メンヒル
メンヒル(menhir)は、ヨーロッパ先史時代に立てられた、単一で直立した巨石記念物(モノリスまたはメガリス)。
「メンヒル」という単語は、フランス語経由で19世紀の考古学者に採用されたもので、ブルトン語の「長い石」を意味する単語に基づいている(現代のウェールズ語では「長い石」は「maen hir」)。現代のブルトン語では、「peulvan」と呼ばれる。
特徴
[編集]現存するもっとも大きなメンヒルは、ブルターニュのロクマリアケール(en:Locmariaquer)にある「Grand Menhir Brisé」(大きな壊れたメンヒル)で、かつて約20メートルの高さがあった。壊れて4つの部分が横たわっているが、約330トンあったと見られており、機械によらずに人間が動かしたもっとも重い物体と考えられる。ほかの地域では、巨石はキリスト教徒によって組織的に倒された。北ドイツでは、かつて多くのメンヒルが立っていたが、今日ではほとんど1つも残っていない。メンヒルの列石も知られており、もっとも有名なのはブルターニュのカルナック列石(en:Carnac stones)で、3000以上のメンヒルが3つのグループに並べられており、数キロメートルにわたって整列している。
フランスで2番目にメンヒルが集中しているのは、花崗岩の多いセヴェンヌ(en:Cévennes)にある石灰岩の高原に立つ「Cham des Bondons」である。現在はセヴェンヌ国立公園の中で保護されている。遊牧が確立された時期から、この場所は計画的な焼畑や放牧によって開けた土地にされてきた[1]。一組の球形の丘のように、この場所の自然は女性的な形を思わせる。
メンヒルの形は、頂点に向かって四角く先細りになる傾向がある。一般的には荒く刻まれた形である。垂直方向に溝があるものもあり、カルナックではそうした溝は部分的に平らにされている。
スカンディナヴィアでは、メンヒルは先ローマ鉄器時代やその後にも立てられ続けた(en:Menhir (Iron Age)を参照)。通常は死者の灰の上に立てられている。鉄器時代のメンヒルは、孤立して立てられることも、ストーン・シップやストーン・サークルの形で立てられることもある。1世紀には、その伝統はおそらくゴート人によって北ポーランドにもたらされた(en:Wielbark Cultureを参照)。
スノッリ・ストゥルルソンの『ノルウェー諸王列伝』(en:Heimskringla、例:ヴァンランド)によれば、メンヒルは偉人の記念のために立てられた。巨石を立てる伝統は、en:Björketorp Runestoneなどを中間として、ルーンストーンに発展した[2]。
メンヒルがどのような文化的意味のもとに立てられたのかは、実際的には解明されていない。
メンヒルの建立者は近年までメンヒルはビーカー人(en:Beaker culture)(紀元前3000年代後期の後期新石器時代や初期青銅器時代にヨーロッパに定住した人々)と結び付けられていた。しかし、ブルターニュのメガリスの時代に関する近年の調査では、起源はもっと古く、6000年から7000年前に遡る仮説が示されている。ヨーロッパにおけるメンヒルの分布は、ハプログループR1b (Y染色体)の高頻度域と見事に一致しており、このグループに属す人々がメンヒルを建てたものと考えられる。このグループは新石器時代にヨーロッパに農耕をもたらした集団と考えられ、ハプログループR1b (Y染色体)は現在はバスク人に90%以上に見られる[1]ことから、彼らはバスク語に近い言語(バスコン語)を話していたことが想定される。
代表的なメンヒル
[編集]イングランド
[編集]- en:Drizzlecombe、ダートムア
- Beardown Man、ダートムア
- Laughter Tor、en:Two Bridgesの近く、ダートムア
フランス
[編集]- カルナック列石(en:Carnac stones)、ブルターニュ
- en:Filitosa、コルシカ島
- en:Saint-Sulpice-de-Faleyrens、ジロンド県 [3] (高さ5メートル、幅3メートル、Pierrefite港の近く)
- Cham des Bondons、ロゼール県
ドイツ
[編集]- Gollenstein、ブリースカステル(高さ6.6メートル)
- Spellenstein、サンクト・インクバート(高さ5メートル)
ポルトガル
[編集]スカンディナヴィア
[編集]- en:Björketorp Runestone、ルーン文字の彫られたメンヒル
日本
[編集]- 鍋山メンヒル 岐阜県恵那市長島町
- 藤のメンヒル(五本の立石) 岐阜県恵那市武並町藤
- 見戸のメンヒル 岐阜県恵那市笠置町姫栗 笠置神社遥拝所跡
- 姫栗のメンヒル(市文化財) 岐阜県恵那市笠置町姫栗中切地区 (旧姫栗小学校)
- 堀田遺跡のメンヒル 岐阜県恵那市笠置町姫栗中切地区 (旧姫栗小学校)
- 鶯谷のメンヒル 岐阜県恵那市笠置町姫栗毛呂窪地内 松王寺跡
- 蛇石のメンヒル 岐阜県恵那市笠置町姫栗毛呂窪地内
- 山上家祖霊社 霊夢岩 岐阜県恵那市岩村町山上
- 立石山メンヒル 愛媛県越智郡上島町生名
- 妙見メンヒル 愛媛県越智郡上島町岩城
- 高山メンヒル 愛媛県大洲市高山甲
- 姫山メンヒル 大分県別府市大字野田
- クルソン峡のメンヒル 宮崎県えびの市大河平 クルソン峡
その他
[編集]メンヒルは、擬似考古学の思索の題材として好まれている。 メンヒルは先史時代の文化とよく結び付けられるので、漫画『アステリックス』で顕著に取り上げられている。 芸術や文学におけるメンヒルについては、パウル・ツェラーンのドイツ語詩「メンヒル」を参照(英訳はJonathan Skolnik, "Kaddish for Spinoza: Memory and Modernity in Heine and Celan" NEW GERMAN CRITIQUE 77 (1999))。
脚注
[編集]関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Stone Pages - 529の考古学の遺跡のフォト・エッセイ
- The Menhirs of Dartmoor - ダートムアのメンヒル
- New Theory - Henges - Engineering in Prehistory - 先史時代の技術についての新理論