こんにちは
ハーグ協定のジュネーブ改正協定ですが、正式にはこのような名前です。
意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(1999年アクト)
(GENEVA ACT OF THE HAGUE AGREEMENT CONCERNING THEINTERNATIONAL REGISTRATION OF INDUSTRIAL DESIGNS)
長いので本記事ではジュネーブ改正協定とだけ呼びます。
国際意匠といっても、そもそも意匠の制度は国によりかなり違います。実体審査がない国もあります。ジュネーブ改正協定により国際意匠の出願手続の共通化をめざしています。手続の簡素化、共通化という点では特許のおけるPCT条約のような位置づけです。
全文は以下にあります。
【意匠の国際出願】ジュネーブ改正協定及び関係規則 | 経済産業省 特許庁
ハーグ協定のジュネーブ改正協定は勉強しようにも本もなかなか手に入らないのですが実務者向けテキストのスライドはもくまとまったいい資料です。
意匠の国際登録制度(ハーグ制度)について[出願実務](令和6年度実務者向けテキスト) | 経済産業省 特許庁
ちなみに意匠の実体審査をする国の特許庁をハーグ協定のジュネーブ改正協定では審査官庁と呼びます。すべての指定官庁が審査官庁とはならない点にご注意ください。
ジュネーブ改正協定の注意点
- 指定国はデフォルトでは全指定でない(つまり個別に国を指定する)ので、出願時に指定国を出願人が自分で選ばないといけない。
- 指定国は事後指定はできない。(PCT条約でももできないといえばそうなのですけど、もともとが全指定ですから減らす方ですね)
- 選んだ指定国により出願に要求されるものが違う。(米国では意匠にクレームが必要)
- 言語は英語、フランス語、スペイン語(たとえ日本の特許庁経由でも日本語はなし)
- 日本国特許庁を受理官庁にすることもできるが、意匠のジュネーブ改正協定では国際事務局(WIPO)に直接出願するほうが主流。
- 方式審査は各国の受理官庁ではなく、国際事務局の担当
- 実体審査はPCT同様に指定官庁の担当。ただし実体審査をしない国もある。
- 手数料はスイスフラン
- 移転等の手続きは国際事務局に対して行い、国際原簿に登録される。
手続のフローと条文を確認していきましょう。
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/document/chizai_setumeikai_jitsumu/19_text.pdf
このフローだと日本国特許庁は紙の出願に限り、電子出願は直接、国際委事務局に提出となります。実際のところ99%は電子出願だそうです。
国際出願
ジュネーブ改正協定 第三条 国際出願をする資格
締約国である国の国民若しくは締約国である政府間機関の構成国の国民である者又は締約国の領域に住所、常居所若しくは現実かつ真正の工業上若しくは商業上の営業所を有する者は、国際出願をする資格を有する。
--------------- ジュネーブ改正協定 第三条 引用ここまで ------------
国際登録
不備がないかぎり国際出願日が国際登録日とされます。
登録といっても意匠権の設定登録というわけではありません。
単に出願を受け付けたということです。
ジュネーブ改正協定 第八条 不備の補正
(1) [国際出願の審査]国際事務局は、国際出願の受理の時に当該国際出願がこの改正協定及び規則の要件を満たしていないと認める場合には、出願人に対し所定の期間内に必要な補正をするよう求める。
(2) [補正されない不備]
(a) 国際出願は、出願人が所定の期間内に(1)に規定する求めに応じない場合には、(b)の規定が適用される場合を除くほか、放棄されたものとみなす。
(b) 第五条(2)の規定に関連する不備又は締約国が規則に従って事務局長に通告した特別の要件に関連する不備がある場合において、出願人が所定の期間内に(1)に規定する求めに応じないときは、国際出願は、それらの要素又は要件を要求した締約国の指定を含まないものとみなす。
--------------- ジュネーブ改正協定 第八条 引用ここまで ------------
国際登録の効果
ジュネーブ改正協定 第十四条 国際登録の効果
(1) [適用される法令に基づく出願の効果] 国際登録は、国際登録の日から、指定締約国において、当該指定締約国の法令に基づく意匠の保護の付与のための正規の出願と少なくとも同一の効果を有する。
(2) [適用される法令に基づく保護の付与の効果]
(a) 国際登録は、第十二条の規定に従いその官庁が拒絶を通報していない指定締約国において、遅くとも拒絶を通報するために当該指定締約国に認められている期間の満了の日から、又は当該指定締約国が規則に基づいて宣言を行った場合には遅くとも当該宣言において特定された時から、当該指定締約国の法令に基づく意匠の保護の付与と同一の効果を有する。
(b) 国際登録は、指定締約国の官庁が拒絶を通報し、その後当該拒絶の一部又は全部について取り下げた場合には、当該指定締約国において、当該拒絶が取り下げられた範囲については、遅くとも当該拒絶が取り下げられた日から、当該指定締約国の法令に基づく意匠の保護の付与と同一の効果を有する。
(c) この(2)の規定により国際登録に与えられる効果は、登録の対象である一又は二以上の意匠であって、指定官庁が国際事務局から受理し、又は該当する場合には当該指定官庁における手続によって修正されたものについて適用する。
(3) [出願人の締約国の指定の効果に関する宣言]
a) その官庁が審査官庁である締約国は、宣言により、事務局長に対し、自国が出願人の締約国である場合には、国際登録における自国の指定が効果を有しない旨を通告することができる。
(b) 国際事務局は、(a)に規定する宣言を行った締約国が出願人の締約国及び指定締約国の双方として国際出願に表示されている場合には、当該指定締約国の指定を考慮しない。
--------------- ジュネーブ改正協定 第十四条 引用ここまで ------------
国際公表と公表の延期
公表は12か月後(指定国によっては6月など期間は違う)ですが、出願人の指定で公表を遅らせることができます。
また遅らせた後でも、公表を早める(つまり延期をやめる)ことができます。
ジュネーブ改正協定 第十一条 公表の延期
(1) [公表の延期に関する締約国の法令]
(a) 締約国は、自国の法令が意匠の公表の延期について所定の期間よりも短い期間を規定している場合には、宣言により、認められる延期の期間を事務局長に通告する。
(b) 締約国は、自国の法令が意匠の公表の延期について規定していない場合には、宣言によりその事実を事務局長に通告する。
(2) [公表の延期]国際出願が公表の延期の請求を含む場合には、当該公表は、次の時に行う。
(i) 国際出願において指定されたいずれの締約国も(1)の規定に基づく宣言を行っていない場合には、所定の期間の満了の時
(ii) 国際出願において指定された締約国のいずれかが(1)(a)の規定に基づく宣言を行っている場合には、当該宣言において通告された期間の満了の時又は、当該宣言を行った指定された締約国が二以上あるときは、当該締約国の宣言において通告された最も短い期間の満了の時
(3) [適用される法令により延期することができない場合の延期の請求の取扱い]
公表の延期が請求され、かつ、国際出願において指定された締約国のいずれかが自国の法令により公表を延期することができないことについて(1)(b)の規定に基づいて宣言を行っている場合には、 (i) 国際事務局は、(ii)の規定が適用される場合を除くほか、その旨を出願人に通知する。当該出願人が所定の期間内に国際事務局に対する書面による届出により当該宣言を行った締約国の指定を取り下げない場合には、国際事務局は、当該公表の延期の請求を考慮しない。
(ii) 国際事務局は、国際出願に意匠の複製物を含めることに代えて意匠の見本が添付された場合には、当該宣言を行っている締約国の指定を考慮しないものとし、その旨を出願人に通知する。
(4) [早期の公表又は国際登録への特別なアクセスの請求]
(a) 名義人は、(2)の規定により適用される延期の期間中いつでも、国際登録の対象である意匠の一部又は全部の公表を請求することができる。この場合には、延期の期間は、国際事務局がその請求を受理した日に満了したものとみなす。
(b) 名義人は、(2)の規定により適用される延期の期間中いつでも、国際事務局に対し、国際登録の対象である意匠の一部若しくは全部についての抄本を自己が定める第三者に提供するよう、又は当該第三者に対して当該意匠の一部若しくは全部へのアクセスを認めるよう請求することができる。
(5) [放棄及び限定] (a) 名義人が(2)の規定により適用される延期の期間中のいずれかの時において全ての指定締約国について国際登録を放棄する場合には、当該国際登録の対象である一又は二以上の意匠については、公表しない
--------------- ジュネーブ改正協定 第十一条 引用ここまで ------------
日本国内に入ってきたら日本での国際意匠出願として扱われます。これは意匠法60条のXXですが、別に説明します。
拒絶の通報
指定締約国の官庁が意匠の拒絶をするものです。拒絶の場合は指定期間内に国際事務局を通じて出願人(名義人という)に通報されます。
これはあくまで、実体審査がある場合です。なお実体審査はすべての国であるわけではありません。条約の手続きに反するなどの方式審査については指定締約国の官庁が拒絶はできないことになっています。方式審査では国際事務局が出願人に補正を命じます。
ジュネーブ改正協定 第十二条 拒絶
(1) [拒絶する権利]指定締約国の官庁は、国際登録の対象である意匠の一部又は全部が当該指定締約国の法令に基づく保護の付与のための条件を満たしていない場合には、当該指定締約国の領域における国際登録の一部又は全部の効果を拒絶することができる。ただし、いずれの官庁も、国際出願の形式若しくは記載事項に関する要件であって、この改正協定若しくは規則に定めるもの又は当該要件に追加的な若しくは当該要件と異なる要件が当該指定締約国の法令の規定を満たしていないことを理由に国際登録の一部又は全部の効果を拒絶することができない。
(2) [拒絶の通報] (a) 国際登録の効果を拒絶する官庁は、所定の期間内に国際事務局に対しその拒絶を通報する。 (b) 拒絶の通報には、当該拒絶の根拠となる全ての理由を記載する。
(3) [拒絶の通報の送付及び救済手段]
(a) 国際事務局は、名義人に拒絶の通報の写しを遅滞なく送付する。 (b) 名義人は、国際登録の対象である意匠について、拒絶を通報した官庁に適用される法令に基づいて保護の付与のための出願をしたとしたならば与えられたであろう救済手段を与えられる。そのような救済手段は、少なくとも当該拒絶の再審査若しくは見直し又は当該拒絶に対する不服の申立ての可能性から成る。
(4) [拒絶の取下げ]拒絶は、その一部又は全部について、当該拒絶を通報した官庁がいつでも取り下げることができる。
--------------- ジュネーブ改正協定 第十二条 引用ここまで ------------
指定手数料
基本手数料、指定手数料があります。さらに受理官庁経由の出願では別途送付手数料も必要です。
詳しくはリンクを御参照ください。
意匠の国際登録出願(ハーグ出願)関係手数料 | 経済産業省 特許庁
第七条 指定手数料
(1) [所定の指定手数料]所定の手数料は、(2)の規定が適用される場合を除くほか、各指定締約国についての指定手数料を含む。
(2) [個別の指定手数料]締約国であってその官庁が審査官庁であるもの及び政府間機関である締約国は、宣言により、これらの締約国が指定されている国際出願及び当該国際出願による国際登録の更新について、(1)に規定する所定の指定手数料を個別の指定手数料によって置き換えることを事務局長に通告することができる。
当該個別の指定手数料の額は、当該宣言において表示するものとし、その後の宣言において変更することができる。それらの締約国は、最初の保護期間及び各更新期間について又は当該締約国が認める最長の保護期間について、当該個別の指定手数料の額を定めることができる。
もっとも、当該個別の指定手数料は、当該締約国の官庁が同じ数の意匠に対して同じ期間の保護を付与するために出願人に支払わせることのできる額から国際手続の利用による節約分を減じた額に相当する額を上回ることができない。
(3) [指定手数料の移転]国際事務局は、締約国について支払われた(1)及び(2)に規定する指定手数料を当該締約国に移転する。
--------------- ジュネーブ改正協定 第七条 引用ここまで ------------
eHagueとかContactHagueの手続きソフトが充実してくると、将来は結局、手続系の条文はソフトウェアでどんな手続きができるのか、どの画面で、何をすべきなのかみたいな感じになるのかもしれません。形式的な不備や手数料の計算ならソフトウェアが確認できますし。意匠は図面が主体で、言語の壁が比較的低いというのも向いているのでしょう。将来生成AIが乗せられたら、出願したとたんにに先行意匠に類否判断されて拒絶理由が出てきそうですね。
eHague経由の出願がほとんどということは、世界共通のソフトウェアで出願手続きができるようになると出願時点で受理官庁を通す必要性もないのでしょう。日本語でも受け付けてほしいですが。