チアミン: thiamin, thiamine)は、ビタミンB1: vitamin B1)とも呼ばれ、ビタミンの中で水溶性ビタミンに分類される生理活性物質である。栄養素のひとつ。このほか、サイアミンアノイリンとも呼ばれる。

チアミンの構造式と球棒モデル
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
発音 [ˈθ.əmɪn] THY-ə-min
Drugs.com monograph
ライセンス US Daily Med:リンク
胎児危険度分類
法的規制
薬物動態データ
生物学的利用能3.7% 〜 5.3%
データベースID
CAS番号
70-16-6  チェック
59-43-8 (塩化物) チェック
ATCコード A11DA01 (WHO)
PubChem CID: 1130
DrugBank DB00152
ChemSpider 1098
UNII X66NSO3N35
KEGG C00378
ChEBI CHEBI:18385
ChEMBL CHEMBL1547
別名 ビタミンB1、アノイリン
化学的データ
化学式C12H17N4OS+
分子量265.35
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糖質および分岐脂肪酸の代謝に用いられ、不足すると脚気神経炎などの症状を生じる。酵母豚肉胚芽類に多く含有される。

補酵素形はチアミン二リン酸(TPP)。

構造

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分子式は C12H17N4OS である。

2-メチル-4-アミノ-5-ヒドロキシメチルピリミジン(ピリミジン部、OPM、構造式左半分の六角形の部分)と4-アミノ-5-ヒドロキシエチルチアゾール(チアゾール部、Th、構造式右半分の五角形の部分)がメチレン基を介して結合したもの。生体内では、各組織においてチアミンピロリン酸(チアミン二リン酸)に変換される。チアミン二リン酸は、生体内において各種酵素の補酵素として働く。チアミン三リン酸は、シナプス小胞において、アセチルコリンの遊離を促進し、神経伝達に関与するといわれている。

生理活性

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血中濃度は通常68.1±32.1 (ng/mL)で40 (ng/mL)を切ると脚気などの欠乏症状があらわれるといわれている。リン酸基は構造式右側のヒドロキシ基(OH基)に結合する。結合するリン酸の長さにより、チアミン一リン酸(TMP, thiamine monophosphate)、チアミン二リン酸(TPP, thiamine pyrophosphate)、チアミン三リン酸(TTP, thiamine triphosphate)がある。

物性

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  • 分子量 300.81
  • 水溶性。加熱により可溶性が増す。
  • アルコールに不溶。
  • 無色。
  • アルカリ条件下で容易に分解。
  • 弱酸性条件下で安定。

CAS番号 59-43-8

多く含む食品

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酵母は、アルコール発酵によりピルビン酸を脱炭酸してエタノールを生成することができ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼEC 1.2.4.1)の補因子であるチアミンを自ら合成できるとともに、培地に存在するチアミンを吸収し、細胞内に集積することができる。種によっては、その乾燥重量の10%近くのチアミンを集積できる[2]酒粕にも酵母が含まれているため、チアミンが含まれている。

摂取時の注意

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1日の所要量は成人男性で1.1 ミリグラム、成人女性で0.8 ミリグラム。加えて、摂取エネルギー1,000 キロカロリーあたり0.35 ミリグラムが必要とされる。

食品中に含まれる総量のうち、約半分から1/3は調理中に失われる。水溶性であり、食材を水にさらすと流失してしまう。煮汁やゆで汁を利用すれば、食材から流失した分を取り戻すことができる。米を磨ぐ際は手早く少ない水量で行うか、無洗米麦飯玄米あるいは強化米を利用すると良い。

アルカリ条件下において分解が進むので、重曹を調理に利用すると分解されてしまう。ニンニクに含まれるアリシンと結合し、アリチアミンとなると吸収効率が向上する(詳細はニンニクを参照のこと)。

強度の労作や、消耗性疾患の罹患により要求量がかなり上昇する。一方で、脂質の摂取により、要求量が少し減少する。体内に貯蔵できる量は少なく、吸収効率は高くない。進行時の脚気など、胃腸が弱っているときにはさらに吸収効率が下がる可能性がある。こういった場合は、高吸収率のビタミンB1誘導体を摂取すると良い。過剰に摂取しても、速やかに排泄されるため問題はない。

欠乏症

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過剰症

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長期間の多量投与における障害は、現在のところ知られていない。過剰に摂取されたチアミンは速やかに尿中に排泄される。

生化学

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各組織においてチアミンピロホスホキナーゼ(EC 2.7.6.2)の作用によりチアミン二リン酸に変換される。

EC 2.7.6.2 ATP + thiamine = AMP + thiamine diphosphate

チアミン二リン酸はチアミン二リン酸キナーゼ(EC 2.7.4.15)の作用によりチアミン三リン酸へと変換される。

EC 2.7.4.15 ATP + thiamine diphosphate = ADP + thiamine triphosphate

生理活性

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チアミン二リン酸は、生体内において各種酵素の補酵素として、アルデヒド基転移の運搬体として働く。

例えば、TCAサイクルの入り口にある重要な反応に関わる。TCAサイクルは、細胞において糖質を代謝し、生体内でのエネルギー貯蔵形といわれるATPを合成する経路である。解糖系で生じたピルビン酸を脱炭酸してアセチルCoAに変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(EC 1.2.4.1、EC 1.8.1.4、EC 2.3.1.12三酵素の複合体)の反応に関与する。

pyruvate + CoA + NAD+ = CO2 + acetyl-CoA + NADH + H+

EC 1.2.4.1 pyruvate + [dihydrolipoyllysine-residue acetyltransferase] lipoyllysine = [dihydrolipoyllysine-residue acetyltransferase] S-acetyldihydrolipoyllysine + CO2
EC 1.8.1.4 protein N6-(dihydrolipoyl)lysine + NAD+ = protein N6-(lipoyl)lysine + NADH + H+
EC 2.3.1.12 CoA + enzyme N6-(S-acetyldihydrolipoyl)lysine = acetyl-CoA + enzyme N6-(dihydrolipoyl)lysine

EC 1.2.4.1の触媒する反応のうち、ピルビン酸 (CH3COCOOH) からの二酸化炭素 (CO2) の引き抜き(脱炭酸反応)において、補酵素として重要な働きを示す。

脂質の摂取によりチアミンの要求量が減少するが、これは、脂質のβ酸化によりアセチルCoAが合成され、上述の反応を迂回してTCAサイクルに供給されるため、結果として上述の反応の回転速度が落ちるためによる。同様に強い労作や消耗性疾患により要求量が上昇するのは、体内でのATP消費の上昇に反応してTCAサイクルの回転が早まるためによる。

ペントースリン酸経路においてもトランスケトラーゼによるNADPHや、デオキシリボースリボースといった五炭糖の産生に関与している。また、アルコールの分解にも関与している。抗神経炎作用が知られているが、作用機序などは不明である。

研究

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日本薬理学会学会誌においてニコチン拮抗作用が報告されている[4][5][6][7][8][9][10]。人体を対象とした実験では、多量投与によって喫煙時の一般症状(顔面蒼白、悪心、嘔吐、振戦、呼吸促迫、心悸亢進等)が著しく軽減したという報告がある[11]

脚注

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  1. ^ American Society of Health-System Pharmacists. “Thiamine Hydrochloride”. Drugsite Trust (Drugs.com). April 17, 2018閲覧。
  2. ^ 岩島昭夫、酵母によるビタミンB1の集積『化学と生物』 Vol.27 (1989) No.12 P779-786, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.27.779
  3. ^ 咲間裕之, 金晶惠, 市川康広 ほか、ビタミンB1 欠乏により著明な肺高血圧を来した1 例 『日本小児循環器学会雑誌』 Vol.29 (2013) No.6 p.352-356, doi:10.9794/jspccs.29.352
  4. ^ 山本巌; 岩田平太郎; 田守靖男; 平山雅美「ビタミンB1のニコチン拮抗作用について 第1報」『日本薬理学雑誌』第52巻、第3号、日本薬理学会、1956年。doi:10.1254/fpj.52.429 
  5. ^ 山本巌; 岩田平太郎; 田守靖男; 平山雅美「ビタミンB1のニコチン拮抗作用について 第2報」『日本薬理学雑誌』第53巻、第2号、日本薬理学会、1957年。doi:10.1254/fpj.53.307 
  6. ^ 田守靖男「ThiamineのNicotine拮抗作用に関する研究」『日本薬理学雑誌』第54巻、第3号、日本薬理学会、1958年。doi:10.1254/fpj.54.571 
  7. ^ 山本巖; 猪木令三; 溝口幸二; 辻本明「Nicotineに関する研究 Pyruvate酸化におけるNicotineとThiamineの関係」『日本薬理学雑誌』第58巻、第2号、日本薬理学会、1962年。doi:10.1254/fpj.58.120 
  8. ^ 大鳥喜平「Nicotineに関する研究 Nicotineによる致死並びに痙攣に対する拮抗物質について」『日本薬理学雑誌』第60巻、第6号、日本薬理学会、1964年。doi:10.1254/fpj.60.573 
  9. ^ 岩田平太郎; 井上章「モルモット心房標本におけるNicotineとThiamineならびにその誘導体の拮抗作用について」『日本薬理学雑誌』第64巻、第2号、日本薬理学会、1968年。doi:10.1254/fpj.64.46 
  10. ^ 岩田平太郎; 井上章「神経機能におけるThiamineの役割」『日本薬理学雑誌』第68巻、第1号、日本薬理学会、3頁、1972年。doi:10.1254/fpj.68.1 
  11. ^ 田守靖男「ThiamineのNicotine拮抗作用に関する研究」『日本薬理学雑誌』第54巻、第3号、日本薬理学会、578頁、1958年。doi:10.1254/fpj.54.571 

関連項目

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外部リンク

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