コンテンツにスキップ

GAZOO

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
E-TOYOTAから転送)

GAZOO(ガズー)は、トヨタ自動車が運営するコンシューマー向け情報提供サービス。自動車とITを融合するe-TOYOTA事業のひとつ[1]ポータルサイト「GAZOO.com」(ガズー・ドットコム)にて自動車関連の総合情報や、電子商取引(eコマース)やインターネットコミュニティなどのサービスを提供する。

GAZOO

[編集]

GAZOO発足のきっかけはトヨタ自動車前社長である豊田章男が、業務改善支援室の課長として勤務していた1996年に、有志と共に開発した中古車画像システムUVIS (Used car Visual Information System) である[2][3]。豊田らはトヨタ生産方式 (TPS) による販売物流現場の「改善」に取り組んだが、キャッシュ・フローを高める上で、下取り中古車が売れるまでの日数や中古車展示スペースの限度が課題になっていた。そこで、デジタルカメラで大量の下取り車の画像を撮影し、展示を待たずに店頭で見られるようにした結果、展示スペースはそのままに中古車の販売台数が1.7倍に増加し、再販までのリードタイムは半分に短縮されたという[4]。その後、板金修理情報システムVBS (Virtual Body Shop) や新車情報システムNVIS (New car Visual Information System) 、整備情報システムMVIS (Maintenance Visual Information System) 、下取り査定システムSAGS (Self Appraisal Guide System) 、保険情報システムIVIS (Insurance Visual Information System) などのサービスが追加統合されていく[5]。しかし、当時の社内では「インターネットで車は売れない」という否定的な意見が強く[6]、トヨタブランドを名乗ることができず、サービスの総称は「GAZOO」と命名された。『画像』のローマ字表記「GAZO」をある時誤って「GAZOO」と書いてしまったのがきっかけで[7]、「画(GA)」の「ZOO=動物園」となり、「楽しく親しまれるものに」という意味も込められた[7]

1997年10月、トヨタオート室蘭にて画像情報ネットワークシステム「Gazoo」を初導入[8]。1998年4月より全国の販売店へGazoo端末を展開するとともに、インターネット上に会員制ウェブサイト「GAZOO.com」をオープンし、パソコンからも検索可能とした[3]。同年11月に会員数15万人を突破した[9]

1999年12月にはGAZOO.com内にオンラインモール「GAZOO商店街」をオープンし[3]、「BIKE(オートバイ)」「SHOP(日用雑貨・衣類・家電・食料品)」「MEDIA(CD・DVD・ゲーム)」「TRAVEL(旅行ツアー)」「BOOK(新刊・古本)」「LIFE SERVICE(駐車場・レンタカー・賃貸住宅・国際電話)」などを取り扱うEコマース分野に進出した[10]。1999年末には会員数50万人を突破した[9]

2000年にはGAZOO事業部(現:e-TOYOTA部)とガズーメディアサービス(現:トヨタコネクティッド)を設立。デジキューブと提携し、Gazoo専用端末をベースにしたマルチメディアキオスク端末「E-TOWER[5]」を開発。NTTコミュニケーションズおよびコンビニ5社[11] とイープラットを設立し[12]、日本全国のコンビニ、スーパーマーケット、ガソリンスタンドなどにe-TOWERを展開した。

2002年より車向け情報サービスMONET(モネ)とGAZOOの技術を融合し、カーテレマティクスサービス「G-BOOK」を開始[13]。2006年11月のサイトリニューアルでは地図情報やG-BOOK搭載ナビと連携し、会員発信の地域情報を共有する「G-BLOG」「Gazoo mura」プロジェクトなどのサービスを追加した[14]。2013年5月のリニューアルではマイクロソフトWindows Azureをベースにしたプラットフォームを採用し、SNSとの連携やスマートフォン向けアプリ「GAZOO Drive」の提供を始めた[15]。また、ユーザビリティ改善のため、会員登録をトヨタ系サイト共通のTOYOTA Web Passportに統合した[16]

GAZOO.comは顧客との「コマース・コミュニティ」作りを目的としており[17]、「トヨタの弱点といわれる20-30歳代の若者層(インターネットやコンビニをよく利用する)との関係性を深める」「約7年といわれる乗り換えサイクル中、修理点検以外では来店する機会の少ないユーザーとの接点を広げる」という役割を担っている[18]。トヨタWEBサイト(www.toyota.jp)やトヨタ公式サイト(www.toyota.co.jp)よりも企業イメージは薄く、カーライフに関連する外部配信のニュースを掲載したり、旧車のデータベースや競合他社の歴史を紹介する独自記事を編集している。過去にはインディーズヒップホップグループケツメイシをCMに起用してGAZOO会員限定CD「こっちおいでGAZOO」を販売したり、AV女優紗倉まなに自動車愛好コラムを依頼するなど[19]、世界的大企業としては意外な企画も行っている。インターネット上で展開されるオウンドメディア(企業がつくる情報発信媒体)の先駆けという見方もある[20]

コンテンツ

[編集]

TOYOTA GAZOO Racing

[編集]

トヨタのモータースポーツ総合サイト。”Team GAZOO”と称した社内有志によるレース活動を基点に、モータースポーツを通じて自動車ファンを増やす目的でスタートしたプロジェクト。現在はワークス体制での国際レース活動からローカルの普及活動まで幅広く展開し、市販車のスポーツチューンモデルであるGR(ジーアール)ブランドを発表している。

Gazoo mura

[編集]

インターネットと車を通してマチ(都会)とムラ(地域)の交流を促進し、地域活性化を支援するとともに、カーユーザーに新たな「体験型ドライブ」を提案する企画。日本各地に開設した「ガズームラ」の住人がブログで地元の名所や特産品などの情報を発信し、その記事を読んでドライブに訪れるユーザーに各種の体験交流型プログラムを提供する。各地のムラやトヨタ関連施設では広報誌「GAZOO muraマガジン」を年4回配布する。

2006年12月に3つのムラからスタートし、2011年3月に全国47都道府県の58ムラまで拡大[21]。この時点で「ムラブロガー」は422名、毎月1,600件の記事が発信され、地域への来訪者は6,500組(約20,000人)を超えると推定される[21]

GAZOO SPORTS

[編集]

トヨタ自動車がスポンサードしたり、運営に関わっている企業スポーツに付けられる統一名称であり、総合サイト「GAZOO SPORTS」で情報を発信している。自社に所属する障害者スポーツのアスリートに関する情報も発信していることが特徴。「GAZOO SPORTS」で紹介されているチームおよび個人は以下の通り。

チーム
個人競技選手

脚注

[編集]
  1. ^ e-TOYOTA事業”. 企業情報. トヨタ自動車株式会社 企業公式サイト. 2017年9月23日閲覧。
  2. ^ GRブランド記者発表会(1:55 - 3:20) - TOYOTA GAZOO Racing(2017年9月19日配信)。
  3. ^ a b c e-TOYOTA・GAZOO”. トヨタ自動車75年史. トヨタ自動車. 2017年9月21日閲覧。
  4. ^ "GAZOO.comが目指すもの 「豊田 章男」". GAZOO.com.(2006年10月1日)。
  5. ^ a b e-TOYOTA・GAZOO 補足説明”. トヨタ自動車75年史. トヨタ自動車. 2017年9月21日閲覧。
  6. ^ 稲泉連 (2016年8月16日). “豊田章男ドイツ密着72時間【第2章】「トヨタ」に挑め”. PRESIDENT Online (プレジデント社). http://president.jp/articles/-/19929 2017年11月4日閲覧。 
  7. ^ a b 株式会社デルフィスITワークス(編) 『トヨタとGAZOO-戦略ビジネスモデルのすべて』 中央経済社、2001年、pp.73-74、ISBN 4502357820
  8. ^ 文章で読む75年の歩み 第3部第4章第6節第4項 販売政策”. トヨタ自動車75年史. トヨタ自動車. 2017年9月23日閲覧。
  9. ^ a b 『トヨタとGAZOO-戦略ビジネスモデルのすべて』、pp.80-81。
  10. ^ 『トヨタとGAZOO-戦略ビジネスモデルのすべて』、p.102。
  11. ^ ファミリーマート(名称は「Famiポート」)、サンクスアンドアソシエイツサークルケイ・ジャパンスリーエフミニストップの5社。
  12. ^ “株式会社イープラット設立のお知らせ”. ファミリーマート. (2000年3月30日). http://www.family.co.jp/company/news_releases/2000/20000330_01.html 2017年9月23日閲覧。 
  13. ^ 文章で読む75年の歩み 第3部第4章第8節第3項 ITSへの取り組み”. トヨタ自動車75年史. トヨタ自動車. 2017年9月23日閲覧。
  14. ^ “「クルマ好きが集まる“場”を提供したい」--トヨタ自動車 顧客満足度向上を目指して”. ITPro (日経BP社). (2007年1月22日). https://xtech.nikkei.com/it/article/COLUMN/20070115/258711/ 2017年11月4日閲覧。 
  15. ^ “トヨタ、総合ウェブサイト「GAZOO」一新--「Windows Azure」がベース - (page 2)”. ZDNet Japan (朝日インタラクティブ). (2013年4月26日). https://japan.zdnet.com/article/35031405/2/ 2017年11月4日閲覧。 
  16. ^ “導入事例 トヨタ自動車株式会社”. 日本マイクロソフト. (2013年4月26日). https://www.microsoft.com/ja-jp/casestudies/toyota.aspx 2017年11月4日閲覧。 
  17. ^ 『トヨタとGAZOO-戦略ビジネスモデルのすべて』、p.120。
  18. ^ 丸山弘昭 『トヨタのキャッシュフロー戦略-トヨタ式カネの生み方・使い方の秘密』、中経出版、2004年、pp.94-96、ISBN 9784806119623
  19. ^ “紗倉まなと世界のトヨタが衝撃合体 広告業界も仰天”. 東スポweb (東京スポーツ新聞). (2014年10月14日). https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/96817 2017年10月11日閲覧。 
  20. ^ 藤代裕之 (2015年5月1日). “宣伝か有益な情報か 評価「紙一重」の企業メディア”. 日本経済新聞. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO86243930Y5A420C1000000/ 2017年9月23日閲覧。 
  21. ^ a b トヨタ自動車、Gazoo mura(ガズームラ)を全国都道府県に展開―全国58ムラに拡大―”. TOYOTA Global Newsroom (2011年3月1日). 2020年4月2日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]