本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、アクセンチュア 代表取締役社長 CEOの江川昌史氏と、NTTデータグループ 代表取締役社長の佐々木裕氏の「明言」を紹介する。
「私の後継者について現段階で何か決まっていることはない」
(アクセンチュア 代表取締役社長 CEOの江川昌史氏)
アクセンチュア 代表取締役社長 CEOの江川昌史氏
アクセンチュアの江川氏は、同社が先頃開いた「新執行体制のお披露目および生成AIを中心とした注力領域」についての記者説明会の質疑応答で、自身の後継者についてどう考えているかと聞いた筆者の質問に対して上記のように答えた。こうした後継者の話については「決まっていることはない」との発言も現時点での意思および状況を表したものなので、明言として取り上げた。
会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは江川氏の冒頭の発言に注目したい。
筆者が後継者について同氏に質問したのは、社長に就任して10年目を迎えたことと、この会見で新執行体制をお披露目したからだ。新執行体制は、9月に江川氏が米Accentureアジア太平洋地域の共同最高経営責任者(CEO)を兼務することになったのに伴い、日本法人において最高執行責任者(COO)の立花良範氏とテクノロジーコンサルティング本部 統括本部長の土居高廣氏が代表取締役副社長に就任したものだ。
Accentureはグローバルで売上高649億ドル(約10兆円)、社員数77万4000人という世界でも有数規模の企業だ(図1)。
(図1)Accentureの現状(アクセンチュアの会見資料)
その中でも日本法人のアクセンチュアは順調に成長してきた。江川氏はその説明として図2を示し、次のように述べた。
「日本法人は現在、社員数2万7000人を超える規模になった。私が社長に就いたのは2015年9月で、当時の社員数は約5300人だった。そこから9年間で、社員数は約5倍、ビジネスは約6倍に成長した」
(図2)日本法人アクセンチュアの成長の推移(アクセンチュアの会見資料)
図2に示された日本法人の成長ストーリーは、江川氏が社長を務めてきた軌跡であり、功績だ。最近では、その功績に着目したメディアの記事も数々見かけるようになった。
そうした背景もあって、筆者は会見の質疑応答で「後継者についてどう考えているか。ご自身として、そろそろなのか、まだまだなのか、ということも含めてお聞かせいただきたい」と質問した。すると、江川氏は次のように答えた。
「どこかのタイミングでそういう時が来ると思うが、現段階で何か決まっていることはない。早くゆっくり休みたいという気持ちはあるが…」
冒頭の発言は、このコメントから抜粋したものである。この質問に対して、後継者について何らかの中身のある答えが返ってくるとはもとより想定していないが、どのように表現するかを聞きたかったので投げかけてみた。
どこの会社の社長でもオーナーでない限り10年目ともなると、後継者のことは頭の中にあるはずだ。そうした時に質問してみると、何も決まっていなければその通り答えるものの、中には後継者候補を意識して「次期社長へ期待すること」を計算尽くの上で話す社長もいる。ただ、それは日本企業に見られることで、外資系日本法人には制約がある話なのかもしれない。が、江川氏には後継者の想定無しに、機会があれば「マネジメントの真髄」についてぜひ聞いてみたい。