自習室

こもります

大学の研究室で、ラボ全体で使うつもりで有料のウェブサービスを契約するのがなかなか難しい

序文

とあるラボの立ち上げ期にがっつりかかわらせていただき、ちょっとしたシステムアドミンみたいなことをずーっとやっています。

とても特殊な経験をたくさんさせてもらったので、誰の役に立つかはわからないけど気が向いたときにメモとして残しておきたいと思っています。

  • G Suite for Education はラボ単位でも申し込めて、とてもとても良いよ、って話
  • GitHub Education もラボ単位で申し込めて、とてもても良いよ、って話
  • Slack はすげー学割が利くし、最近検索が少しずつ改善してきているので、有料プラン申し込もうぜって話(今日の話と少し関わりがある)
  • esa.io は教育機関で申請すると無料で使えるぞ、って話
  • 大学が包括契約している様々なソフトを見逃すな!って話(c.f. UTokyo MATLAB Campus-Wide License)

などなど。けど、良い話より難しい話の方が、結論にたどり着くまでのいろいろが「知見」って感じなので、今回はその中から一つ、どうしてもWikiを無料にしたかった話をメモしておきたいと思います。

本文

何の話?→ ラボ Wiki の話。

研究室生活と研究活動に関するノウハウを集めるナレッジベースを作ろうと、1年半あまり試行錯誤をして、結局今は esa.io にたどり着いています。そこまでは…

  • scrapbox
  • Google Docs にたくさんファイルを作る
  • 巨大な Google Sites の構築を試みる

と、主に3ステップを経て、いや、これじゃいかんと思っていわゆる普通に使える wiki 的な物を探して (とても色んな判断があって) esa.io を使っています。使い始めてから半年ほど経っていますが、学生さん他ちょいちょい記事を足したり修正してくれていて回っている気がします。

これは話の結論でもあるのですが、無料であること と、自サバ管理をしないこと が最優先事項でした。この記事はもしかすると esa の中の人にも読まれてしまうかも知れないので若干心苦しいのですが、無料であることがとてもとてもとても大事だったのです。それ以外の純粋な「研究室ナレッジベースのサービス選択」については、ここでは割愛します。本記事の趣旨は「大学でサブスクリプションの有料プラン契約厳しぃ…」ってことです。

自サバ管理をしないこと

理系の研究室には、1人や2人たとえその研究室がそっち系では無かったとしても、ウェブサービスの構築に詳しい人が居たりします。私は社会人博士としてラボに来ていて、業務で GitLab を立てたり、プロジェクト用に Wiki を運用したりしてたので少々出来るようになってしまっていたのですが、そのときの経験から、ラボでは自サバでのサービス運用はしたくないと決めていました。理由は以下の通り

  1. 大学研究室での活動の本分は研究である
  2. 大学研究室の構成員は会社とは比べものにならないくらい高速に入れ替わる
  3. 大学研究室のハードウェアは、本当に予想外の理由で止められたり壊れたりする

もちろん一番の理由は1ですが、2と3については、ラボに来てからそれはもう思い知らされました。(この記事では割愛)

また、3だけはハードウェア的な意味でもオンプレミスを意味していますが、たとえAWSとかさくらのVPSでやろうとも、1, 2に関しては変わりません。

無料であること

私個人としては、良いもの、クリエイティビティや品質、生活の質の向上をもたらすサービスには対価を支払っていきたいと考えています。(大事)

しかし、大学の経費精算の融通の利かなさ と、人の出入の不確定さ がここに立ちはだかります。

年度末にクレカは使えない件

ウェブサービスの多くはクレジットカード払いだと思います。それ自体は問題無いです。大学は「見積・納品・請求」書3点セットで公費による「後払い」が基本なのですが、(昔はどうだったかわかりませんが少なくとも私の居る研究室では)教授名義のコーポレートカードで研究にかかわる買い物をさせていただくことがあります。

問題は、年度末にクレジットカードを使うことを極端に嫌がられると言うか、実質禁止であることです。公費のほとんどは年度毎にしめますので、「使ったのが3月だけどカードの引き落としは4月」みたいなのは許されないわけです。ウェブサービスが、利用状況で変動して毎月引き落としをするスタイルだと、これが問題になります。3月だけ支払えなくなってしまうのです。

人の出入が不確定な件

これはもしかすると弊研究室固有の問題かも知れませんが、インターンやアルバイト・客員の研究員を多数・随時受け入れているため、 いつからいつまで、ラボのメンバーが何人居る というのが確定せず常に変動します。 たとえば、いまわれわれのラボの Slack には 60余名のメンバーがいますが(強制参加のチャネルのメンバー数)、正式に所属のある人は、先生達 + いつもいる研究員+ 事務系職員 + 学生 で 40名程度のはずです。 Slack は非アクティブなユーザには課金されませんが、すべてのサービスでそうと言う訳ではありません。

大学の経費生産的には、極力「これにいくらかかる」というのが前もってわかっているのが望ましいです。

さてここで、Slackは変動するのに有料でやってるんでしょ?という件が出てきます。これについては答えは明確で、Slackくらい利用者側(我々)が価値を明確にわかっているならゴリ押す です。Slackはそれに加えて、学割が強力に効いて、案外めちゃくちゃ高くはならないことと、年払いに対応していること、が敷居を下げてくれています。

我々は、どのWikiが良いのか探索し、ラボとの相性が良いのかも模索しつつ、ソフトランディングさせていく必要がありました。ラボに合わないと感じたら途中で切り替える可能性もあったので、突然大きな支払をするのも気が引けました。

有料だと、んー、この人はもう不要かな?などと管理者が気を利かせてメンバー管理する必要が出てきます。管理者がラボの構成員全体に確実に目が行き届いているとは限りませんので、これは結構な負担となります。無料だと、とりあえず使いそうな人全員ユーザとしてぶち込んでおく、が可能なので、この辺の負担が減ります(その代わりセキュリティ面のリスクはあがるのですが…)

無料だとすべてが解決する(残念なことに!)

というわけで、非常に心苦しいのですが、無料であることは(その導入の手続や、支払の手間なども総合的に見ると)極めて重要ということになります。

Qiita Team と Notion は傍から見ていてとても良さそうでしたが、無料で導入できるサービスと比較すると、二の足を踏んでしまいました。

ここまで書いておいて改めて強調しますが、良いものにはお金を払うべきだし、大学の研究室もそれが完全に不可能なわけではありません。(大学の会計に詳しい人は、上の記事を見て2,3個抜け道を思いついたかと思います)しかし、導入と維持の楽さ を考えて、無料の物をえらんで「しまって」います。そしてこの選択の最大の問題は、 esa.io さんも別に慈善事業として通常無料でやっているわけでは無く、アカデミックプランとして特別に割引をしてくださっている状態なので、経営には少なからず影響を与えているでしょうし、いつまでこの状態が続くかも我々はわかりません。

結文

冒頭にも書きましたが、 esa.io は充分に使いやすいナレッジベースで、ラボでしっかり使われています。大変助かっています。大学の会計の融通のきかなさは「なんとも言えないけどつれぇ」って感じです。メモは以上です。