機動救難士
機動救難士(きどうきゅうなんし、英語: Mobile rescue technician)は、海上保安官の配置の一つ。航空基地に配置され、海上で急病人や海難事故が発生した際にヘリコプターで出動し、救助活動を行う。「空飛ぶ海猿」と俗称されるほか[1]、当初の案では「ミニ特救隊」と称されていた[2]。
来歴
[編集]海難及び人身事故の約95%が沿岸20海里以内(約37km)の海域で発生しているため、海上保安庁では沿岸海難等の対応を重視していた[3]。海難事故では常に傷病者の移送が課題となり、特に傷病が重篤な場合は一刻も早い収容が必要となることから、洋上救急では救難ヘリコプターが重用されてきた[4]。
ヘリコプターによって要救助者をピックアップする場合、潜水士が船上あるいは洋上に降下してこれを支援するが、この際にホイストクレーンを使わないリペリング降下を行えるのは、特殊救難隊員など一部の要員に限られていた。このことから、リペリング降下などの高度な救難技術を備えた専門家チームを航空基地に配置することで、救助体制の強化・迅速化を図ることになった。これが機動救難士である[4]。
編制
[編集]潜水士として十分な経験を積んだ者から、所定の部内研修を経て選別されており、特殊救難隊経験者も多い。また隊員の約半数は救急救命士の資格を有しており[5]、必要であれば機内で処置を行うこともできる[4]。なお特救隊の潜水深度は60メートルとされているが[6]、機動救難士はヘリコプターで現場に到着し、空から潜水を行うことから、潜水深度は8メートルに制限されている[2]。
当初計画では5ヶ所に配備される予定であり[2]、まず2002年に福岡航空基地に配置された[7]。また2003年4月には、函館・美保・鹿児島の各航空基地に「救護士」が発足していたが[8]、2004年4月には、これらも機動救難士へと発展的に改組された[3]。2019年現在では9ヶ所の航空基地に9名ずつが配置されており[5]、羽田特殊救難基地(特殊救難隊)とあわせて、日本各地の沿岸におおむねヘリコプターで1時間以内に駆けつけられる体制が整備された[9]。
しかし道東・道北地域はこの「1時間出動圏」から外れており、2022年の知床遊覧船沈没事故で救助の遅れにつながった可能性が指摘されたことから[1][10]、2023年度に釧路航空基地にも配置された[11]。
配置基地
[編集]- 函館航空基地(第一管区):救護士より改組
- 釧路航空基地(第一管区):2023年4月、9名を配置
- 仙台航空基地(第二管区):2011年10月1日配置
- 関西空港海上保安航空基地(第五管区):2005年配置[4]
- 北九州航空基地(第七管区):福岡航空基地時代の2002年10月1日、全国に先駆けてまず4名を配置[12]
- 美保航空基地(第八管区):救護士より改組、2008年7月には4名を追加[13]
- 新潟航空基地(第九管区):2010年10月1日、8名を配置[14][15]
- 鹿児島航空基地(第十管区):救護士より改組
- 那覇航空基地(第十一管区):2009年10月、8名を配置[16]
- 石垣航空基地(第十一管区):2015年5月15日配置
出典
[編集]- ^ a b 「<デジタル発>「空飛ぶ海猿」へ過酷訓練 函館の新人機動救難士3人の半年を追う㊤」『北海道新聞』2022年11月9日。
- ^ a b c 佐藤 2019, ファイル5 「正義仁愛」の深い意味を知れ.
- ^ a b 海上保安庁 2004.
- ^ a b c d 立花 2009, p. 45.
- ^ a b 海上保安庁 2019.
- ^ 海上保安庁メディカルコントロール協議会での取組み 海上保安庁救急救命士について 海上保安庁救急救命士の技能
- ^ 海上保安庁「特集2 福岡航空基地の機動救難士」『海上保安レポート2003』2003年 。
- ^ “航空基地(函館、美保、鹿児島)に救護士が発足” (2003年3月19日). 2005年1月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年7月18日閲覧。
- ^ 米田 2019.
- ^ 札幌テレビ放送, STV. “【きょう出港】沈没した観光船の捜索「飽和潜水」19日午後スタート 作業船が北海道・網走出港へ | 北海道 | ニュース | STV札幌テレビ”. STV札幌テレビ 放送(北海道). 2022年5月19日閲覧。
- ^ “救助空白海域に機動救難士 海保、知床事故で体制強化”. 産経新聞. (2023年4月10日) 2023年4月11日閲覧。
- ^ 「Column Vol.06 機動救難士出動出動1,500件! 第七管区海上保安本部北九州航空基地」『海上保安レポート2021』2021年 。
- ^ “機動救難士新たに4人 八管美保倍増、24時間態勢に”. 日本海新聞. (2008年7月29日)
- ^ 『第九管区海上保安本部 十大ニュース』第九管区海上保安本部、2010年 。2019年7月18日閲覧。
- ^ 「機動救難士8人を配備へ」『新潟日報』2010年9月18日 。
- ^ 海上保安庁「特集2 救難現場の最前線」『海上保安レポート2010』2010年 。
参考文献
[編集]- 海上保安庁「1 海難救助」『海上保安レポート2004』2004年 。
- 海上保安庁「海上保安官になるには」『世界の艦船』第902号、海人社、2019年6月、172-179頁、NAID 40021918394。
- 佐藤雄二『波濤を越えて 叩き上げ海保長官の重大事案ファイル』文藝春秋、2019年。ISBN 978-4163910567。
- 立花敬忠「海上保安庁のすべて」『世界の艦船』第714号、海人社、2009年11月。 NAID 40016812500。
- 米田堅持「海上保安庁のスペシャリストたち」『世界の艦船』第902号、海人社、160-167頁、2019年6月。 NAID 40021918394。