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シュウ酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
蓚酸から転送)
シュウ酸
識別情報
CAS登録番号 144-62-7
J-GLOBAL ID 200907079185021489
KEGG C00209
特性
化学式 H2C2O4
C2H2O4
モル質量 90.03 g mol-1(無水和物)
126.07 g mol-1(二水和物)
示性式 (COOH)2
外観 無色結晶
密度 1.90 g cm-3
融点

189.5 ℃(無水和物)(分解)
101.5 ℃(二水和物)

への溶解度 10.2g / 100 cm3 (20 ℃)
酸解離定数 pKa 1.27, 4.27
構造
分子の形 Planar
熱化学
標準生成熱 ΔfHo -821.7 kJ mol-1
標準燃焼熱 ΔcHo -251.1 kJ mol-1
標準モルエントロピー So 115.6 J mol-1K-1
標準定圧モル比熱, Cpo 117 J mol-1K-1
危険性
安全データシート(外部リンク) ICSC 0529
MSDS
NFPA 704
1
3
0
引火点 166 ℃
関連する物質
関連するカルボン酸 ギ酸; マロン酸
関連物質 グリオキサール; グリオキシル酸; グリコール酸; グリコールアルデヒド; エチレングリコール
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

シュウ酸(シュウさん、蓚酸: oxalic acid)は、構造式 HOOC–COOH で表される、もっとも単純なジカルボン酸。二つのカルボキシ基を背中合わせに結合した分子である。IUPAC命名法ではエタン二酸(「二」はカタカナの「ニ」ではなく漢数字の「二」) (ethanedioic acid)。1776年カール・ヴィルヘルム・シェーレカタバミ (oxalis) から初めて単離したことから命名された。

植物に多く含まれ、和名の由来になっている。漢字の「蓚」はタデ科スイバを意味し、また中国語でも植物由来の「草酸」と呼ぶ。

カルシウムイオンと強く結合する性質(劇性)があり、体内に入るとアシドーシスに傾いた血液中でカルシウムと結合して結石などを生じる。このため、毒物及び劇物取締法によって劇物毒物ではない)に指定されている。

還元性があるため、滴定によく使われる。また、染料原料や漂白剤としても用いられる。

製法

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工業的には、木片をアルカリ処理したのち、抽出することで得られる。実験的には、ギ酸ナトリウムを加熱分解して生成するシュウ酸ナトリウムを、水酸化カルシウムによってシュウ酸カルシウムとして単離し、これを硫酸で分解することで得られる。

エチレングリコールおよびグリオキサール二クロム酸カリウムなどで酸化しても生成する。それに関連してこれらの化合物は体中で代謝によりシュウ酸を生成する。

化学的性質

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無水物は常温常圧で無色の固体で、189.5 ℃ で分解し、ギ酸二酸化炭素[1][2][3]を生じる。

硫酸を混合するなど条件を工夫すると先程の二酸化炭素に加え、生じたギ酸が分解され水及び一酸化炭素[2][4]を放出する。

吸湿性を持ち、湿気を含んだ空気中に放置すると二水和物となる。水溶液からも二水和物が析出し、二水和物を五酸化二リンを入れたデシケーター中に入れるか、100 ℃ に加熱することにより結晶水を失い無水物となる。

酸としての性質

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カルボキシ基を持つため水溶液中では電離して2価の酸として作用を示す。弱酸として分類されることが多いが、リン酸などよりも強く酸解離定数スクアリン酸に近い。第一段階の電離度は 0.1 mol dm-3 の水溶液では 0.6 程度とかなり大きい。

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純粋なものが得やすく秤量しやすい固体であるため、分析化学においてシュウ酸は中和滴定の一次標準物質として用いられる。

水溶液中における酸解離に対する熱力学的諸量は以下の通りである[5]

第一解離 -4.27 kJ mol-1 7.24 kJ mol-1 -38.5 J mol-1K-1 -
第二解離 -6.57 kJ-1mol-1 24.35 kJ mol-1 -103.8 J mol-1K-1 -238 J mol-1K-1

還元剤としての性質

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シュウ酸は還元剤としてはたらき、分析化学において酸化還元滴定における一次標準物質としても用いられる。その標準酸化還元電位は以下の通りである。

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酸性水溶液中における過マンガン酸カリウムとの反応は以下のようになる。

シュウ酸イオン

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シュウ酸イオン
シュウ酸イオン

シュウ酸の第一段階解離により生成するシュウ酸水素イオン (hydrogenoxalate, HC2O
4
H(COO)
2
) は1価の陰イオンであり、第二段階解離により生成するシュウ酸イオン (oxalate, C2O2−
4
(COO)2−
2
) は2価の陰イオンである。シュウ酸イオンは平面型で炭素-炭素間は単結合、炭素-酸素間は共鳴し単結合および二重結合の中間的な性格を持つ。

シュウ酸塩

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シュウ酸イオンを含むイオン結晶である正塩、シュウ酸塩 (oxalate) と、シュウ酸水素イオンを含む酸性塩であるシュウ酸水素塩 (hydrogenoxalate) が存在する。正塩はアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、アルミニウム塩および(III)塩は水に可溶性であるが、アルカリ土類金属塩を始めとする多くのものが難溶性である。鉄(III)塩の水溶液は徐々に分解しシュウ酸鉄(II) FeC2O4 を析出し、塩は加熱により爆発的に分解する。

シュウ酸エステル

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シュウ酸とアルコール脱水縮合した構造を持つエステルシュウ酸エステルと呼び、(COOR)2 の構造を持つ。シュウ酸ジメチルは融点 54 ℃ の固体で水に可溶性であるが、シュウ酸ジエチルは融点 -40.6 ℃ の液体で、水に難溶性である。シュウ酸とアルコールの混合物を濃硫酸と加熱することにより合成する。

オキサラト錯体

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シュウ酸イオンは主に二箇所の酸素原子で金属イオンに配位結合を形成し、オキサラト錯体 (oxalato) を形成する。配位子としてのシュウ酸イオン C2O2−
4
は ox と略す。コバルト(III)に配位したものを始めとして多くの遷移金属錯体が存在する。

  • オキサラトテトラアンミンコバルト(III)塩化物 ()
  • トリスオキサラト鉄(III)酸ナトリウム ()
  • オキサリプラチン ()

植物中のシュウ酸

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シュウ酸は、植物に多く含まれる。タデ科(スイバ、ギシギシイタドリなど)、カタバミ科アカザ科アカザホウレンソウなど)の植物には水溶性シュウ酸塩(シュウ酸水素ナトリウムなど)が含まれ、サトイモ科サトイモザゼンソウマムシグサなど)の植物には不溶性シュウ酸塩(シュウ酸カルシウムなど)が含まれる。

ヤマノイモ科の植物の根菜から作るとろろが肌に付くと痒みを生じるのは、シュウ酸カルシウムの針状結晶が肌に刺さって刺激を受けるからである[6]

摂取

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シュウ酸は一部の野菜に含まれている。100g中の含有量は、ホウレンソウで1,339mg、ショウガ239mg、パセリ177mg、水煮タケノコ174mgであった[7]ゴマ種子(多くは種皮部分にシュウ酸カルシウムとして固定)やココアなどは比較的シュウ酸が多い(洗いゴマ種子全C2O41,750mg・遊離C2O4350mg、ココア約700mg)[8][9]。また、にもシュウ酸が含まれており、乾燥茶葉100g中の含有量は、玉露(上級)1,290mg、煎茶(上級)820mg、番茶740mg、ほうじ茶770mgであった[10]。一方、コーヒーのシュウ酸含有量はコーヒー豆100g中10-15mg程度である[11]

過剰なシュウ酸摂取は一部の結石の原因になるとも考えられている。水溶性のシュウ酸の除去には調理で茹でることで減少させることが可能。また、カルシウムを同時に摂取するとシュウ酸がカルシウムと腸内で結合しシュウ酸塩となり体内に吸収されにくくなる。

血液中ではシュウ酸はカルシウムとシュウ酸塩を形成して生体が利用可能なカルシウムの量を減らすことから、クエン酸と同じくカルシウムがないと反応が進まない血液の凝集凝固作用を阻害する。

2015年にはフィリピンマニラミルクティーにシュウ酸が盛られ、店主と客一人が死亡する事件が発生した(2015 Sampaloc milk tea poisoningを参照)。

シュウ酸は少量ではあるが気化、エアロゾル化をする性質があるので、知らないうちに呼吸経由や肌経由で体内にシュウ酸を取り込んでいる場合がある事には注意を要する。

分解

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枯草菌エノキタケコウジカビアスペルギルス属)、シュードモナス属ペニシリウム属ストレプトコッカス・ミュータンス、などはシュウ酸デカルボキシラーゼを持ち、シュウ酸を分解して二酸化炭素とギ酸にする事が出来る[12]

脚注

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  1. ^ https://web.archive.org/web/20160304110641/http://www.ed.kanazawa-u.ac.jp/~kashida/PDF/chemIb/chap7/chemt706.pdf (PDF, 金沢大学(P.186))
  2. ^ a b 佐々木栄一「シュウ酸の硫酸による分解」『工業化学雑誌』第72巻第4号、日本化学会、1969年、847-849頁、doi:10.1246/nikkashi1898.72.4_847ISSN 0023-2734NAID 1300040974222020年8月18日閲覧 
  3. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). 小学館. (2014) 
  4. ^ 化学事典. 旺文社. (2010) 
  5. ^ 田中元治 『基礎化学選書8 酸と塩基』 裳華房、1971年
  6. ^ 桑田寛子、治部祐里、田淵真愉美、寺本あい、渕上倫子「ダイジョの冷凍耐性および針状結晶に関する研究」『日本家政学会研究発表要旨集』67回大会、日本家政学会、東京都文京区、2015年5月24日、69頁、doi:10.11428/kasei.67.0_193NAID 1300054843282021年9月7日閲覧 
  7. ^ 菊永茂司, 高橋正侑、「細管式等速電気泳動法による野菜中のシュウ酸の定量」『日本栄養・食糧学会誌』1985年 38巻 2号 p.123-128 doi:10.4327/jsnfs.38.123
  8. ^ 石井 裕子, 滝山 一善、「ゴマ種子中のカルシウムの分布」『日本調理科学会誌』2000年 33巻 3号 p.372-376 doi:10.11402/cookeryscience1995.33.3_372
  9. ^ 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 し好飲料類/ココア/ピュアココア - 炭水化物有機酸-可食部100g
  10. ^ 堀江秀樹、木幡勝則、「各種緑茶中のシュウ酸含量とその味への寄与」『茶業研究報告』2000年 2000巻 89号 p,23-27, doi:10.5979/cha.2000.89_23
  11. ^ 中林敏郎、「焙煎によるコーヒーの有機酸とpHの変化」『日本食品工業学会誌』 1978年 25巻 3号 p.142-146, doi:10.3136/nskkk1962.25.142
  12. ^ JP2009545622A - 結晶性シュウ酸デカルボキシラーゼおよび使用方法 - Google Patents

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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