窓氏に誤解を与える形で伝えてしまった。NHKが双方に説明し、現在は理解して頂いている。また、圓窓氏からは誤解に基づく発言を撤回したいとのお話があった」と説明がありましたので、追記致します。
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