対合
対合(たいごう[1]、ついごう[1][2]、involution)は、自分自身をその逆として持つ写像である。
これは空間上の変換であって、二回繰り返すと恒等変換となる(元に戻る)という性質
を持つものと言ってもよい。ただし、それ自身が恒等変換となるものは通常は除いて考える。またこれは変換群に属する位数 2 の元
を指すと言っても同じことであり、それを理由に一般の群(抽象群)においても位数 2 の元を対合と呼ぶことがある。
例
[編集]- 平面上の任意の点 x を、ある直線 l に関して対称な点 φ(x) に写す操作(鏡映)φ は、明らかに φ(φ(x)) = x を満たすから φ は平面上の対合である。
- 集合 A に対し、普遍集合 S において A の補集合 Ac をとる操作は、(Ac)c = A を満たすから、この変換は S の冪集合における対合である。
- 複素数 z に対しその共役複素数 z* をとる複素数体 C 上の変換は、 (z*)* = z を満たすから対合である。
対合つき代数系
[編集]群 G が与えられ、その上の写像 I: G → G が対合であって、次の関係
を満たすとき、対合 I は G の群構造と両立するといい、組 (G, I) を対合付きの群と呼ぶ。群の逆元をとる演算
は g, h を G の元とすれば
を満たすので、これは群が標準的に持つ群構造と両立する対合である。
また、環 R とその上に対合 "*": R → R で
を満たすものの組 (R, "*") として対合付き環の概念が得られる。もっと一般に必ずしも可換でないものを含む二項演算(と単項演算、0項演算)のみからなる代数系 A にその上の対合 σ が存在するとき、σ が A からその逆代数系 Aopp への準同型となる(つまり、二項演算の順番を逆にし、単項、0 項演算と可換となる)とき、代数系 A の構造と対合 σ は両立するといい、組 (A, σ) を対合つき代数系と呼ぶ。たとえば、n 次全行列環 Mn(K) (K は可換環あるいは体)に、行列を転置させる写像 t を考えたとき、x, y を行列、λ をスカラーとすると
が満たされるので、(Mn(K), t) は対合つき多元環である。
体 L が対合となる自己同型 σ を持つとき、σ の固定体を F とすると、拡大 L/F は二次拡大である。
対合で生成される群
[編集]鏡映群、コクセター群は、(位数 2 の元という意味での)対合からなる生成系を持つ群である。
脚注
[編集]- ^ a b 青本和彦ほか『岩波数学入門辞典』岩波書店、2005年、362頁。ISBN 978-4-00-080209-3。
- ^ 日本数学会編集『岩波数学辞典』(第4版)岩波書店、2007年、1841頁。ISBN 978-4-00-080309-0。