公益法人

一般社団法人または一般財団法人の中でも、日本の行政庁からの「公益」認定を受けることで、更なる税制優遇措置を受けられ、社会的信用も高められた法人
収益事業から転送)

日本法における公益法人(こうえきほうじん)とは、公益目的とした公益事業を行う法人。一般には公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益法人認定法)により公益性の事業を実施しているかの審査認定を受ける(公益法人認定法2条3号)。

概要

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公益法人は公益法人認定法により公益性の認定を受けた一般社団法人一般財団法人をいう(公益法人認定法2条3号)。公益性の認定を受けた一般社団法人公益社団法人(公益法人認定法2条1号)、公益性の認定を受けた一般財団法人公益財団法人という(公益法人認定法2条2号)。

従来、日本では1898年(明治31年)に施行された民法によって公益法人など民間の非営利部門での公益的活動を担う法主体が規律されていた[1]。改正前の民法では法人を公益法人(改正前民法34条)と営利法人(改正前民法35条)に分け、営利法人については主に商法(のちに会社法)で規律され許可を要することなく設立できるとされていたのに対し、公益法人については民法で設立に主務官庁の許可が必要とされていた[2]。改正前の民法34条の規定では「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得」とされ、具体的には、この規定に直接基づき設立を許可された社団法人及び財団法人を公益法人と呼んだ[3]。また後記の広義の公益法人(特別法公益法人を含む。)と区別する際には、民法に直接基づくため民法法人とも呼ばれた[4]

しかし、民法で採用されていた許可主義は法人設立が簡便ではないことや、公益性の判断基準も不明確であったことから、社会的需要に適合しなくなっていると指摘されていた[1]

公益法人制度改革により、2008年(平成20年)12月1日に公益法人制度改革3法(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)が施行された。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般社団・財団法人法)が施行されたことにより、公益目的でなくても、非営利目的(構成員に対し利益の分配を行わない)であれば、簡易に準則主義に従い一般社団法人や一般財団法人を設立できるようになった。さらに一般社団・財団法人法により設立された一般社団法人または一般財団法人のうち、公益法人認定法による公益性の認定を受けたものは、それぞれ公益社団法人または公益財団法人として税制上の優遇措置を受けることができる。公益法人は公益社団法人と公益財団法人をまとめて言う場合の呼称である。

2008年(平成20年)12月1日から2013年(平成25年)11月30日の5年間は新制度への移行のための暫定期間として、明治以来2008年(平成20年)11月30日までに公益法人として設立された法人も特例民法法人と呼ばれる形態が認められていた。

なお「公益法人等」と「特例民法法人」の検索は「国・都道府県公式公益法人行政総合情報サイト」である「公益法人information」から行える[5]

これらの他に、制度改革以前も以後も、広義のものとして、公益法人として主要なものとして各種の特別法[6]に基づき設立された社会福祉法人学校法人医療法人宗教法人特定非営利活動法人(通称NPO法人)、更生保護事業法による更生保護法人などの法人も公益法人と呼ばれている[7]

この項目では特別の断りのない限り公益法人認定法における「公益法人」について記述する。

公益性の認定

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従来の公益法人との違い

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新制度においては、従来の主務官庁制による許可制とは異なり、新たに公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(公益法人認定法)に基づき公益法人の所管が内閣総理大臣又は都道府県知事に振り分けられる。実際の審査と監督の権限は、民間人合議制機関が有し、国では内閣府公益認定等委員会がこれに当たる。都道府県における合議制機関の名称はさまざまである[8]。振り分けの基準は、2つ以上の都道府県(海外を含む)において公益目的事業を行う旨を定款で定めているか事務所を設置している、政令で定められる国の事務または事業と密接な関連を有する公益目的事業を行うのいずれかの場合は、内閣総理大臣の所管となる。それ以外は、事務所の所在する都道府県の知事(都道府県)の所管となる[9]

公益法人認定法は公益法人の公益目的事業の定義を、学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表23種の事業各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものとしている[10]

認定の条件はいくつかあり、主たる目的とするこれらの公益目的事業の費用の比率を50%以上とし、その事業を行うに必要な経理的基礎および技術能力を持つこと、理事社員から雇用される者に至るすべての関係者に特別の利益を与えないことなどがある[11]。 なお、公益目的事業については、公益法人認定法第5条第6号及び第14条の定め(公益目的事業の収入)から、「赤字事業でなければ認定されない」という誤解があるが、必ず(経常収益)-(経常費用)がマイナスでなければならないということはなく、赤字事業でなければ認定されないという認識は誤りである[12]

税制に関しては、従前の公益法人は単純な収益事業課税のもとにあったが、新制度における公益法人は収益事業課税であるものの、公益目的事業として認定された事業は収益事業から除外される[13]。法人内部でのいわゆるみなし寄附についても、従前は上限が(税法上の)収益事業の利益の20%までであったが、新公益法人については(認定法上の)収益事業等(公益目的事業でない事業の意)に分類される(税法上の)収益事業の利益の100%まで可能となった。また、寄附者についても、従前の公益法人のうち特定公益増進法人に認定されたものは約900しかなかったが、新制度においては公益認定を受けたものはすべて自動的に特定公益増進法人となるため、すべての公益法人についてその公益目的事業に対して寄附を行う個人所得税に関し控除が受けられ、法人法人税に関し一般の寄附金とは別枠で損金の額に算入することができる[14]

公益法人の活動の状況、行政がとった措置などや調査とその分析結果をデータベースとして整備し、国民にインターネットその他のe-Japanなどと呼ばれる高度情報通信ネットワークを通じて迅速に情報を提供するに必要な措置を講ずるものとする[15]

公益法人とその他の一般社団法人・一般財団法人の違い

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公益法人(公益社団法人および公益財団法人)とその他の一般社団法人・一般財団法人の違いにはつぎのような事が挙げられる。

準則主義に従い登記により法人格を取得した一般社団法人または一般財団法人のうち、公益目的事業の費用の比率が全体の50%以上である等の認定要件を満たした法人が認定申請すれば、所管の国や都道府県の民間人合議制機関の答申を経て行政庁により認定され公益社団法人または公益財団法人となることができる。公益法人(公益社団法人・公益財団法人)となっても一般法人(一般社団法人・一般財団法人)に係わる法令遵守が変わるものではなく、法人格としては一般社団法人・一般財団法人であり、一般社団・財団法人法の他に公益法人認定法に従うこととなる。公益法人に移行する法人がある一方、公益認定を受けず一般社団法人・一般財団法人に移行するものを通常の一般社団法人・一般財団法人ということがある[16]

通常の一般社団法人・一般財団法人のうち、法人税法上の「非営利型法人」の要件を満たす法人は収益事業課税、それ以外の法人は全所得課税であるのに対して、公益法人は収益事業課税で、なおかつ外形的に収益事業に該当していても公益目的事業として認定されたものは収益事業から除外され非課税となる。寄附者については、公益法人が公益目的事業に対して受けた寄附については、寄附を行った個人や法人には税制上の優遇措置(「従来の公益法人との違い」の項参照)が講じられる[17][18]。また、「みなし寄附金」と呼ばれる、その公益法人内部で「収益事業等」の利益の100%まで非課税の公益目的事業へ寄附をする処理ができる。これに対して、通常の一般社団法人や一般財団法人には「みなし寄附」は認められず、また寄附を行う個人や法人への税制優遇措置もない[19]。金融資産の配当や利子等については、公益社団法人・公益財団法人には所得税道府県民税利子割の源泉徴収はない(ただし公社債の利子については、所定の申告書を取扱金融機関へ提出した場合に限り非課税となる。所得税法11条3項、租税特別措置法第3条の3第6項を参照)が、通常の一般社団法人・一般財団法人については、非営利型の場合もそれ以外の場合も源泉徴収の対象となる。

諸国の制度

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省関連の主な公益法人等

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各省や、各省の独立行政法人国立研究開発法人が提携する主な公益法人、特例民法法人、公益社団・公益財団法人。複数の省や機関に跨って所管されている公益法人も存在する[20]

以下は、地方自治体が所管する公益法人は含まない(警察庁自動車安全運転センター等)[21]

内閣府

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内閣府が直接所管する公益法人は3,653法人存在する(2025年5月現在)。独立行政法人等を通して協力する法人は以下のとおり。

北方領土問題対策協会

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日本医療研究開発機構

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総務省

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情報通信研究機構

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郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構

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法務省

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外務省

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国際交流基金

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国際協力機構

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財務省

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造幣局

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国立印刷局

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文部科学省

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国立青少年教育振興機構

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大学入試センター

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国立高等専門学校機構

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科学技術振興機構

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日本学術振興会

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量子科学技術研究開発機構

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物質・材料研究機構

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防災科学技術研究所

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海洋研究開発機構

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日本原子力研究開発機構

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日本スポーツ振興センター

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国立美術館

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日本芸術文化振興会

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国立文化財機構

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厚生労働省

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労働者健康安全機構

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高齢・障害・求職者雇用支援機構

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福祉医療機構

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国立重度知的障害者総合施設のぞみの園

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労働政策研究・研修機構

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国立病院機構

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地域医療機能推進機構

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国立がん研究センター

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国立循環器病研究センター

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国立国際医療研究センター

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国立成育医療研究センター

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年金積立金管理運用

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農林水産省

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農林水産消費安全技術センター

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家畜改良センター

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農畜産業振興機構

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農業者年金基金

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農業・食品産業技術総合研究機構

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森林研究・整備機構

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水産研究・教育機構

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経済産業省

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情報処理推進機構

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日本貿易振興機構

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エネルギー・金属鉱物資源機構

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新エネルギー・産業技術総合開発機構

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製品評価技術基盤機構

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産業技術総合研究所

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中小企業基盤整備機構

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国土交通省

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土木研究所

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建築研究所

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海上・港湾・航空技術研究所 

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鉄道建設・運輸施設整備支援機構

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水資源機構

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都市再生機構

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日本高速道路保有・債務返済機構

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住宅金融支援機構

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環境省

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環境再生保全機構

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国立環境研究所

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関連項目

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脚注

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  1. ^ a b 河上正二『民法総則講義』日本評論社、132頁。ISBN 978-4535515963 
  2. ^ 星野英一『民法概論 I 改訂版』良書普及会、123頁。ISBN 978-4656300110 
  3. ^ たとえば竹内昭夫松尾浩也塩野宏ほか編著『新法律学辞典第3版』有斐閣、1989年(平成元年)、389頁。
  4. ^ (財)公益法人協会編『公益法人用語辞典』(財)公益法人協会、2002年(平成14年)、243頁
  5. ^ 公益法人information
  6. ^ これらの特別法にとっての根拠法及び一般法は、制度改革以前は改正前民法33条・34条民法第三十三・三十四条 (PDF, 34.1 KB) - 民法(明治二十九年法律第八十九号)(抄)、
    第三十三条 法人ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ依ルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス
    第三十四条 祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得(行政改革推進本部事務局)(PDFファイル)閲覧日:2010年(平成22年)1月8日、改革以後は民法33条「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。2  学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。」。
  7. ^ 前掲『新法律学辞典第3版』389頁、金子宏・新堂幸司・平井宜夫ほか編著『法律学小辞典第4版補訂版』有斐閣、2008年(平成20年)、331頁
  8. ^ 認定法 第32、33、50条
  9. ^ 認定法 2,3条
  10. ^ 認定法 第2条第4号
  11. ^ 認定法 第5条
  12. ^ 2010年4月28日付「委員会だより(その3)」(内閣府公益認定等委員会) (PDF, 34.1 KB) 10頁 - 11頁
  13. ^ 法人税法施行令第5条第2項
  14. ^ 所得税法78条及び所得税法施行令217条、法人税法第37条及び法人税法施行令第77条
  15. ^ 認定法 第57条
  16. ^ 整備法 第45条ほか
  17. ^ 認定法 58条
  18. ^ 公益法人などに対する課税に関する資料財務省
  19. ^ みなし寄附金(公益法人協会)
  20. ^ 公益法人「独立行政法人から公益法人への契約以外の支出についての情報公開」(エクセルファイル)。2012年。
  21. ^ 「公益法人インフォメーション

参考文献

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外部リンク

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