江風型駆逐艦
江風型駆逐艦 | |
---|---|
谷風 | |
基本情報 | |
種別 | 一等駆逐艦[1] |
運用者 | 大日本帝国海軍 |
同型艦 | 江風、谷風[1] |
前級 | 磯風型駆逐艦 |
次級 | 峯風型駆逐艦 |
要目 (竣工時計画) | |
基準排水量 | 公表値 1,180トン[2] |
常備排水量 | 1,300トン[3][4] |
全長 | 336 ft 6 in (102.57 m)[3][5] |
水線長 |
326 ft 3 in (99.44 m)[5] または 99.59m[4][注釈 1] |
垂線間長 | 320 ft 0 in (97.54 m)[5] |
最大幅 | 29 ft 0 in (8.84 m)[3] |
深さ | 19 ft 0 in (5.79 m)[5] |
吃水 | 9 ft 3+1⁄2 in (2.83 m)[3][注釈 2] |
ボイラー | ロ号艦本式重油専焼缶4基[6][注釈 3] |
主機 | ブラウン・カーチス式オールギアードタービン[6](高低圧) 2基[4][注釈 4] |
推進器 |
2軸[3] x 400rpm[6] 直径9 ft 6 in (2.90 m)、ピッチ12 ft 1 in (3.68 m)[6][注釈 5] |
出力 | 34,000馬力[3] |
速力 |
37.5ノット[3] 公表値 34ノット[2] |
航続距離 |
3,400カイリ / 14ノット[4][7] または 2,800カイリ / 14ノット[5] |
燃料 | 谷風 重油375トン、江風 同380トン[3][注釈 6] |
乗員 |
竣工時定員 127名[8] 1928年公表値 128名[2] |
兵装 |
45口径三年式12cm単装砲 3門[3][注釈 7] 三年式機砲 2挺[3] 四四式45cm連装水上発射管 3基6門[7][注釈 8] 四四式二号45cm魚雷 12本[5] |
搭載艇 | 4隻[3] |
トンは英トン |
江風型駆逐艦(かわかぜかたくちくかん)は、日本海軍の一等駆逐艦[1]。同型艦2隻[1]。
計画
[編集]谷風は1916年(大正5年)成立した八四艦隊完成案の一部に含まれる大型駆逐艦1隻の予算(2,028,145円)により建造され[9]、江風は大正6年度(1917年)追加予算にある八四艦隊完成案に含まれ、イタリアに譲渡した浦風型江風(初代)の代艦として建造された[10]。江風の予算は初代を解約したことによる返戻金相当額(879,367円)が当てられた[10]。
先行計画の谷風よりも江風の竣工が早く[7]、類別等級表にも江風、谷風の順に記載された[1]結果、本型は江風型とされている[7]。
艦型
[編集]基本計画番号F30[11]。前型である磯風型の設計を大幅に改良した。 機関に初めてオールギアードタービンを採用した艦(後述)で、計画は慎重に進められた[12]。船体形状は水槽試験で数種類を比較検討して決定、船体の重量軽減にも一層注意を払い、浮いた分を機関重量に回した[12]。
4基の缶(ボイラー)を全て重油燃焼とし、日本海軍駆逐艦として初めてオールギアードタービンを搭載したことによって37.5ノットの高速力を実現した[7]。なおタービン形式は天龍型と同じブラウン・カーチス式である[13][注釈 4]。竣工当初はタービン翼の折損事故が頻発したが、造機技術官の努力により逐次解決されていき、本型以降の駆逐艦の主機関は重油専焼缶とギアードタービンの組合せとなった[7]。
主砲は磯風型より1基減の3基だが、装備位置を高くして荒天時の砲戦能力向上を図った[7]。雷装は前型と同一の[注釈 8]、45cm連装3基6門を装備した[7]。探照燈は艦橋上の1基に加え、後部マスト直後にも1基装備し、夜戦能力の強化も図っている[14]。
主砲を艦橋の前後に1門ずつ装備するなど[14]、同時期計画の天龍型軽巡洋艦と艦型が類似し、河合定二造船官の設計と思われる[7]。全体的には雷撃力と速力を重視し、その分砲力が犠牲となった[13]。
同型艦
[編集]江風(かわかぜ/かはかぜ)
[編集]- 1916年(大正5年)8月10日製造訓令[15]、1917年(大正6年)2月15日横須賀海軍工廠で起工[16]、同年10月10日午後2時30分進水[17]、1918年(大正7年)11月11日竣工[18]。全力公試では計画値を上回る40,000馬力、39ノット強を記録した[7]。1934年(昭和9年)4月1日除籍[19]。
谷風(たにかぜ)
[編集]- 1916年5月12日製造訓令[20]、1917年9月20日舞鶴海軍工廠で起工[21]、1918年7月20日午前10時35分進水[22]、1919年(大正8年)1月30日竣工[23]。1935年(昭和10年)4月1日除籍[24]。呉及びその周辺で防波堤として使用[25]、戦後解体[26]。
駆逐隊の変遷
[編集]江風型は2隻で打ち切りとなったため、江風型のみの2隻編成で駆逐隊を編成した。
第三駆逐隊→第十四駆逐隊
[編集]大正8年2月1日、横須賀鎮守府籍の江風・谷風で編成[27]。同日、神風型駆逐艦からなる先代が第六駆逐隊にスライドしたことを受けて、三代目の第三駆逐隊となった。大正8年11月1日に呉鎮守府に転籍[28]、大正7年11月2日に神風型からなる先代が横須賀に転出して第九駆逐隊に改名して以来の二代目第十四駆逐隊となった。大正9年12月25日、樅型の菊・葵を編入し[29]、異例の2等級2種からなる混成駆逐隊となった。両者の性能に大きな差があることから、艦隊への編入は、第一艦隊第一水雷戦隊への1年間にとどまり、その後は要港部部隊に派遣され沿岸警備に従事する。昭和14年12月10日、菊・葵・萩の哨戒艇改造により解隊された。所属部隊と所属駆逐艦の変遷は以下のとおり。各艦の艦歴は各艦の項目を参照。
- 1919年(大正8年)2月1日:江風、谷風で編成[27]。第二艦隊第二水雷戦隊
- 1919年(大正8年)11月1日:呉鎮守府に転籍、第十四駆逐隊に改称[28]、第二艦隊第二水雷戦隊[30]。
- 1920年(大正9年)12月25日:新造した菊、葵を編入[29]。
- 1921年(大正10年)12月1日:呉鎮守府予備艦。
- 1923年(大正12年)12月1日:第一艦隊第一水雷戦隊[31]。
- 1924年(大正13年)12月1日:呉鎮守府予備艦。
- 1925年(大正14年)12月1日:馬公要港部に派遣[32]。
- 1928年(昭和3年)12月10日:呉鎮守府予備艦。
- 1930年(昭和5年)12月1日:舞鶴要港部に派遣[33]。
- 1931年(昭和6年)12月1日:江風、谷風は呉鎮守府部隊に転出。第十六駆逐隊より夕顔を編入[34]。
- 1935年(昭和10年)11月15日:夕顔は呉鎮守府部隊に転出。第十五駆逐隊より萩を編入[35]。以後、舞鶴要港部・呉鎮守府部隊として沿岸警備に従事。
- 1939年(昭和14年)12月10日 解隊。菊・葵・萩は哨戒艇改造に着手。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ #日本駆逐艦史1992p.54、#日本駆逐艦史2012p.62では、全長99.6mとなっている。
- ^ #日本海軍艦船名考pp.219,221では平均吃水2.73mとなっている。
- ^ #海軍造船技術概要(1987)上巻p.388では専焼3基、混焼1基としている。
- ^ a b #日本駆逐艦史1992p.54の要目欄では、江風をパーソンズ式、谷風をブラウン・カーチス式としている。同書同頁の本文、#日本駆逐艦史2012p.62では、2隻ともブラウン・カーチス式としている。
- ^ #海軍造船技術概要(1987)下巻p.1695では、直径2.683m、ピッチ3.683mとなっている。
- ^ #海軍造船技術概要(1987)上巻p.388では重油100トン、石炭300トンとなっている
- ^ #帝国海軍機関史1975下巻p.559(四六九頁)では4門となっているが間違い。
- ^ a b 江風型はこれまで53.3センチ魚雷を初装備したとされてきたが、中川務の考証により45センチ魚雷を装備していたことが判明した。『日本駆逐艦史』世界の艦船1月号増刊、海人社、2012年12月、p.63
出典
[編集]- ^ a b c d e #沿革8(1971)pp.88-92『大正十五年十一月二十九日(内令二三八) 艦艇類別等級別表ノ通定ム(別表省略)』| 驅逐艦 | 一等 | 江風型 | 江風、谷風 |
- ^ a b c #沿革11-2(1972)pp.1068-1069、昭和3年2月14日(内令43)、艦船要目公表範囲。
- ^ a b c d e f g h i j k #戦史叢書31海軍軍戦備1付表第一その二「大正九年三月調艦艇要目等一覧表 その二 駆逐艦」
- ^ a b c d #昭和造船史1pp.788-789、附表第2 艦艇要目表
- ^ a b c d e f #海軍造船技術概要(1987)上巻p.388
- ^ a b c d #帝国海軍機関史1975別冊表21、『(第一九表)』
- ^ a b c d e f g h i j #日本駆逐艦史2012p.62
- ^ #沿革10-1(1972)pp.570-571『大正六年十二月二十八日(内令三二三) 海軍定員令中左ノ通改正セラル 驅逐艦定員表其二ヲ附表ノ通改ム』將校、機關將校8人、特務士官、准士官3人、下士33人、卒83人。同書p.576『大正七年七月二十日(内令二三五) 海軍定員令中左ノ通改正セラル 驅逐艦定員表其二中一等驅逐艦ノ欄内「江風」ノ下ニ「、谷風」ヲ加フ』
- ^ #戦史叢書31海軍軍戦備1p.247
- ^ a b #戦史叢書31海軍軍戦備1p.250
- ^ #日本駆逐艦物語p.284
- ^ a b #日本近世造船史大正(1973)p.72
- ^ a b #日本駆逐艦史1992p.54
- ^ a b #日本駆逐艦史2012p.63
- ^ #T7公文備考20/駆逐艦浦風、江風、製造(2)画像28-29、官房機密第1034号
- ^ #T7公文備考20/駆逐艦浦風、江風、製造(2)画像44、横廠機密工第97号の6
- ^ #T7公文備考20/駆逐艦浦風、江風、製造(2)画像46、『江風午後二時三十分無事進水セリ 十月十日 横須賀工廠長』
- ^ #T7公文備考20/駆逐艦浦風、江風、製造(2)画像67、江風機密第51号
- ^ #S9恩給叙勲調査(下)/除籍艦艇/駆逐艦(1)画像11
- ^ #T8公文備考18/駆逐艦谷風製造一件画像2-3、官房機密第630号
- ^ #T8公文備考18/駆逐艦谷風製造一件画像15、舞工機密第73号の15、大正6年9月20日『谷風起工ノ件 驅逐艦谷風本日起工 右報告ス(終)』
- ^ #T8公文備考18/駆逐艦谷風製造一件画像17、電報『駆逐艦谷風本日前十時三五分無事進水結了 舞鎮長官』
- ^ #T7公文備考20/駆逐艦浦風、江風、製造(2)画像63、大正8年1月30日電報『谷風本日引渡ヲ結了(了)』
- ^ #S9恩給叙勲調査(下)/除籍艦艇/駆逐艦(1)画像8
- ^ #終戦時の日本海軍艦艇p.192
- ^ 中川努「主要艦艇艦歴表」#日本海軍全艦艇史資料篇p.12
- ^ a b #沿革4-1(1971)pp.77、内令17
- ^ a b #沿革4-1(1971)pp.77、内令347
- ^ a b #沿革4-1(1971)pp.80、内令516
- ^ #沿革4-1(1971)pp.32、内令348
- ^ #沿革4-1(1971)pp.38、内令421
- ^ #沿革4-1(1971)pp.86、内令319
- ^ #沿革4-1(1971)pp.95、内令229
- ^ #沿革4-1(1971)pp.96、内令215
- ^ #沿革4-1(1971)pp.102、内令459
参考文献
[編集]- 浅井将秀/編『日本海軍艦船名考』東京水交社、1928年12月。
- 海軍省/編『海軍制度沿革 巻四の1』 明治百年史叢書 第175巻、原書房、1971年11月(原著1939年)。
- 海軍省/編『海軍制度沿革 巻八』 明治百年史叢書 第180巻、原書房、1971年10月(原著1941年)。
- 海軍省/編『海軍制度沿革 巻十の1』 明治百年史叢書 第182巻、原書房、1972年4月(原著1940年)。
- 海軍省/編『海軍制度沿革 巻十一の2』 明治百年史叢書 第185巻、原書房、1972年5月(原著1941年)。
- 海軍歴史保存会『日本海軍史』第7巻、第一法規出版、1995年。
- 片桐大自『聯合艦隊軍艦銘銘伝』光人社、1993年 ISBN 4-7698-0386-9
- 『日本駆逐艦史』 世界の艦船 1992年7月号増刊 第453集(増刊第34集)、海人社、1992年。ISBN 4-905551-41-2。
- 『世界の艦船増刊第107集 日本駆逐艦史』、海人社、2012年12月。
- 造船協会『日本近世造船史 大正時代』 明治百年史叢書、原書房、1973年(原著1935年12月)。
- (社)日本造船学会/編『昭和造船史(第1巻)』 明治百年史叢書 第207巻(第3版)、原書房、1981年(原著1977年10月)。ISBN 4-562-00302-2。
- 日本舶用機関史編集委員会/編『帝国海軍機関史』 明治百年史叢書 第245巻、原書房、1975年11月。
- COMPILED BY SHIZUO FUKUI (1947-04-25). JAPANESE NAVAL VESSELS AT THE END OF WAR. ADMINISTRATIVE DIVISION, SECOND DEMOBILIZATION BUREAU(福井静夫/まとめ『終戦時の日本海軍艦艇』第二復員局、1947年04月25日)
- 福井静夫『日本駆逐艦物語』 福井静夫著作集第5巻、光人社、1993年。ISBN 4-7698-0611-6。
- 福井静夫『写真 日本海軍全艦艇史』ベストセラーズ、1994年。ISBN 4-584-17054-1。
- 防衛庁防衛研修所戦史室『海軍軍戦備<1> 昭和十六年十一月まで』 戦史叢書第31巻、朝雲新聞社、1969年。
- 堀元美『駆逐艦 その技術的回顧』(原書房、1969年)ISBN 4-562-01873-9
- 牧野茂、福井静夫 編『海軍造船技術概要』今日の話題社、1987年5月。ISBN 4-87565-205-4。
- 『艦船模型スペシャル No.17 日本海軍 駆逐艦の系譜 1』モデルアート社、2005年。
- アジア歴史資料センター(公式)(防衛省防衛研究所)
- 『大正7年 公文備考 巻20 艦船1/駆逐艦浦風、江風、製造(2)』。Ref.C08021104500。
- 『大正8年 公文備考 巻18 艦船1/駆逐艦谷風製造一件』。Ref.C08021311200。
- 『恩給叙勲年加算調査 下巻 除籍艦艇 船舶及特務艇 昭和9年12月31日/除籍艦艇/駆逐艦(1)』。Ref.C14010005900。